4話 炎の証①
俺は穴から出る。何故だかわからないが今なら負ける気がしない。
「ユジル…お前それ…」
ネンスは俺の腕にあるソレに気づいたのか、声を出す。
「ああ…俺の証だ……」
「いつから持ってたのユー…?いままで無かったよね…?」
「……生まれつきみたいだ…俺は生まれつき証を持っていた。村長が証の力でずっと隠していたんだ。俺も腕にある事を認識できなかったし、村の誰もがこの存在に気がつかなかった。」
「でも…なんで?どうしてそんな事をお父さんがするの…?」
確かに最もな話だ。ソラが”何故”と思うのは当然だ。
そもそもこの世界では証持ちとそれ以外という大まかな区別がされている。それはこの世で絶対の事実。証を持つものだけが得られる力と名声。何よりもこの世の頂点である五つの国、炎の国、天空の国、金の国、大地の国、海の国に入る事を許される。
そこにあるのは、今おける最高の技術と設備、そして軍事力。
現に日々どこかの人が死に、街や村が消えていく中、五つの国は今だ傷一つない。完璧な場所だ。
その事は老若男女誰もが知っている当たり前だ。
……だからその当たり前を村長が知らないはずがない。
だが俺にはなんとなくその何故の答えがわかる気がする。ずっと体にあったからなのか、証を通して自分の能力が俺に語りかけてくる。『私を使え!』と。
恐らく村長はずっと備えていたのだこの時のために。
俺は村長の思いを証に乗せて四方八方からのそのそとやってくる黒いのを睨みつけて叫ぶ。
「起動!!!!!!!!!!」
その掛け声と共に腕の証が赤く光る。そして俺を中心に『赤』が勢いよく村中に拡がる——。
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『ネンス……ネンス!!!』
『いってーなにすんだよ!何も叩くことないだろ!』
『お前がソラとネンスと一緒に証について学びたいと言うから話しとるのに寝るやつがあるかぁ!!!』
『いや…何かいっぱい色あるなって…』
『バカたれーーーーー!!!!!!』
『ははははユーってほんとばか~』
『……もー何度も起こしたのに…』
懐かしい光景が目の前に広がっている。
けれどこれはある日の俺の記憶だとすぐにわかる。なぜなら、思わず伸ばした手が村長の体を貫いたのだ。
何度触ろうとしても煙のように掴むことができない。あぁ夢か…そう独り納得する。
光景は続く。
『まったく…いいか?もう一度言うぞ。証には色んな模様と色がある。それぞれが能力に関わる大事な要素だと言われている』
『言われてるって誰がいってんのー?』
『科学者、研究者じゃ!高名なヴィアイン・クロスを筆頭に結成された金の国の科学者たちのチームが発表したことだから間違いはない。なんといってもヴァイアンは最初に体宿る部位と能力の因果関係の法則を提唱した凄いひとなんじゃ!わかるか?』
『『………』』『はーあ』
オレ達の淡白な反応に『はーーーーーー』と大きなため息をつく村長。
そうだこのころは皆興味ないから適当に聞いてたっけ。でもこうして大人としてこの光景を改めて見ると、ネンスとソラは興味津々に村長の話を聞いている。
持ってない俺に気を使って興味ないフリをしてたんだな……。
……当然か。二人は証のせいで死にかけ、証のせいで生きてこれたんだ。知らないことならば、知りたいにきまってる。
バカはオレ独り…っと。改めて自分のバカさに腹が立つ。
『いいか?色には大きく分けていくつか意味がある。いままで発見されている色は5つ。赤、青、黄、緑、金。それぞれは類似した能力を得るとされている』
『へーそれ以外にはないの?』
『無い!…かもしれん。わからんがな。もしかしたら白や黒なんかもあるやもしれん。新しい証を探す職なんてのもあるらしい。
『『………』』『はーあ』
『例えば、ソラ。お前の青の証なら、『幻』。人を惑わすタイプのものが多いらしい』
『ふーん……』
そういわれるとどこか不機嫌そうにしているソラが昔から印象的だった。
『ネンス。金色のお前なら『力』関係のものだ。身体を強化するものから様々で、一番多い色とも言われている』
『そうなんあー』
『やる気のない声を出すんじゃない!』
『ふへー…』
『じゃあさ村長』
ここで俺はなんでか色に興味をもったのかはわからない。自分には話を振られることがないのが嫌だったからか。それとも純粋な興味からかは思い出せない。ただ確かに聞いたのだ、
『赤ってどんな能力があるの?』
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次の瞬間、俺は元に戻っていた。夢…?いや…あれは…
そんな考え事の最中でもお構いなしに村中の黒が俺達に向かって襲いくる。そんな絶望的な状況でも俺の思考はまるで、周りの時が止まったかのように全く違う事を考える余裕があった。
————こいつらに意思があるのかはわからない。現に俺は一度見逃されている。二人には急いでいたせいで聞けなかったが、無傷で家まで来れた事を考えるに、恐らく二人も危害を加えられたりはしなかったはずだ…。にもかかわらず今になって襲いかかってくる事のワケそれは何故だ?『奴』の思惑?そもそも何故この村がこんな事になる?頭の中の疑問は尽きない————が……
「まずは目の前の事を片付けるのが先決だよな…」
目と鼻の先まで黒の軍勢が迫る。後ろの穴で見ていたソラが
「ユジル!!」
と声を荒げる。思わず名前を呼ぶほどに焦っていることが伝わってくる。
『赤は超常の力を引き出す。炎や水、雷といった自然の力を操る。それだけに使用者は少ない。もし…お前がいつか操るならワシは、炎を操るユジルが見たいなぁ…』
『なんでぇ?熱いじゃん』
『はは。だって炎なら悪いものも全部燃やしてくれるじゃろ……?ならワシが悪い病気にかかった時に、お前の炎があれば安心じゃ…』
『……それ…医者に診てもらいなよ』
『いやじゃ…あいつらは信用できん!!!!』
『おっさんがそんなこと言っても可愛くないぞ』
『ははははは』
なんてことがあったことを思い出した。その思い出が俺の足に力をくれる。
あんなにも震えていた黒い兵隊に向けて走り出す。
俺の頭の中で考えている動きとは裏腹に一直線に走る。それでも大丈夫だとソラに声をかけるよりも先に体が自動的に動き出す。
目の前に迫った二体の黒を左の手の一振りで放った炎で横薙ぎにする。そのまま間髪入れずにもう片方の手で接近してきた一体に向かって遠心力で勢いの乗った右の手で拳を突き出す。腹を貫きその黒は消滅する。
「大丈夫だ」
そう親指を突き出しながら後ろの穴にいるソラとネンスをに向けて笑みを作る。
そのまま俺は前を向く。(村長の家は村全体で見てもど真ん中だ。全方位から敵が来る。一方に集中しすぎれば後ろの二人を守れなくなる…。数は……前から20…右15…左33…後ろ……40!…俺はここから動けない…だったら!)
まずはと目の前に炎を展開する。その纏まりの無い炎を一つに凝縮していく。今の俺が込められる限界までギチギチにした炎の球。あっちこっちに向かおうとしつつも球の形を保っているソレを手に持っていた短刀で一閃する。すると中にいた炎は外に出れた事を喜ぶかの様に四方へと飛んでいき、襲いかかる敵を次々に灼いていく。
次に、獣をイメージした炎を創り出す。まるで牙持つ獣のようなその炎は、一瞬で近くの黒いヤツへと向かい、ソレを飲み込んだ。それだけでは満足し足りないのかそのまま、次々と飲み込んでいく。
次にさっきの拡散弾よりもっと効率の良い炎を創り出す。小さな炎を空へと打ち上げる。その炎はフワフワと空へと昇り、弾けてさらに小さな炎へと変化する。そのまま黒の中へと入り込み内側から敵を灼いている。
次に蛇の様な炎を創り出す。その炎がネンスとソラに近づいてくる敵を体をしならせながら、迫りくる黒い兵隊を縦に横にと薙いでいる。まさに一瞬にだ。
次に俺の四肢に炎を纏わせる。俺は導かれるがままその炎を後ろから迫る黒へと思いっきり叩きつける。敵を貫き、殴り、蹴る。狩りで行っていた動きに炎がついた感じだ。身体能力も上がっているのか、無茶な動きをしているのに息も切れない。
右、左、上と襲いかかってくる敵を次々と撃破していく。
それはまるで炎と遊ぶかのように軽やかに。
そのまま俺と炎達は暴れ続け、気づけば俺達に向かってきていた100体もの黒は一瞬にして灰になった…。いきなりの事にネンスもソラも…そして俺ですら驚いている。何故かはわからないが、俺は初めて使うはずのこの炎の使い方がわかるのだ。
辺りの気配を探る。
「……うん……どうやら落ち着いたかな……?」
どうやらこっちに向かっていた黒は今ので全部だったのか、付近には敵の気配は感じられない。ただ村にはまだ何体か黒の生き残りがいるみたいだ。
ならば…とさっき作った生き物のような炎を今できる自分の体力の限界まで油断なく一杯に作る。
「いけ…」
その命令とともに、炎達は嬉しそうに瞬きながら村中へと飛んでいく。
…それにしてもわからない事だらけのこの状況で、俺も二人に向けてなんて言ったものか…と頭を悩ませていると
「…綺麗……」
俺が炎を操る姿をまじまじと見ていた思わずソラは声をあげる。人間命の危機に瀕していればいるほど、物事が綺麗な光景に目を奪われるのだろうか?。それはネンスも同様なのか、ソラを抱きしめながら、目をキラキラと輝かしている。
「ああ…生き物の様な動きを持つ赤い炎、そしてソレを体に纏うだと……。なんだよそりゃあ……めちゃくちゃかっけぇじゃねーーの!!!!」
「いやいや!二人とも真っ先に言う事それじゃないでしょう!」
もっと俺が証もってるの?とか言うべき事があるでしょ!と思わず二人に突っ込む。
「うん!これまるで、昔村にあったっていう番火みたい!」
「そうか?普通の炎だって」
「ああ!これならユジルの腕に種でも埋めとけば、フレアの実とかなるんかな?」
「お兄ちゃんって本当にバカ!人間から植物は生えないから!」
言ってみただけじゃねーの!怒んなよソラ…」
……どうやら俺の話は二人の耳には聞こえていないらしい……。気がつけばいつもの兄弟喧嘩が始まっている。
二人はすっかり俺の証の炎に大興奮だ。……さっき放った炎から情報が伝わる。どうやらさっきの戦闘に参加していなかった黒いのもどんどんと俺の炎に呑まれて消えていっているらしい。村中へと飛んでいっている炎の感じからそろそろあの『黒い兵隊』ってやつはもうすぐ掃討できるだろう。感じからしてあいつらざっと200体ってところか…?いったいどうやってコレほどの数を一斉に村の中に配置できた……?村長の言う『奴』ってのは何者だ…?
「うっ…」
急に激しい頭痛が襲ってくる。
流石に初めてで無理をしすぎたか。…恐らく、無理に力を使いすぎたらしい。村に放った炎がだんだんと消えていく感覚がある。
それでも村を脅かす敵を倒せた後でよかった……。
まぁ…これで安心して、村長を埋葬してやれる…。
俺は崩れるように地面に座り込み深く、深く息を吐き出した。
申し訳ありません。振り仮名など細い修正の仕方がわからず、以前上げたものを削除し新しいものを再度投稿しました。