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死神候補生はじめました【第二部完結】  作者: 岬
死神候補生はじめました
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3章-2


「ランダムのグループかー」


はあ、と大きなため息が聞こえた。

アレックスの大好きな実技の授業が卒業試験の説明に消えたことも手伝って、相当テンションが下がっているようだ。


「俺エリオとやりたいなーグループ。選べたらいいのに」

「炎と風だからな。微妙だな」


俺も正直アレックスと一緒だと心強い。

二人部屋の相方として入学当初からそばにいたし、混血と貧乏家庭ということもあって同じように貶されてきてそれこそ四六時中一緒にいた相手だ。

癖も性格も把握しているし、チームワークも自信がある。


グループはランダム、と言っても学校側が一番力を引き出せる相手を組み合わせるらしい。

自分が一番力を出せる相手、と言って思い浮かぶのは当然アレックスだ。

しかし、問題はお互いの属性。


原則として、チームを組むのは相剋効果のある相手である場合が多い。

お互いの弱点を補い合うとか、そういう理由だ。

そして、その間に潤滑油の役割を務める属性が挟まれる。


炎の自分ならパートナーは間違いなく水になる。

しかし、反発しあう力の間に入る属性は風である可能性が結構高かったりもする。

つまり、五分五分というところだ。


ただ、風属性はわりとどの四大元素とも相性がよく重宝されることと、アレックスの圧倒的な力を欲しがる奴がわんさかいる中で、そのパートナーに選ばれようと思うとぐっと可能性が減るだろうけど。


「発表今日の午後だっけ」


アレックスは机に突っ伏して、見たいような見たくないような、と小さく呟いた。


「食事の後に三年全員集まって発表って言ってなかったっけ、先生」


そっかーとアレックスが本日何度目か分からないため息を吐く。

一緒だといいな、なんてそんなことを言い合ったところで、次の授業の開始を告げる鐘が鳴った。






午後になると、生徒はみんな大広間に集められた。

大きな学校なのは知っていたけど、三年生が全員集まるとかなりの迫力だった。


小さな村の人口はありそうな人数が一か所に集まり、死神として送り出すためか、俺たちを見下ろすために作られた壇上には学校の先生が全員勢ぞろいしていた。


「これより、卒業試験の組分けを発表する」


そう宣言したのは、学校の理事長だった。

その言葉と同時に、壇上に置いてあったマイクの前から理事長が離れる。

一旦壇の脇に理事長が引っ込んだ。


そして、その瞬間に大広間の空気が変わる。

壇上に並んだ先生たちが一斉に姿勢を正す。

少しだけガヤガヤしていた生徒も空気に飲まれて口を閉ざした。


脇にくくってあった幕が僅かに揺れる。

そして、舞台袖から一人の男が現れた。

赤に近い濃い紫の軍服。

それは、死神の中でもエリート中のエリートだけが着ることを許された色。

この世にたった五人しか存在しない王様直属部隊の為だけに用意された特別な軍服。

きっちりと被られた軍帽のせいで顔はよく見えなかった。

それでも、黒い軍靴が床を鳴らす音だけで、こっちの動きを止めるには十分だった。


圧倒的。まさに、その言葉に尽きた。


歩いているだけで圧倒される。

気を抜いた瞬間に倒れそうだと思った。

ビリビリと肌を刺すような空気の鋭さにまともに酸素を吸うことも、指先を動かすことすら出来ない。


男はマイクの前に立つと、何もできずに雰囲気に飲まれた卒業生たちを、まるで虫けらでも見るかの様な瞳で見下ろした。

たったそれだけで、心臓を握られた気持ちになる。


きっとこの男が本気になれば、ここにいる全員なんて一瞬で殺されそうな、そんな空気。


「貴様らごときに微塵の期待もしていない。それでも精々塵掃除くらいは出来る死神になるんだな」


最後に生徒を一瞥して、男が歩きだす。

男の姿が見えなくなって、やっと体に籠っていた嫌な力が抜けた。


ほんの数分の出来事だったというのに、背中は嫌な汗でぐっしょりと濡れていた。

あまりのオーラに、まともに動くことすら出来なかった。


「あれが、王様直属部隊。トップ五」


いつか母さんが直属部隊は化け物しかいないと言っていた言葉を思い出す。

確かに、その通りだ。

ぽつりと呟いた言葉に、隣に立っていたアレックスがいや、と小さくこぼした。


「あの男はその直属部隊を指揮している存在だ。つまり、事実上の死神トップ。なにもしねぇであの

オーラかよ」


ただの化け物だな、と言われた言葉に頷く。

騒然としていた広間にもう一度壇上に戻ってきた理事長が大きめの咳払いをした。


壇上の袖も見える位置にいる先生たちの顔からも緊張が消えていて、あの男はさっさと帰ったんだろうと分かる。


一体何をしにナンバー1が顔を出したのか分からない。

歓迎の言葉を言いに来ただけの様には見えなかった。


僅かに瞳を細めたところで、理事長が注目、と短くマイクに言う。

生徒たちの視線は理事長の方に向いた。


それを確認してから、理事長はパチリと指を鳴らす。

パッと現れたのは小さな箱で、一番上に丸い穴が開いていた。

理事長はそれを抱えてもう一度生徒の方を向く。


「卒業試験の説明をする」


生徒たちに、さっきとは違う緊張が走った。


「この箱には特別な魔法の力が宿っている。中に手を入れると一枚だけ紙が入っているからそれを各々取るように。そこに書かれた番号が卒業試験のグループ番号となり、同じ番号の者が三人でグループを組むことになる」


質問は?と言われた言葉に、各々生徒たちは周りの人の顔色を窺った。

質問を名乗り出る者はいなくて、理事長がよろしい、と呟く。


「先頭から順番にくじを引きに来なさい」


理事長がそっと辺りを見渡し、体全体に緊張が走った。



「これより、卒業試験のグループ決めを行う」



その言葉が会場全体に響き渡る。

一人目の生徒がゆっくりと、緊張した足取りで壇上に登っていった。




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