3章-1
人生が決まる瞬間というのが、人には必ず訪れる。
立ち会った瞬間にソレと分かる場合もあれば、然るべきときに分かる場合と様々だが、必ずそういう時は訪れるのだ。
たとえば、俺の場合はこの学校へ来ると決めた時。
その瞬間紛れもなく俺は人生の岐路とやらに立っていて、自らの意志で選択した。
そして今、また人生が決まる瞬間に立ち合っている。
前回と違うことと言えば、そこに俺の選択する余地が混ざっていないというところくらいだろう。
それでも、自分たちの意志とは関係なく、人生は何らかの転換を見せるはずだ。
それはきっと、運命なんて簡単な言葉で片付けられてしまうものではなくて、もっと大きく重たい言葉、たとえば宿命のようなそれだ。
黒板にでかでかと書かれた文字を見つめながらそんなことを思う。
…ついに来た。
教室全体がざわめき始める。
あのアレックスですら、寝ずに黒板を見つめていた。
『卒業試験』
それは、ここにいる全ての人の運命を決める言葉。
死神として揺るぎない地位を得られるか、それとも落ちこぼれと後ろ指を指される人生が始まるか。その瀬戸際に、ついに立たされたのだ。
「知っていると思うが、試験の内容は筆記と実技だ。各々属性に合わせて学校で指定した三人のグループを組み、グループごとに合否を決める。実際の仕事は二人組だが、まあ学生ということで三人となっている」
シン、となった教室に、抑揚のない先生の声だけが響いた。
全員が、呼吸すら忘れる勢いでその話に耳を傾けている。
「同じクラスのやつになるか、それとも違うクラスと組むことになるかは全部運次第だ。まあ、俺たちの仕事はペアを組んで動くことが多いからな。どれだけ気に入らない相手でもバディだと言われたらその日から命を預けて仕事をすることになる。だから、理不尽と思うかもしれないが、初めて顔を合わせたり好きでも何でもない相手とでも連携を取って戦えるかの試験も兼ねている。その辺も忘れず取り組むこと」
死神になれる資格を出すのはこの学校だけなのもあって、在籍している生徒は相当多い。
だから、三年も通っていようと顔すら知らない人は山ほどいる。
クラスも、寮の部屋ですら入学した時から変わらない。他クラスなんて名前もよく知らないやつが多い。
つまりは、ここも運の見せどころというわけだ。
誰と当たるか。
それによって試験の結果も大きく変わってしまう。
それを分かっているから、生徒全員がなんとも言えない緊張感に包まれているのだろう。
重たい空気に変わった教室を見渡して、先生は小さく肩を竦めてみせる。
「ま、すべては神のみぞ知るってやつだ。とりあえずグループが発表されてからはグループごとの卒業対策の授業が加わるのでそのつもりでいるように。以上」
先生の話がそこで終わる。
何とも言えない緊張感は、先生が出て行った後も教室全体を覆っていた。




