2章ー2
カーテンから差し込んだ光に瞳を瞬かせる。
大きく伸びをしてから、ベッドサイドに置いてあった目覚まし時計を止めた。
毎朝セットはしているけれど、実際は鳴る前に止めてしまうので意味がない。
それでも、万が一起きられなかったら、という保険のためだけにこいつはここに存在している。
いつか素晴らしい音色を奏でるその瞬間を信じて。
「…なんてな」
小さく呟いてベッドから出る。
学校から支給されている青いストライプのパジャマを脱いで、ハンガーにかけておいたカッターシャツを羽織る。
ボタンを留めながら洗面所に向かい、歯ブラシを咥えてまた部屋に戻った。
俺の朝は早い。
歯磨きをしながらひとまず熟睡中の同室者を足でつつく。
起きないのは今までの経験上分かっているので、ん、と僅かに声が漏れただけで良しとする。
歯磨きを終えてまた洗面所に戻る。
口を濯いで歯ブラシを置く。顔を洗ってまた部屋に戻った。
案の定アレックスは夢の中に戻っている。
「アレックス、朝だぞ」
言いながら自分はさっさと着替えを始めた。
「んー」
ごそごそと、布団に丸まった物体が動く。
それを眺めながら赤いネクタイを首に巻いた。
ズボンと同じ紺色のブレザーを羽織る。
「朝ごはん早く行かないと食いっぱぐれるぞ」
「んん」
着替えを終えて鞄を開ける。
今日の授業の教科書を詰め込んで、アレックスの鞄の中身も入れ替えておいた。
「アレックス」
鞄を持って立ち上がって、最後とばかりにもぞもぞと動く山に蹴りをお見舞いした。
なにやらうめき声が聞こえたので数秒待ってみたが、それ以上の反応は返ってこない。
チラリと確認した時計はもう食堂が開く時間を指している。
それを確認するとさっき止めたばかりの目覚ましの設定時間をいじった。
十分後にセットして、ギリギリアレックスの手が届かない場所に置いておく。
「俺、先行ってるから」
「んー」
お、返事した。
珍しい、と思いながらチラリとアレックスの方を見る。
きっとアレックスが起きるのは後二十分後くらいだ。
一回鳴った時計を止めて、もう一度ベッドに戻る。
しかし、スヌーズ機能の止め方を知らないアレックスはその後五分おきに起こされ、二回目のスヌーズでイライラしながら止めに行く。
さすがにただ止めただけだと鳴り止まないことに気が付いてスヌーズの切り方を探そうとしたところで彼の意識は覚醒し始め、かすれた視界が開けた時、朝ごはんすら食べられるか怪しい時間だということに気が付いて飛び起きるのだ。
スヌーズは三回しか鳴らないんだけどな。
扉が閉まる音がする。
あと二十分後にいつものように飛び起きてまともにネクタイも締めないまま食堂に駆け込んでくる男を想像しながら、あと二十分早く起きればいいのに、とそんなことを思った。