2章ー1
真っ昼間だというのに、外はまるで夜みたいに暗かった。
光のない世界。
身分制度に阻まれたそこは、住んでいる人自身にも光はなかった。
コンクリートで埋められた道なんてなくて、むき出しの土はいつも乾いた風に吹き上げられて視界を遮っていた。
『助け合って』なんて表面上だけの言葉で、そこに込められた意味は生きるためにどんなモノでも差し出せと、そんな醜い意味だ。
一個のパンをみんなで分けて、飢えを凌げるはずはない。
それでも、この底辺の土地で誰か一人だけが裕福な生活をすることなんて許さないと、持たざる者が僅かな食料ですら堂々と奪うための言葉だけで作られたタスケアイ。
それが、俺が生まれた村でのルールだった。
二つ隣の街では、今日も食べきれなかった料理がなんの躊躇もなく捨てられているというのに。
でも、それは仕方のないことなのだ。
こんな場所でなんの力も持たないノルに生まれてしまった自分たちのせいだと、同じ人間であるにも関わらず諦める。
早く死神に魂を狩ってもらい、どうか次の生を受けるときはまともな人間として生きられますようにと、そんな願いだけを抱いてその瞬間を待つだけだ。
なんの希望もない場所。死を待つだけの場所。誰もが平等に不幸で絶望に沈んだ場所。
そんな場所で、母さんのお腹には俺という不穏分子が宿ってしまった。
ノルの子供でありながら、力を持ってしまった俺が。
この地獄から唯一、抜け出すことが出来る可能性を持つ子供が。
持たざる者の中に持つ者が生まれる。
それはとても恐ろしい事だった。
精霊に祝福されて生まれてきたというのに。
彼らの前で俺が力を使ったその日から、俺たちは馴れ合いの輪からも外されてしまった。
持たざる者の恨みはすべてが俺たちの家族に注がれた。
持たざる者しかいないこの村の中では、少数派の俺たちは圧倒的な敗者だった。
タスケアイの食料は、俺たちの家族には与えられなくなった。
かろうじて生きていられたのは、俺たちに同情してくれた家族が分けてくれたパン屑のおかげだった。
そんな生活が変わったのは一通の手紙が家に届いたおかげだった。
在学中の家族に対する金銭的な援助。
そして、死神になってからの莫大な給料。
迷いはしなかった。
必死で止めた母さんの声も、一族の掟も全部無視した。
積み重ねられた掟なんてどうでも良かったんだ。
大事なのは今で、今生き残るにはこの方法しかないと思った。
体一つで、母さんが寝ている隙に家を出た。
村の出口で待っていた男たちに連れられて、俺は学園の扉を潜ったのだ。
そして、この瞬間俺の人生は大きな転機を迎えた。
村の敗者は世界の勝者へ。
こうして、俺の見られる景色は全くの別物へと変化したのだ。