1章ー1
―遥か昔、人が住む世界は死の闇に包まれてしまった。
光を無くした世界で人は生きては行けず、滅びの時を待つことしかできなかった。そんなとき、世界を救ったのが我が国の始祖ルシフェルだった。
精霊と契約した彼はその力で死の闇を払い、再びこの地に光を取り戻した。
しかし、死の闇を払いのけた反動で、一つだけ問題が起きた。
死んだあとの魂が霊体として世界に留まり続けることになり、現世をさまよい続けるようになってしまったのだ。
それを哀れに思ったルシフェルは、自分の持つ精霊の力を人々に分け与え、力を持った者たちを集め、魂を狩る為の組織を作った。
死を死に返すことで、また新たな魂として生を受けられるようにと、そう願いを込めて。
「これが我ら死神の始まりと言われています。時代の流れと共に精霊の力を持つ者は減り続け、かつてのルシフェルのように四大元素全てを操る者はもちろん、一つの元素を操る者すら希少になりました。それゆえ、死神は選ばれしエリートのみに許された名誉職と言われているのです。まずは精霊の力を宿していること。そして王に認められこの学校の入学資格を与えられること。そして、我が校を無事卒業すること。このすべてを満たすことが死神になる唯一の方法になります。つまり…」
教科書を片手にペラペラと喋っていた先生の言葉が止まる。
ピクリと眉間に皺が寄って、鷲みたいな鋭い瞳が一点で止まった。
指がピクピク震えているのは、力が入りすぎているからだ。
入っている理由は言うまでもない。
やばい、と思って隣に瞳を向ける。
しかし、当の本人は教科書すら開いていない机でぐっすりと眠っていた。
「ボールドウィン!」
それこそ窓ガラスが震えそうなくらい大きな声が教室いっぱいに響く。
それでも寝ている男に、何かが切れる音がした、気がした。
慌てて男の足を蹴飛ばす。
アレックスが顔を上げると同時に、アレックスが寝ていたはずの机が燃えていた。
「残念。もう少し寝ていてくれたら永遠に眠れたのに」
「せんせ、それ洒落になってないっすよ」
「私の授業で寝ているからだ、馬鹿者。次は机じゃなくてお前自身を狙うぞ」
有無を言わさぬその言葉に、アレックスはすみませんと素直に謝って、燃え尽きて炭になってしまった机に申し訳程度に教科書を置いた。




