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死神候補生はじめました【第二部完結】  作者: 岬
死神候補生はじめました
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4章-3


「なんなんだよ、あのくっそ教官!」


いち早く授業を切り上げられたのをいいことに、アレックスしかいない教室で力いっぱい叫んでやった。

くそう、今思い出しても腹が立つ。


「なーにが、以上、反論は。だ!俺のことだけ目の敵にしやがって!ほんと腹立つ!」


罪のない机をガンガン叩く。

確かに、確かに俺はなにもできなかったさ。役立たずでなんの力も発揮してないだろうさ。

でも、だからってあの言いぐさはなんだ。まるで始めから立ち向かいもしなかったかの様な言葉は!確かになんの役にも立たなかったけど、戦いには行ったさ。

かすり傷も負わせなかったけど、それでも縮こまって二人に倒してもらったわけじゃない。

なのに、俺だけ減点ってなんだ。

まったくなんて理不尽な話なんだ。


「確かに。俺も同じくらいなにも出来なかったのに、なんで俺の要素は残ってお前のは消えたんだろう。あれか?そう、そうこ…相剋?」」


珍しく怒り狂う俺に、アレックスが同意しつつも最後だけ言葉を濁す。

疑問符をつけているのは、彼の座学の弱さゆえだろう。

少しでも難しい響きを持つ言葉は、必須知識であろうとも目の前の男の頭には入っていかないのだ。


「分かんない。ただ一つ分かることは、俺はあの男に目の敵にされていて、理不尽な扱いを受けているっていうことだけだ!」

「大袈裟な」

「大袈裟じゃない。ただでさえ実技の点数高くないのに、減点。減点とか…っ!ああもう!ほんと、あのくそ教官!」


いつか倒すと吐き捨てれば、アレックスが苦笑しながら肩を竦めた。

思い出すだけでも腹が立つ。

笑ってるアレックスはいいさ。

減点されても有り余るくらいの実技の点数を持っている男には分からない。

平均をなんとか保っている俺が減点される絶望を。

お前だって筆記で減点されたらきついだろうという気持ちを込めてアレックスの方を睨んで見るが、アレックスには全く俺の気持ちなんて届かなかった。

それどころか、彼の瞳が僅かにきらめく。


「でもさ、格好良くね?黒の軍服にあの鋭い水の槍!やっぱり現役は全然違うよな。ちょっと感動したし、正直かなり憧れるんだよな」


その瞳は、今日の実技の時間を思い浮かべているのだろう。

こんなアレックスの表情は初めて見た。


「マジで?そういうの透けてんのかな。贔屓だ、贔屓。天敵の香りがする。しかも、向こうは水だし。生まれながらに相性最悪」


俺が使う火は、属性的にも水に弱い。

立場も力も属性も全部向こうが優位で、挙句俺に厳しくあたるなんて理不尽以外のなにものでもない。

そんな男が自分たちの将来を決める卒業試験の先生だなんて、神にも見放された気分だ。


「それなら俺は悪くないな。相乗関係だし」


俺の嘆きを隣で聞きながらアレックスがそう言って笑う。

神どころか親友にすら見放されてしまった。


「裏切り者め!そこは友達として俺を慰めろよ」


抗議の声をあげるけれど、アレックスはそれを聞き流しながら俺の頭に腕を置く。

アレックスが長身なせいで、平均に少し足りないだけの身長でも結構な身長差があり、俺の頭はアレックスが腕を置くのにちょうど良い高さにあるらしい。

そのせいで、悔しいことに度々こんな風に頭を押さえられる。

身長が低いことを気にしている俺を(低いというのはあくまでもアレックスと比べてだ。隣に長身の男が立っているせいで小さく見えるだけで、あくまでも中の下程度だ)からかう時によくアレックスが使う手法だ。


「ハハ、勝負の世界は残酷なのだよ、エリオ君」


普段とは違う口調で喋る男に、思わず頬が緩む。


「なんのキャラだよそれは」


ばーか、と呟けばやっとイライラしていた気持ちがおさまった。

小さく笑えば、アレックスの腕が俺の頭から離れる。

同時に透き通った翡翠の瞳が、じっと俺を見つめて優しく細められた。


「やっと笑った」


柔らかい響きを持った声が誰もいない教室にそっと響いた。

その一言で、アレックスがわざと俺を煽るようなことを言ってガス抜きをしてくれたんだと気がつく。

普段からなにも考えていないような顔をして。

親友のさりげない心遣いに完全に怒りが消えて、寧ろ彼に対する感謝でいっぱいになる。


「その、ありが……」


だけど俺がお礼を言うよりも早く、その言葉を遮るようにアレックスが言葉を重ねた。


「落ち込んでても仕方ないし?それより俺たちには他にもっとやるべきことがあるだろ!」


突然変わった話題に、え?と思うとアレックスが今度は悪戯な笑みを作る。


「せっかく座学の女神が俺たちのグループに入ったんだ。交流を持つためにも勉強を教えてもらえるように今の内に交渉しよう!メリーメイドもきっと教室で一人だし、口説き落とすには今しかない!」


ぐっと拳が握られて、気合のままに上へと突き上げられた。

最低でもノート!と言った顔はやる気に溢れ、きっと今教室を覗く女子がいれば、そのハートを一撃で射抜いてしまっただろう。


ただし、言ってることはすこぶる格好悪いけれど。



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