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死神候補生はじめました【第二部完結】  作者: 岬
死神候補生はじめました
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序章


辺りはシンと静まり返っていて、小さな物音一つしなかった。


自分の呼吸音すら相手に聞こえそうで、できる限り呼吸を抑える。

上がりきった心音は直接鼓膜を揺らすようで、変に体に力が入った。


大きな岩の陰に隠れたままその瞬間を待つ。

相手も動かないのは、きっと同じ様にタイミングを計っているのだろう。


ジワジワと照りつけてくる太陽が容赦なく体力を奪っていく。

硬直したまま、もう結構な時間が経っていた。


きっと、勝敗を決めるのは一瞬。


握りしめた拳に力を込める。

意識を集中してその拳に炎を宿した。


ゴウ、と炎が燃えて、僅かに起こった風が前髪を揺らす。

流れた汗が地面に落ちて、土の中に消えていく。


先に動いたのは相手の方だった。


ジャリ、と土を踏む音。

このタイミングだ、と自分も岩から離れて飛び出した。

それと同時に轟音が響いて、自分がさっきまでいたはずの岩が崩れる。


地面に着地すると同時に大きく横に飛んで体勢を整える。

岩が吹き飛んだということは、相手がその場所にいるということだ。


次はこっちの番だと、振り返って動きが止まった。

そこにいるはずの人影が見当たらない。


「……え」


消えた? と思った時だった。


フッと自分の体に影が落ちる。

一瞬で暗くなった視界に驚いて顔を上げた時には遅かった。


空高く飛び上がった男は、まっすぐ自分に向かって落ちてくる。

不敵な光を含んだ翡翠の瞳が見えた。

それと同時に男が笑うのが分かる。


気が付いた時には目の前に男がいて、振り上げられた拳を避ける術はない。

後ろに跳ぶ余裕すら残されていなかった。


やられる…っ。


反射で、両腕で顔の前にガードを作る。

衝撃に備えて体に力を込めた。


「そこまで」


その声がすると同時に風を纏っていた男の拳が止まる。

拳はこちらに触れる直前で、声が掛かるのが後一秒でも遅かったら直撃を食らっていただろう。


男が拳を下げる。

脱力して地面に倒れこんだ俺に気が付いて、そっと手が差し伸べられた。


少し長めの赤毛の髪が風に揺れる。

目の前に立った男は翡翠の瞳を細めてどこまでも爽やかに笑った。


「また俺の勝ちだな、エリオ。昼はお前の奢りな」


差し出された手を握り返す。


「そんな約束してないだろ、アレックス」


お前に負ける度に奢ってたら破産する、と付け足せば、そうだっけ? とアレックスはイタズラに笑って俺の体を引き上げた。



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