卒業式からの旅立ち
桜舞い散る春の季節。
花見で知られるこの時期には桃のように甘酸っぱい別れの儀式が毎年のように執り行われる。
その名も『卒業式』。
ある者は笑い、ある者は泣いてそれぞれの学び舎を去るのだ。
自分を育ててくれた親や先生に感謝し、苦楽を共に分かち合った学友達とカラオケ等に繰り出す。
そして悔いのないように目一杯羽を伸ばす。
社会人としての門出を祝う今日を一体どれ程待ち侘びたのだろう。
親は感無量である……子供が社会に飛び立つ準備を整えたのだから。
……その時俺の思案を遮る声が響いた。
「卒業証書授与。元気モリモリご飯パワー大福うどん5年」
卒業式にお馴染みの◯線上のアリアに被せて校長は卒業生達に卒業証書を手渡して行く。
今現在我らが大学は体育館で卒業式の真っ最中。
漠然とした淡い期待から待ち望んだ筈の俺の青春は刻一刻と終焉に近づいているのだ。
「誰だよ。こんな糞みたいな元号考えた奴。蝿の王か?」
小さく呟いた彼の声はBGMの音に掻き消される。
そう。今日俺の大学生活はこの式の終了を以て終わりを迎える。
俺の目の前には着物で着飾る名も知らない同期達がパイプ椅子に腰掛けている。
呼ばれれば返事し次々と壇上に上がっては下りて行く同期達。
俺という存在を明日まで認知してくれている人間はこの中に一人として居ないだろう。
……オリエンテーションで知り合いを作ろうにもからっきし、サークルに入っても馴染めないで幽霊化。
遂には今日まで努力は身を結ばなかった。
「高城宗介!!︎」
そんなこんなで自分の番が回って来た。
俺は元気良く返事をし足を踏み出した……筈だった。
開けている窓から風が入り込み俺の着物の袂を靡かせた。
キィイイイイ‼︎
瞬間ブレーキ音が俺の耳を劈く。
見るとトラックが目と鼻の先まで迫ってきていた。
事態を呑み込めない俺を爆走するトラックが有無を言わさずに轢く。
意識を手放す間際に俺は今まで見ていたのが走馬灯である事を悟る。
(俺の人生何だったんだ……)
あんな事もしたかった。
こんな事もしたかった。
少なくとも童貞のままで死にたくなんてなかった。
俺は何で何時もこう鈍臭い?
(糞が)
自分の今までの人生を悔いながら意識を手放した。