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女神と邪神に育てられた少女は人類最強のようです  作者: りんご飴ツイン


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第二十二話 明確なる力の差

 

 遥か昔、神々の領域には多種多様な神が君臨していた。


 破壊や再生といった根源を司る神から愛や娯楽といった枝葉を司る神と様々な『分類』に分かれていたという。


 一なる光を手に入れる前の女神にも何かしら司る象徴があったのだが、今となっては関係ないことである。


『そうだ』


 果たして誰がはじまりだったのかは不明だ。あるいは一部を除いた皆が前々からそう考えていたのか。


 誰かは言う。


『神とは「大勢」より完全なるものとして望まれている。だというのに、各々が異なる「分類」を司っているのはおかしくないか? 本当は、それら全てを司ってこそ完全なる神様と言えるはずなのだから』


 その頃の神は己が司る『分類』においては他の追随を許さなかったが、それ以外においては他の神よりも劣っていた。破壊の神が何かを生み出すことにおいて創造の神に敵わないように、完全と呼ぶには不十分だったのだ。


 そんなものは『この世界』の大多数、神を信ずる生物が望む完全なるものとは言えず、もって正しくない。


 であればどうするか。


『というわけで、だ。望まれるが完全を手に入れるためにも、皆の「分類」を統合しようではないか』


 神々の領域には様々な神がいて、各々が異なる『分類』を司っている。ならば、その全てを一なる者に集めればありとあらゆる『分類』を手に入れた完全なる神様が出来上がることだろう。


 ──神には習合という概念がある。神格同士の性質が混同、片方がもう一方を完全に飲み込んで同一化するというものである。


 元より『混ざり合うこと』が性質の一つとして組み込まれたのが神であるのだ。だからこそ、激突して喰らい合うことに忌避感もなかったのだろう。


 殺し合って、勝ったほうが負けたほうの力を取り込む。それを繰り返せば完全なる神様となれる。それを正しいと言えるのが大多数であり、多数派とはすなわち正しいことだった。


 そうして終焉大戦、神々の殺し合いは勃発した。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、そのことに疑問を持つことすらなかった。


 なぜなら、そう望まれているから。

 神とは完全であれというのが正しいとされているのだから。


 そんな風にしか生きられなかったからこそ、現在生き残っている神は女神と邪神の二柱のみなのだろう。



 ーーー☆ーーー



 異形の男は特に表情を変えなかった。

 変えるほどに感情を動かす理由がないのだ。


 紫電の剣、『持続』する雷撃を受けても、だ。


「舐めんじゃねーぞあァん!?」


 バヂィ!! と迸るは紫電。コートの毛が逆立つほどに蓄えられた静電気を増幅しての一撃はまさしく横殴りの雷撃だった。十メートル程度の魔獣であれば炭化するだけの破壊力を秘めているのだが──腕の一振りだった。たったそれだけで火花が散るように儚く霧散したのだ。


「しっかし、あれだあ。突っかかってくるなら、せめて『喧嘩』できるだけの力を持っていてもらいたいものだよなあ」


「テ、メェ……ッ!!」


「じゃあなあ、人間」


 異形の男は淡々と作業をこなすように左腕を持ち上げる。直後、ぐぢゅっ!! と左掌から噴き出した赤黒い閃光がリーダー格の男に向けて放たれた。


「チィッ!!」


 負けじとリーダー格の男もコートの静電気を増幅した横殴りの雷撃を放つが、光であるというのに腐ったような粘着質な音を響かせる赤黒い閃光にぶつかった途端に消えるのだ。


 ロウソクの火を吹き消すように、熱湯の中に氷を放り込むように、まるで初めからそこにはなかったかのように跡形もなく。


「マジかよおい!!」


「くそっ。これはシャレにならねえぞ!!」


「だあこんにゃろーっ! だからやばいって言ったのにぃーっ!!」


『スカイサーベル』の面々も(素行はともかく)Aランクパーティーの一員にふさわしい魔法を放つが、結果は同じだった。粘着質な赤黒い閃光。その前に等しく消え去っていく。


「まったく!! 今からでも遅くはないっ。ここは私が何とかするから、早く逃げるのよ!!」


「ふざっけんな!!」


 太く長い槍を構えて突っ込もうとした副団長クリスフィーア=リッヒマータの肩を掴み、リーダー格の男は苛立ったように叫ぶ。


 敗北では済まない、明確な『死』を前にしても彼は己を曲げる気はなかった。


「どこの世界に女に庇ってもらう男がいるってんだクソッタレ!! つーかまだ勝敗は決してないだろうが!!」


「はぁ!? 流石に頑固すぎない!?」


 その間にも赤黒い閃光は迫っていた。

 Aランクパーティー『スカイサーベル』や大陸を統一したアヴァロンが誇る騎士団のナンバーツーを前にしても止まることなき絶望が。


 大陸でも上位の面々の猛攻を軽々と消し去る閃光が彼らを呑み込む、その寸前のことだった。



 バッッッヂィン!!!! と。

 異形の男の左腕、すなわち赤黒い閃光を放っていた出力口が真上へと跳ね上がったのだ。



 出力口の動きに合わせて赤黒い閃光もまた上空へと軌道を変える。ヂジッ、とリーダー格の男の髪の毛を掠めた閃光はそのまま空に飛んでいき──ボッッッ!!!! と雷雲の一部を吹き飛ばした。


 雲を貫くほどの射程距離があること、もそうだが、それよりもまず初めに気になるのが……、


「あ、ァん……? 人の喧嘩に横槍入れやがったのは誰だ!?」


「不可視の……そう、そうよ、空気っ。ということは!!」


 不愉快そうに吐き捨てるリーダー格の男の隣で副団長は歓喜にガッツポーズまで決めていた。


 感情のままに、叫ぶ。


「遅いのよ、団長ぉっ!!」



 だんっ!! と。

 その叫びに応える形でその男は副団長たちの前へと降り立った。



 齢五十を超えながらも未だに『成長』を続ける規格外の人間。アヴァロンが誇る騎士団の頂点にして大陸最強の最有力候補との呼び声高いその男は血液で形作られた右腕を軽く回しながら、異形の男を見据えていた。


「状況はよくわからないが……貴様、クリスフィーアや民間人たちを殺そうとしていたな? それに、そこで倒れている嬢ちゃんをやったのも貴様だな?」


「だったらあ? そうやって突っかかってくるのは勝手だがよお、そこの有象無象みたいに俺っちがちょろっと力を振るう程度で死にそうになるだけじゃないのかあ?」


「認めたなら、それで十分だ」


 瞬間。

 瞬きをする間、なんて次元ではない。瞬きの途中、完全に瞳を閉ざす暇もなかった。


 地面を蹴る音さえも遅れる中、間合いを詰めた騎士団長の鮮血の拳が異形の男の頬を打ち抜いたのだ。


 建物を複数ぶち抜いて、轟音が連続してから初めて副団長たちは異形の男が殴り飛ばされたのを認識したほどだった。


「殺人未遂その他諸々の罪で拘束させてもらう。とはいえ、どうせ抵抗するだろうから、先に無力化させてもらったがな」

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