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第二話 弱い奴が悪いから

 

 アヴァロンが大陸を統一して百周年を祝う王家主催のパーティー。その最中に空間が引き裂かれたとしか思えない異変の後に出現した少女の拳が男爵令嬢を打ち抜く。


 第一王子にすがりついていたアイア=ハニーレック男爵令嬢はそれはもう凄まじい轟音と共に吹き飛んでいった。


「ふう。やっぱり旅の醍醐味は人助けだよね。悪は破れる定めなんだよ、キラン☆」


 ずばびしぃ!! と決めポーズの少女。

 彼女は満足そうに笑い、灰色のマントを翻して立ち去ろうとする。


 そこで、ようやく、呆然と事態を見送っていた第一王子がハッと表情を動かし、少女へと叱責を浴びせる。


「きっききっ、貴様ぁあああ!! アイアに何をしているう!?」


「何って、お仕置き?」


「お仕置きだと!? なぜアイアにお仕置きする必要がある!?」


「だってそのアイア? っての男を誘惑して意のままに操るサキュバスとしての力で色々してたっぽいもん。周りより力があるからって悪さをしていいことにはならないってお母さんも言っていたし、ちゃんと止めてあげないとね。……お母様は弱い奴が悪いから配慮する必要なんてないって言っていたけど」


「サキュバスだと!? そのような過去の遺物が存在するものか!! 神話の存在は全てかつての人魔戦争で絶滅したのだからな!!」


「ん? 人魔戦争って確か『こちら』に留まり続けている悪魔たちが弱いものいじめしたくないから人間に住処を譲ってあげただけだってお母さんに習ったような???」


「わけのわからんことを!! 騎士ども、恐れ多くも大陸統一百周年を祝うパーティーに紛れ込んだ女を始末するがいい!!」


 第一王子の言葉にどこからともかく鎧を纏った騎士が集まる。第一王子直属の騎士。王族を守護するにふさわしい精鋭たちが少女を囲み、腰の剣を抜いたところを見たミーリュアが慌てたように飛び出す。


 少女を庇うように、前へ。


「待ちなさい! 騎士ともあろう者が女の子一人を前にして剣を抜くのですか!?」


「第一王子様の命令です」


「命令ならばなんだって従うのが騎士だとでも!? 主人が間違っている時は諫めるのが真の騎士ではないのですか!?」


「それに、その者は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「な……っ!?」


 その言葉に、悪寒がした。

 何かがおかしい。いくら大陸を統一して百年もの間争いらしい争いもなく平和ボケしているとしても、これは流石におかしい。


 ()()()()()()()()()中、ミーリュアは少女の言葉を思い出す。


 男を意のままにして操るサキュバス。

 もしも少女の言う通りアイア=ハニーレック男爵令嬢がかつての人魔戦争で絶滅したはずの悪魔であるならば、この異常な展開にも説明がつく。


「逃げなさい……」


「ん?」


「ここはわたくしが時間を稼ぎます。ですから、早く!!」


 果たしてミーリュア=ヴィーヴィ公爵令嬢にどこまでできるか、それはわからなかった。それでも何もしないわけにはいかない。アイア=ハニーレック男爵令嬢の狙いがなんであれ、これ以上の狼藉を許すわけにはいかない。


 公爵令嬢として、被害を最小に収める必要がある。


 だから。

 だから。

 だから。



「いやいや、普通強いほうが矢面に立つもんだって。だから、ほら、下がるのはお姉さんのほうだよ」



 年下だろう少女を庇うように前に出ていたミーリュアを、さらに少女が追い越す。その背中が、語る。


「それに、そんなに心配しなくてもあの程度の連中を相手にするくらい問題ないって。何せ私ってばお母様やお母さんに育てられたからね!!」


「まっ……!!」


 少女が、動く。

 相手は第一王子直属の騎士。並の魔獣であれば軽く両断する精鋭へと丸腰の少女が突っ込んだのだ。



 ーーー☆ーーー



 この世界の魔法とは、基本的に増幅である。


 そのため、魔法を使うにあたって人間は象徴を用意する。剣であれば『斬る』、槍であれば『突く』のように、その道具本来の性質を基に底上げするのが一般的なのだ。


 もちろん何も用いずとも魔法は使えるが、象徴という取っ掛かりがない分高度な技量を要求される。というか、そんなことができるのは基本的に神話級の怪物たちくらいのものだ。


 ゆえに騎士たちは腰の剣を抜いていた。剣という象徴を軸に切断力を底上げ。加えて鎧という象徴を軸に防御力を底上げする。


 攻守一体。

 基本的な戦闘スタイルではあるが、基本的だからこそ堅実。第一王子直属の騎士にまでのぼりつめた実力がそのまま反映されている。


 ゆえに騎士たちは待った。

 無謀にも突っ込んでくる少女の一撃を鎧で受けた上で、返す刃で両断するために。


 何せ少女は丸腰だ。もちろん何かしらの象徴を隠している可能性もあるので油断は禁物だが、それでも受け切れる自信があった。


 アヴァロン最強の騎士団長を除けば、彼らは騎士の中で最高峰に位置する。そんな彼らに太刀打ちできる無名の存在など、今の大陸には存在しない。


「お母様も弱い奴が悪いって言っていたし、ちょっくらぶん殴るけど許してねっ」



 ゴグベグバッゴォォォンッッッ!!!! と、少女が騎士の群れに飛び込んだかと思えば、およそ四分の一の騎士が宙を舞った。



 そう、四方を囲む壁の一方に突っ込み、ぶち壊したとでも言わんばかりに。


「なん、だ!?」


「へいへい、そっちから喧嘩売ってきたんだから集中しゅーちゅーっ!」


 たん、とんっ、と軽やかに残りの騎士へと迫る少女。意識の空白を詰めるように、間合いへと突入する。


「ッ!?」


 咄嗟に切断力を底上げした剣を横薙ぎにするが、少女はひょいっと軽くのけぞって回避。そのまま踏み込み、後ろに下げていた頭を前へ。


 ゴヅンッ!! と頭突きでもって騎士を吹き飛ばす。


「貴様ッ!!」


「調子に乗りやがって!!」


 今度は左右から騎士が迫る。右は斜め上からの振り下ろし、左は脇腹を狙った突き。


 対して少女は両手を差し出すだけだった。そう、迫る剣に合わせるために。


 ぱし、ぱしっ、と。

 軽く、受け止める。


 薄皮すら切れることなく、まさしく軽々と。


「よいしょっと」


 ぐぉんっ!! と身体を横に一回転させる少女。それに合わせて得物を掴まれた騎士もまた振り回され──バギリッ!! と少女がその手に掴んだ刃を握り潰した瞬間、支えを失った二人の騎士が射出。残りの騎士の群れへと叩き込む。


 ゴジャア!! と鎧の防御力を底上げした、強固なもの同士が激突した轟音が炸裂する。下手に防御力を底上げしていたせいでぶつけられた時の威力もまた高まってしまったのか、数人の騎士が気絶するほどだった。


「くそっ、たれが。騎士を舐めるなよお!!」


 カッ!! と騎士の剣が光り輝く。

 剣への過剰な魔力供給によって外界にまで魔力が漏れているのだ。


「ソードブラスタァァァーッ!!」


 突き出し、噴出。

 城壁さえも斬り裂く切断力を付加した光の刃が少女の顔へと襲いかかる。


 精鋭である第一王子直属騎士の中でも数人しか使えない秘奥。盗賊退治において一度に百人斬りを果たしたことで第一王子直属騎士へと任命されることになった猛者の全力を、しかし少女はぼうっと見つめて──ぱくっと、齧り付く。


 そのままバリバリベギバギッ!! と、城壁を斬り裂くほどの切断力を付加した魔力の光の刃を齧り砕いたのだ。


「もぐもぐっ。うーん、私はもうちょっと濃厚なのが好みかなぁー」


「くっ食っ、ソード、ぶらっ、ソードブラスターを食っただとお!?」


「あっ、そうか。人間は普通魔力は食べないんだった。えーっと、えへへ。忘れてくれると嬉しいなっ」


 てへっと笑いながら間合いを詰めた少女はソードブラスターを噛み砕かれて唖然としている騎士を殴り飛ばした。


 少女は何事もなく視線を動かし、


「次はっと、貴方かな?」


「ひっ」


 じりっ、と。

 視線を向けられた騎士が後ずさる。

 歪められた意思が、恐怖に屈した瞬間だった。


 なまじ動き自体は普通なのだ。一流の武術家のものであるなんてことはない。


 だけど、強い。

 精鋭であるはずの騎士の鎧の防御を砕き、剣の切断力を潰し、膨大な魔力の塊を喰らい殺す理不尽までの暴虐。


 魔法の威力は基本的に魔力量に左右される。ということは少女の(何かしらの象徴を増幅している魔法を支える)魔力は精鋭の騎士をこれほどまでに圧倒するほどずば抜けているということだ。


 少女は攻めてこない騎士の群れを見渡し、一つ頷く。


「うん、終わりかな。良かった良かった」


「おい騎士ども! 何をしている!? 早くその女を始末しないかっ!!」


 ちゃっかり距離をとっている第一王子が何事か叫んでいたが、恐怖に屈している騎士たちは動かない。


 そこで、だ。

 騎士の群れを押し除け、前に出る男が一人。


「くっくっくっ。こいつは参った。よもやクソ退屈なパーティーが決死の戦場に早変わりとはなあ」


「貴方は?」


「ウルフ=グランドエンド。通りすがりの騎士団長ってヤツだ。嬢ちゃんはマーブルといったな」


「うんっ」


 彼は五十を超えた年齢を感じさせるシワを刻みながらもなおあまりある屈強な男だった。


 ぶち、ぶぢぶぢぶぢぃっ!! とパーティーだからと着込んでいた礼服を筋肉の膨張だけで弾き飛ばし、その肉体美を晒す。


 全身にくまなく傷跡を刻みながら、それでも生き抜いてきた戦闘狂は獰猛に笑って──数十メートルもの距離が開いていながら、右手を少女へとかざした。


「では、マーブルよ。第一王子の命令により()()()()()()()()()()()()()()()()()()()貴様を始末するが、恨んでくれるなよ?」


 瞬間。

 ゴッヅン!!!! と不可視の一撃を受けた少女の華奢な上半身が勢いよく後ろへと弾かれた。

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