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女神と邪神に育てられた少女は人類最強のようです  作者: りんご飴ツイン


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第十二話 闘争、同時多発

 

「クソッタレ! テメェら何を寝てやがるっ。殺し合いださっさと起きやがれ!!」


 リーダー格の男の叱責の後、びっくん!! と全身を跳ね上げる『スカイサーベル』のゴロツキども。


 彼らが口々にいきなりなんだよビリビリしたじゃねえかぶち殺すぞコラとか吐き捨てながら立ち上がった、その時だった。


 ゴァッ!! と降り注いだ魔獣の中でも一番大きな十メートルクラス。コカトリスが大きく開いた口から放った閃光が襲いかかる。


「嘘だろおいっ!!」


「ぎゃーっ! 死んだーっ!!」


 コカトリス。

 オロチの尻尾を揺らすニワトリにも似た巨躯の魔獣。Aランクパーティーであっても相応の準備を整えて挑むべき怪物の得意技は石化をもたらす閃光。正確には対象の硬度を増幅して身動きが取れないほどに『硬く』する魔法である。


 Sランクを除けば最強を自負する『スカイサーベル』の面々であっても寝起きに襲われては抵抗できずに殺されるほどの一撃を、しかし、


「えいっ」


 ゴッッッ!!!! と。

 マーブルが振るった拳が触れることすらなく、巻き起こした風だけで吹き散らしたのだ。


「な、ななっ!?」


「ああもうやっばり魔力感じないし! まさかの魔法使ってませんとか? いや魔法抜きであんなことできるわけねえわなっ。それはそれとして助かったありがっとう!!」


「ひゅーひゅーっ!!」


「はしゃいでんなクソッタレども!! 何も終わっちゃいねーんだぞ!!」


 リーダー格の男の言う通りだった。

 十メートルクラスのコカトリスは元より、『食堂通り』の至る所に大小様々な魔獣が『着地』しているのだ。


 そのどれもが決して弱敵にあらず。

 Aランクパーティー『スカイサーベル』であろうとも油断すれば殺されるだろう強敵ばかりである。


 それが、二十以上。

 目に見える範囲だけでも『スカイサーベル』の総数を超えている上、魔獣は首都全域に降り注いでいた。どれだけの魔獣が首都に投下されたか、そのことを考えただけでリーダー格の男は目眩がする心地だった。


 それでも。

 力の差も数の差も開きに開いていたとしても。


「好きにできるとでも思ったか、あァん? 魔獣どもぶつければ、俺の自由を、尊厳を、命を! 好きに奪えるとでも思ったってのかあァん!? 俺は、もう! 奪われるだけの奴隷じゃねーんだよ!!」


 彼は、そんなことで屈するような『お利口さん』ではない。


「おらクソガキッ!! テメェとの喧嘩は後だ! ド派手に舐め腐ってやがる畜生どもをぶっ潰さないと喧嘩もクソもねーからな!!」


「一緒に、戦ってくれるの?」


「仕方なくだクソッタレ!!」


「そっか。あ、だったらお願いがあるんだけどっ」


「お願いだァ!?」


「うん。私、魔獣を操って悪さを強要している『あいつ』をぶん殴って魔獣を解放してくるからっ。それまでメイド服の人とか他にもとにかくみんなを守ってね!!」


「あァん!? ちょっ、待ちやがれ! お願い聞くとは言ってねーぞ!!」


 瞬く間だった。

 リーダー格の男の返事を聞くことなくマーブルはどこかに走り去っていったのだ。


 ……立ち塞がる魔獣を、コカトリスだろうが関係なく片っ端から殴り飛ばして。


「チッ。魔獣を操っている『あいつ』とやらを倒せば馬鹿正直に全部の魔獣とやり合わなくていいってことか?」


 正直言ってどこまで信じていいかは不明。

 だが、そう。別にマーブルの言葉が本当であれ嘘であれ、やることは変わらない。


「まあなんでもいい。おらテメェら構えやがれ!! 殺し合いの時間だ!!」


 男の言葉に『スカイサーベル』の面々がサーベルを構え、魔法を展開する。


 魔獣に囲まれた現状、戦う以外の選択肢は存在しない。



 ーーー☆ーーー



 副団長クリスフィーア=リッヒマータは生まれながらに魔力の流れが視える特異体質を持つ女だった。


 その特異体質は魔法の『始点』を捉える。どの象徴を増幅するのか、またどのタイミングで魔法を発動するのかを普通の人間よりも早く視認できる彼女は魔法に関して言えば先読みのごとく対応できるということだ。


 もちろんあの大陸最強最有力候補のウルフ=グランドエンドの一つ下、二番手である副団長の看板を背負っているクリスフィーアの力はそれだけではない。特異体質程度、手札の一つと扱えるくらいには突き抜けた猛者だからこそ彼女は二十代前半という若さでアヴァロンが誇る騎士団、その副団長へと上りつめたのだ。


「邪魔よ!!」


 一突き。

 丸太と見間違うほどに極太の槍を軽々と放ち、首都の中心に走る大通りで暴れていた大蛇の頭から尻尾まで貫き進むクリスフィーア。


 ゾバァッ!! と大蛇の肉体をバターのように貫いた彼女は全身を赤黒い体液で濡らしながらも気にせず邁進していた。


 首都内部の騎士たちはすでに副団長の指示で魔獣の分布状況に合わせて出撃、魔獣の迎撃を行っている。魔獣の分布状況に応じて戦力を割り振ったので損傷はともかく死者を出すことなく魔獣を撃滅できるはずだ。……このままであれば、だが。


(まずいわね……)


 全身を金属の鎧で覆ったクリスフィーアはフルフェイスの奥で苦々しげに口元を歪めていた。


 魔獣『は』首都内の騎士たちで対処できるだろう。何せ大陸統一国家の首都に配置されているような者たちだ。いかにコカトリスなどの大型魔獣が確認されているとはいえ遅れを取ることはない。


 だが、


(この魔力の流れ……()()()()()()()()()どもを何らかの魔法で操っているんだろうけど、凄まじすぎるっ。半端な数引き連れたって犠牲者が増えるし民間人の護衛に回せる兵力が減るだけだから私だけで対応しようと思ったけど、判断誤った、かも?)


 ザザッ、と大通りの真ん中で急停止するクリスフィーア。騎士の詰所を襲っている『規格外』よりもマシとはいえ、魔獣を操っている術者もまた強敵。こうして近づけば近づくだけ予測よりも強大であったことが感じられる。


 騎士団長が『規格外』に足止めされている現状の最適解は……、


(まずは魔獣の殲滅に集中しよう。魔獣を操っている術者を倒せば魔獣殲滅が楽にはなるけど、そうやって近道を選んで躓いたら目も当てられないものね。仕方ない。魔獣を殲滅してから全騎士をぶつけよう。数の暴力でゴリ押しすれば──)


 だんっ!! と。

 思考を回していた副団長クリスフィーア=リッヒマータの正面へと降り立つ影が二つ。


 一人は頭から逆巻くツノが二つ伸び、背中からは蝙蝠のような羽を生やし、先端がハート型の尻尾を揺れ動かす深い青の髪の女だった。彼女が魔獣を操っているのは魔力の流れから確実だが、彼女もまたもう一人から縛られているのだろうか。もう一人から伸びる魔力に絡め取られていた。


 そのもう一人は透き通るような蒼色のとんがり帽子にマント。腰まで伸びた髪や瞳はおろか、肌まで同じ色に染まった特異な女だった。


 そのどちらもがこうして対面しているだけで心臓を鷲掴みにされたような威圧感を与えている怪物である。強い、と。力を振るわずともわかるほどに。


「副団長クリスフィーア=リッヒマータですわね?」


(ま、ずい! 判断するのが遅かったッ!!)


 とんがり帽子にマントの蒼の女はつまらなさそうに、


「世のため人のため、できるだけ殺すのを少なく済ませるために死ぬことですわね」


「……ッ!?」


 蒼の女がその腕を振るうのに合わせて、地面をめくり上げるほどの暴風が解き放たれた。

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