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女神と邪神に育てられた少女は人類最強のようです  作者: りんご飴ツイン


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第十一話 襲撃

 

 曇りが目立つ空から『それ』は雨あられのごとく降り注いだ。小さなもので一メートル、大きなものでは十メートルを超える『それ』が通りと言わず建物と言わず路地裏と言わず首都をくまなく襲ったのだ。



 すなわち魔獣。

 遥か過去に大量発生したことで人類を滅亡寸前にまで追い込んだこともある脅威である。



 ゴダバゴドゴバッゴォン!!!! と、降り注いだ時の衝撃だけで地面がひび割れ、建物が砕ける。まさしく雨あられのごとき勢いの『着地』だけで一体どれだけの被害が出たのか。


 天空からの爆撃でも受けた有様の中、左頬が抉れた男は舌打ちをこぼす。


「クソッタレ! ド派手に殺人祭りってか何人死んだんだこれ胸糞悪りぃな!!」


「死んだ……。ううん、違う」


「あァん!?」


 金の髪に漆黒の瞳の幻想的な少女はこれだけの惨状には不釣り合いな安堵の表情を浮かべていた。


 リーダー格の男、ではなく、どこか遠くを見つめて口を開く。


「わぁっ、やっぱり! 誰も死んでない!! 本領発揮したあの人ってこんなにすごかったんだねっ」



 ーーー☆ーーー



 その時、騎士の詰所の最上階にある執務室で椅子に腰掛けていた騎士団長ウルフ=グランドエンドはコキリと首を鳴らしていた。


 彼の魔法は空気を象徴としている。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 魔獣の群れと首都に散らばる大勢の人間の位置、『着地』の衝撃波や建物などの破損による副次的な被害を計算・予測した上で首都全域へと干渉できるだけの力がなければ死者ゼロという結果は残せなかっただろう。


 それができるから彼は大陸最強の最有力候補なのだ。


「さて、と。では殺すとしようか」


 流石の彼も降り注ぐ魔獣へと攻撃を仕掛けた時に発生する反撃の余波まで完全に掌握するのは難しかったので一度『着地』させたが、こうして『着地』した今ならば騎士たちと連携して死者を出すことなく魔獣を殺処分できる。


 と。

 眉を潜めた彼は空気という象徴から声で振動するという性質を増幅、首都全域に散らばる全騎士へと命令を飛ばす。


「騎士団長ウルフ=グランドエンドの名の下命ずる。これより全指揮権は副団長クリスフィーア=リッヒマータに移譲する。副団長の指揮の元、首都に散らばった魔獣を撃滅せよ。また、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 以上、と締めくくった彼は首都全域に広げていた魔法を解除する。広範囲に展開すればするだけ一点に向けることのできる力は減少する。それを嫌っての行動だった。



 瞬間。

 ウルフの言葉の通り騎士の詰所を襲撃する影が一つ。魔獣の群れと同じように上空から襲いかかり、天井を砕いて執務室へと降り立つは小さな女の子だった。



 小柄な体格に比べてぶかぶかに大きな紅のとんがり帽子にマント。同じ色に染まった髪にルビーのように輝く瞳。そして、肌もまた紅に色づいていた。


 人に見えるが、どこか『ズレている』生物だった。


 袖が長く指まで隠れた右手で肩に担ぐようにねじくれた杖を持った彼女は戯けるように笑っていた。


 騎士の詰所、それも騎士団長が座す執務室に突入してきたとは思えないほど明るく、それでいてドロドロとした笑みを広げていく。


「はぁい☆ 殺しにきたよー」


「随分と物騒な挨拶だな。()()()()()()()()()()


「はっはっはっ!! それはサキュバスさまがかわいそーだってっ。あれっしょ、魔獣の群れを操っているのはサキュバスさまだって気付いたからこその発言なんだろうけど、サキュバスさまはエレインねーさまの操り人形。効率的に命を奪い、世のため人のため役立てるよう利用しているだけなんだからっ」


「…………、」


「本当はサキュバスさまの力で男操って女を殺して、その後で残った男には自殺でもしてもらうのが一番だったんだけど、()()()()ってばバッチリ『対策』しているっしょー? 若造さまが自由だと普通に制圧されそうだし、だからってサキュバスさまの操れる数にも限りがあるから男と魔獣どちらも操るってのは無理で、色々考慮したら結局普通にぶち殺すのが一番ってなっちゃったっ。全自動で人を殺せるならそっちのほうが楽でよかったんすけどねー」


「もういい」


 人を小馬鹿にしたような言葉を引き裂くように騎士団長は吐き捨てる。


 椅子から立ち上がり、外見こそ幼いながらもどこぞの無邪気な少女と違って邪悪極まりない敵を見据える。


「サキュバスは元より、他にも協力者がいるなら全員の居場所を吐いてもらうぞ」


「えー。嫌だけど?」


「貴様が嫌かどうかは関係ない。半殺しにして抵抗力を弱めれば、ラングの魔法で脳に残った情報を引き出せるのだからな」


「へー。それは困ったにゃー」


 言葉の割に困った様子なんてどこにもなかった。あくまで戯けるような笑みを浮かべて襲撃者は言う。


「でも、ちょっと舐めすぎじゃない? わたしさまは魔女の三姉妹の中でも直接戦闘なら最強の三女モルガンだよー?」


「それがどうした。平和を脅かす存在は何であれ撃滅する、それが騎士の務めなんだよ」


 一瞬だった。

 その激突は騎士の詰所の上層部を一瞬にして吹き飛ばした。

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