佐藤しおり(妹)、参戦!
【雷事件・その後】
学校から連絡があったらしく、俺が帰宅してしばらくすると母親が勤め先から戻ってきた。学校からの連絡受けて、あわてて早退したのだろう。玄関に駆け込んできた。
「ちょっとあんた、大丈夫?」
俺は心配させるのも嫌だから、大げさではなく、むしろかいつまんで雷事件の経緯を伝えた。学校からは単にケガをしたので帰宅させた旨の連絡だったらしく詳細は伝えられていなかった。だって、雷云々の話をすると大ごとに聞こえてしまいますからね。俺、雷に打たれたわけでもないし、体育館の天井から降ってきた天井の部材や照明のガラスで負傷したわけでもない。ケガの原因は床での擦り傷だし、ある意味、自爆か?
「ちょっと肘見せて。本当に病院に行かなくて大丈夫?」
救急隊員に巻いてもらった包帯をほどくと、ガーゼに血はべっとりついていたが、既に血は止まっていた。傷口見るのは怖かったが、血が止まった傷口を改めて見て、ちょっと安心した。母親に傷口を消毒してもらい、傷口に合う大きめの絆創膏を貼ってもらった。
「まあ、それほど心配するほどではないわね。」
そうこうするうち、健二が帰ってきた。
「あれ、兄貴がいる?」
「まあ、ちょっといろいろとあってね。それより俺が言った通り、今日は傘持って行ってよかっただろ?」
誤魔化して話題を変える。健二が帰ってきた時間も雨が降っていたのです。
「うん、助かった。たまにはいいこと言うね」
俺はいつもいいことを言っているつもりなのだが。健二は俺のケガについては全く知らないらしく俺もあえて言わなかったが、母親が既に自宅にいるのですぐバレた。親父にももうじきバレるだろう。別にバレて困る話ではないが、照れ臭い。
夜、佐藤から電話があったが、佐藤と話すと照れ臭さ度が倍になるので母親にもう寝たと伝えてもらった。ケガの具合は母親が伝えてくれるだろう。
翌朝、肘の痛みもだいぶん引き、元気な俺であったが、学校行きたくねー。
クラスメイトから注目され、いろいろ聞かれるの、嫌なのですよね。寝床でぐずっていると、いつものように起こされた。
「ちょっと、具合悪いので学校休んでいい?」
母親は俺の傷口を確認して絆創膏を貼り直している。
「うん、熱もないし、ケガの具合も問題ない!グダグダ言ってないでさっさと支度して学校、お行き」
俺の要望は即却下。
いつものように遅刻寸前に裏門から登校。体育館、すでに工事の足場の準備が始まっていた。俺の記憶だと2か月間は使用禁止だったはず。下駄箱あたりでぐずぐずして、チャイムと同時に教室に滑り込み。これでクラスメイトは俺に話しかけるタイミングを失うはずだ。一部の男子生徒から何か殺気を感じる。佐藤が抱きついてきたのはパニックによる偶然の産物です!
朝のHRで島野先生からケガの具合を聞かれたけど、それ以外はいつもどおり。HRが終わり、授業が始まる前のちょっとしたタイミングで、佐藤が話しかけてきた。
「昨日はありがとう。大丈夫?ところで、今週の土曜日、暇?」
「まあ、週末はいつもたいてい暇だけど」
「よかった。お父さんが私をケガから守ってくれたお礼をしたいって、夕方うちに来てね」
さてはお食事の誘いだろう。
そうこうしているうちに本日の授業が始まった。
なぜか俺には予知能力があるのでは?とのうわさが広まっている。
予知していません、思い出しただけです・・・
【佐藤しおり、参戦!】
夕方の5時半という指定だったので、きっかりに佐藤家の呼び鈴を押す。少しおしゃれな格好をした佐藤が出迎えてくれた。リビングの方ではすでにごちそうの用意ができているらしい。
指定席ではないが、たまにテスト前の勉強後にたまに夕飯をごちそうになることがあり、佐藤家のテーブルで俺が座る席は決まっている。その時に腰を掛ける席に座ると、おや、今日は妹のしおりちゃんも一緒にお食事ですね。
佐藤しおり、佐藤かおるの1歳下の妹で、俺と同じ高校の1年生。姉と顔立ちは似ているが、『私よりずっと積極的よ』とそういえば佐藤が言っていた。その当時の佐藤はどちらかというと、おしとやか。アラフォーになると積極的になるのですね。ちなみにしおりちゃん、数学は姉よりできるそうです。だからか佐藤家に顔を出しても俺とはあまり接点がなかった。
改めて佐藤パパから今回のお礼を言われて夕食会が始まった。佐藤パパ、ますます俺への好感度が上がっているみたい。ちょっと、引いてしまう。俺の将来はビンボーですよー。
今日のごちそうは手巻き寿司か。いろいろと具材が用意されている。
手巻き寿司を食べながら佐藤パパ・ママや佐藤と談笑していると、会話にしおりちゃんが割り込んできた。
「清水さんって、お姉ちゃんの恩人なのでしょ?」
「いやいや、恩人だなんてそんな大それたものじゃないよ。単に行きがかり上こういう結果になっただけで」
「でもでも、お姉ちゃん、清水君に助けてもらったって帰ってきてすごく嬉しそうだった。
ねえ、清水さん。お姉ちゃんのこと、どう思う?」
「どうって?数少ない仲のいい友達だけど」
「彼女じゃないの?」
「いや、佐藤、モテるからなぁ。佐藤の彼氏になりたい奴、多くて、勇気が・・・」
佐藤と現時点ではそういう関係にはなっていないので、俺は適当に誤魔化す。
「なら、私が清水さんの彼女に立候補していい?
なんかすごく清水さんに興味わいちゃった♡」
え?なんで?しおりちゃんと会った回数なんてほんのわずかなのに・・・
佐藤がすごい顔でにらんでいる、怖い・・・
「ちょっと、しおり。清水君、困っているじゃない」
「じゃあお姉ちゃん、清水さんのこと、好きなの?」
佐藤が真っ赤な顔をしてうつむいてしまった。まあ、俺は既にアラフォー佐藤から、今時点の佐藤が俺を好いていることはすでに聞いてはいるのですが。
「私、清水さんを貰っちゃおうかなー」
「絶対、ぜーったい、ダメェ!」
佐藤が普段の佐藤からは想像できないような大声を出す。佐藤パパ・ママは面白いものを見ているかのようにニヤニヤしながらこっちを見ている。いや、佐藤パパ、俺を気に入っているのは知っているけど、お宅のお嬢様方の喧嘩でしょ。ちょっと仲裁してもらえませんか?
さほど気にはしていないが、これじゃ、アラフォーの佐藤との約束が果たせないかも・・・
ボッチの俺が2人の女性からアプローチされるだなんて、いや、須藤さんを入れれば3人か。須藤さん、まさかこれから俺に積極的に絡んでこないよね?変なプレッシャーを感じる。