エピローグ
「ほら、わたくしの言った通りでございましょ?」
ハルトの屋敷から、すこし離れた木陰。
そこに二つの人影があった。ひとりはロリータファッションに身を包んだ少女だ。
十代半ばの幼さの残る顔立ちながら、纏う空気は鋭利なもの。
もうひとりは幼い童女だった。シンプルな黒のワンピースに、細い杖。
ふたりには、イヴのようなねじれた角が生えていた。
角は魔王の証である。
ロリータファッションの少女が、淡々と続ける。
「もうこれで放っておいても大丈夫。わたくしたちが出るまでもありませんわ」
「……よほどあの男を買っておるようじゃな」
童女は低い声で言う。
それに、少女は片眉だけを持ち上げて笑った。
「もちろん。そうでなければ、エクセラを与えたりはしませんでしたから」
「おぬしがそこまで言うなら……信じようか、愚天王」
「感謝いたしますわ、大魔神様」
少女――最強と名高い魔王、愚天王はうやうやしく腰を折ってみせた。
しかしふと、小首を傾げてみせる。
「それにしても。大魔神様ともあろうお方が、こんな些事をどうして気にかけるのです? ただの魔王や人間がどうなろうと、いつもは完全放置ですのに」
「うーん……それは、じゃな……」
童女――大魔神は言葉をにごして、ぽつぽつと。
「儂の前世はな、別世界のふっつーの人間でな。食堂を営んで、孫娘と暮らしておった」
「大魔神様の前世とは思えないほどふっつーですわね」
「それで、その前世の孫が、この世界でちょっと困った事態に巻き込まれておったら……気になるじゃろ?」
「ただの孫バカじゃないですか」
「ふん、悪いか」
開き直ったように大魔神は胸を張る。
そうして懐かしそうに目を細めてみせた。
「それにしても、あのお得意さんもこちらに転生しておるとは……世の中数奇なものじゃのう」
「会いに行かれないのです?」
「ま、今はまだよいさ。あとは若い者に任せて……というやつじゃよ」
「さようでございますか」
愚天王が肩をすくめる。
その瞬間、彼女らのそばを柔らかな風が駆け抜けた。
あとには誰の姿も残らない。
ただ静かに、二輪の花が揺れるだけだった。
(了)
完結です。お付き合いいただき、まことにありがとうございました!




