067 野心家ロドスの独断討伐
馬車がしばらく進むとオーリンさんが申し訳なさそうに問題発生を告げる。
「言いにくいのですが問題発生です。王宮からの情報なんですが、雇っていた傭兵が数人消えたらしいんです」
「それって?」
「どうもあなたたちを討伐しようと考えてるらしくて」
「それ王の命令じゃなくて?」
「いえいえ、王はそう愚かじゃありません。魔族嫌いは重症ですが、意外と無謀なことはしない人ですよ。だから私みたいなのが騎士団長になってるんだと思います」
「じゃぁ傭兵が暴走したってことかしら」
「その可能性が高いですが、もしかしたら第二騎士団の団長殿が絡んでるかも」
「それって?」
「傭兵たちを王宮へ呼び込む提案をした人物で、出世欲の強い男です」
あー、悪い予感しかしない。これはあれだ、帰り道で襲われるやつだ。
「それって、暴走なんだから蹴散らしちゃっていいんだよね?」
「私が焼き払いましょうか?」
「まてまて好戦的すぎる。人間と魔族の良好な関係を作りに来てるの、俺たちは」
迷うことなく排除しようとする二人。ちょっと頭が痛い。本当に暴走ならそれでもいいのかもしれないけど、どういう事情でそうなったのか分からない。こういうことの専門家じゃないからな俺は。軍事なんて縁のない人生だった。多少は興味があるがそれも戦闘機カッコいいな、戦車すげーなレベルで、歴史で戦争を学んだ程度だ。それなりに戦闘は経験してきたけどこういう政治が絡む状況判断なんて経験不足すぎる。
「じゃぁどうするの?」
「んー」
と言っても襲われたら対抗するしかないよな。大人しく捕まったら王宮までエスコートしてくれるって感じならそれでもいいけど、やっぱり暴走っぽいから本当に襲ってくるなら命狙われそう。とは言え何かの行き違いだったりする可能性も無いとは言えないし。
「極力大怪我させないように、殺さないように倒す……かな」
どう転んでもなんとかなりそうな選択はこれしかないかな。
「面倒ですね」
「じゃぁロナの攻撃魔法はダメね、私がぶっ飛ばして戦意喪失させるわ、それに多少の怪我なら聖女がいるんだからどうにでもなるじゃない」
アーニャやる気出してる上にあまり手加減する気が無さそうだな。
「もし襲われた時は、対処するしかないね。でもできる限り殺さない方向でおねがい」
「はい」
「了解」
「私は立場的に微妙だなー。傭兵はともかく、第二騎士団のロドス団長が絡んでたら嫌だなー。あの人苦手なんですよね。俺は出し抜こうなんて思ってないのに、敵意むきだしで競い合ってくるから」
オーリンさん、どんどん砕けてくるな。しかしそういう人なんだ、そのロドスって人は。野心家が功を立てるために子飼い傭兵を利用して俺たちを王国の敵として討伐する。そんな分かりやすい流れなのか?
色々相談しても、とりあえず帰らなきゃってことで、馬車を進める。警戒して進むと言っても馬車をゆっくり走らせるわけでもなく普通に王都へ向かう。と言うのも王都へ続く道は平たんな道のりであり隠れる場所が多くない。俺はスキルで視力高めてるし、オーリンさんが探知能力あるし、なんとか隠れて奇襲するにしてもオーリンさんやアーニャが気配を察知するだろう。何かあってもなんとかなるかな。こういう判断って考えが浅いのかもしれないけど、兵士として大ベテランのオーリンさんが何も言わないし大丈夫だろう。
と思って進むことしばらく、なだらかな丘を越えようとした時だった。
「あ、なんか居ますね。まだ敵意とかはないけど結構大人数です」
丘の頂上へさしかかり視界が広がると、斜め上のお出迎えと遭遇。傭兵いや人数多いから傭兵団か、それに騎士団。総勢200は居そうな団体様がお出迎えしてくれた。
「これは予想外。ここまでの大集団でくるとは思いませんでしたね」
オーリンさんが馬車を止める。
ど、どうするのこれ、馬車を反転させて逃げる? でもあっちにも馬がいるよね、馬車無しの馬だし逃げてもすぐ追いつかれるな。
あちらもこっちに気付いたようだが、なんか慌てた様子だ。
「魔王だ!」
「魔王がいるぞ!」
とかチラホラ声が聞こえてくるが、すっごいざわついてるし統率が失われてる感じがする。もしかしたらここで待ち伏せとかじゃなくて予想外の遭遇だったのかな。いや先入観を捨てよう。そもそも待ち伏せとかじゃなく他の用事で移動中なだけかもしれない。
「落ち着け! 作戦通りに動け! 敵は少数だ!」
うん、別件で移動中ではないみたいだ。右往左往しながらもなんか隊列組み始めた。街道に長くなってた集団が徐々に草原に広がり扇状に囲むような形を作ろうとしてる。
「これはこの馬車では逃げられそうにないですね。間違いなくロドス団長の第二騎士団です。一番実戦経験を積んでる騎士団です」
「やっぱり私が魔法で対処した方がいいんじゃない?」
すでに騎馬が大きく迂回するように後ろにまで回り込もうとしている。右往左往してるように見えてたのは俺がまるで軍事を分かってないからだったのかも。着実に俺たちを囲む形になってきた。
「オーリン団長!」
騒がしさの中、ひときわ大きな声が響き渡り、ざわつきが鎮まる。正面中央からよく手入れされた輝く鎧を身に着けた大男が前に出てくる。マクシムさんと同じくらいかさらに大きいかも。手には槍の横に小さい斧みたいなのが付いた武器を持ってる。あれってなんだったっけ? ハルバートってやつ?
「ロドス団長、これは何事ですかな!」
うお! オーリンさんが急に凛々しく話し始めた。
「お前も分かっているだろう。その者たちはこの王国のありようを変えようとする者どもだ。魔族の手先だ。王は事実上捕らえられ逆らうことができない状態だ。今こそ我ら騎士団が自ら動き、王を支え国を守る時だ」
すっごく真っ当なこと言ってるし、間違ったことも言ってない。だけど俺たちは極力荒事を避けて王と交渉して今にいたってるんだけどな。俺たちが悪だと決めつけてるところだけは納得いかない。
「ロドス団長、独断で動いたのですか?」
「騎士団長として王が命令を出せない状況を考慮し判断した」
「この方たちは、王との約束を守り、イザールに現れる魔族を討伐しましたよ?」
「そのようなことは全て王を丸め込み王国を乗っ取るための手にすぎぬ。この国をアルドラ皇国のようにしてはならない!」
いやいや、アルドラ皇国は魔族に乗っ取られたりしてないって。
「まったく、知ってて言ってるから質がわるい」
オーリンさんがぼやく。
「戦いの機会が多い方がロドス団長にとってはいいんでしょうね」
なるほどね、平和が嫌いなタイプか。乱世ほど出世できるって考えてる人ね。どうも説明したり説得したりできる人じゃなさそうだし、騎士は統率が取れてるけど、傭兵はなんかすっごい好戦的な雰囲気だし、やっぱりなんとか逃げた方がいい感じ?
「どうします? 俺たち、こういうの慣れてないから判断に迷うんですけど」
「私個人としては逃げの一択なんですけど、さすがにこの人数差は逃げられませんね。私一人ならなんとでもなりますが、皆さん逃げるの得意って感じでもなさそうですし」
こんな200人近い敵から逃げる経験なんてない。オーリンさんはなんとでもなるって、本当に逃げるの得意なんだな。
「戦えばいいじゃない。私、こんな状況初めてだし、なんか無双系のゲームみたいで楽しそう」
「え?」
「ほら、なんとか無双とか色々あるじゃない」
「ゲームとかしてたの? アーニャ」
「んー、私はほとんどしてないけどお父さんはやってたよ」
「意外だ。ゲームするイメージなんてマクシムさんに無いな」
「なんですか、その無双とかゲームとか」
「えーっとね……っていまはそんな説明してる場合じゃない。どうする? ねぇどうする?」
「魔法で倒しちゃだめなら、私は物理攻撃得意じゃないんで飛んでにげるわ」
そっかロナは飛べるんだったな。オーリンさんとロナは逃げられると。
「じゃぁ私は、戦いながら逃げよっかな」おお、アーニャも逃げでいいのか。この集団に突っ込んでいくんじゃないかって心配だったけど良かった。となると俺も逃げるで決定。というかそれしか考えてない。
「逃げながら戦って、敵を減らしていけばそのうち諦めるんじゃない?」
そうだといいな。
「何をこそこそ話しておる! オーリン、お前は国を裏切るのか!」
「いえいえ、どうにか穏便におさまらないかなーって思いまして」
「この状況を理解していないのか! 国の危機であるぞ!」
穏便には無理っぽいね。
「騎士団長の立場でありながら魔族側に立つなど許されることではない! 魔族どもと組んだ第三騎士団のオーリン団長はこのロドスが逆賊と判断する。この私がすべての責任を背負う。魔族ともども討伐せよ! かかれ!」
判断はや! 迷ってたらこっちがグダグダな状況で戦闘開始されちゃったよ。馬車を反転させる余裕もない。俺たちは馬車を飛び降り、来た道を戻るように走り出した。馬車で逃げた方がいいのかもしれないけど、そんな戦い方なんて経験ないし他に選択肢が思いつかない!
本当に最悪の場合はロナに頼るしかないかも!




