2:ギルド上編 3
第2章 ギルド上編 3
早朝、ブラックアリゲーターの活動時間はもう少しあったかくなり始めた時間だ。
本格活動前のブラックアリゲーターを討伐することで、危険を減らすことにつながる。
これはアリアが提案したものだった。
見識の深いアリアの案ならとみんな賛成した。
「おはようございます」
いつものルーチンをこなし起動する。
唯は一種のマインドコントロールのように、ルーチンをこなすことでベスト時のコンディションへと切り替えた。
またアリアも普段危険があまりないときは寝起きが悪いのだが、早朝の作戦決行ということもあり昨日同様起きていた。
アリアなりのプロ意識の表れなのか、アリアは冒険するときの目覚めはかなり良いらしい。
だから昨日も早起きだったのだ。
ロビンは夜行性の魔物の襲撃に備え起きていた。
なので、別段起きるのが遅いというわけではないセイラが今日は一番遅かった。
「……おはよう、ございます…。ふぁーあ…」
「おいおい。大丈夫かセイラ?ずいぶん眠そうじゃねぇか?」
ニヒルな笑みを浮かべたアリアがセイラを笑いながら小突いた。いつものように少し困り気味にセイラは痛いですよっと言った。
みんな一様にいつも通りらしい。そしてみんな戦いの準備はとうに終えている。
「さぁ。作戦は昨日説明した通りだ。お前らはパーティー戦に不慣れだろうからあたしがオペレーターをする。んでさらにあたしとユイで前衛、ロビンが後衛。セイラはどちらにも行けるように準備しとけ。あたしとスイッチしたときは特にユイとの距離を意識しろ。ユイはあたしかセイラからあまり離れすぎないよう注意はしとけ。ロビンはまぁ大丈夫だろう」
「わ、わかりました」
「了解です」
「あぁ」
三者三葉に了解の旨をアリアに告げ、それを確認するとアリアが開戦の音頭を取った。
「んじゃ、行くか!」
「奴らは仲間を呼び集め団体で活動する節がある。ある程度戦闘が進むと集団戦闘がおこるのは仕方がないがそれまでは各個撃破に臨む。叩くならあ顎の付け根を思いっきりで切り落とすなら前足と目の中間、射貫くなら額だ。それ以外をしていまったら集団戦の始まりだ。その時はあたしのみ前衛に回る。唯とセイラは援護だ。それと、群れのボスがどこかにいる。それを倒せば集団のまとまりがなくなる。しかしあまりそいつは意識するな。どうせボスは群れの中心だから倒すにしても最後の方だ」
ここからは荷台付きの馬車は使えない。
なるべく足音を消して近づき、群れの本体から遠いところの個体もしくは小隊から消していく。
「そいやぁ、ロビン。昨日頼んでおいただいたいの頭数の確認は済んでるか?」
「ん?あぁ、ばっちりですよぉ~、そいつは。だいたい120で半数ってとこかねぇ~」
「そうか。んじゃあ二日にしようか。今日60、明日60で。今日は本隊から遠いところから狩るぞ」
どんどん足場が悪くなる中、速度を落とさす一定に風下から回っていく。特段奴らは鼻が利くとういうわけではないそうだが、念には念をということらしい。
もはや先ほどまでいた野営の拠点とはうって変わり、様相はジャングルそのもだ。
足場が悪く全体的に湿気があり、草やツタが肌をなでる。
しかしそのジャングル地帯を少し抜けると、大きな川が流れていて砂利が堆積しており川辺に大きな足場があった。
そこには多くのでっぷりとしたワニがいた。個体平均3~4メートルはあるんじゃないかと思われるほどでかい。
「ここいらのは少し小さめか?まぁ、群れん中じゃ弱くて淘汰された結果端っこにいるわけだしな」
これで小さいというんだから先にどれほどの化け物みたいなのがいるか分かったもんじゃない。
「ちなみにユイ。オスとメスの個体差を教えてやろう。中に小ぶりなのがいるだろう?あれがオスだ。メスが基本的に狩りや育児をするのが奴らのルールらしいな。今日は見られんかもしれんが、戦闘が始まるとオスは一目散に逃げるぞ」
今後生きることのなさそうな知識を教えてもらった。
「へ、へぇー。そうなんですね。タメニナルナァー」
ついつい棒読みになってしまった。
最近の棒読みちゃんの方が感情豊かにしゃべるんじゃないかってぐらい。
そんな棒読みの返事をしてしまったがために、スパンと割といい音で叩かれてしまった。
「ばっ!音だしたらばれるだろうが!」
「えぇ~、そんな」
一部のワニがこちらに向いた。そして理不尽にもアリアに小声で絵叱られてしまった。
「……そんじゃ、ユイ。あの場所的に浮いてる個体を倒してみてこい。失敗してもすぐにフォローできるようにしておく。気楽にな?」
「は、はい」
初撃を外せないっていう緊張感。しかしアリアがいうように外してもアリアがいるという安心感は大きかった。
唯は風の魔法の編み込まれた指ぬきグローブと帯から魔法の力を少し呼び起こした。
ゴブリンを追いかけるときにも使った早く移動できる風と、気流を唯の周りに気流を起こし少しの消音効果を得られる風。
それぞれを唯は、『疾風』と『風流』と呼称している。
さらに風流はあまり大きく起こしすぎるとむしろそれ自体が音を出してしまうのでなかなかに使いづらい技だ。
あと多少気流が生まれるので、唯の長いもみあげがふぁさふぁさ揺れるかわいいデメリット付き。
だが今回のように周りにも多少の雑音がある場所だと気休め程度だが効果を発揮する。
唯は二つの魔法を起動させると、一瞬意識を外してしまうと見失ってしまいそうなほど滑らかに動き出した。
流れに乗った動きはさり気がなく気づかれにくい。どこかの古流派にも重心移動により動き出す武術があるが、唯はただ動きやすい程度にそれをやっている。
まぎれもないただの天才だからこそできる動き。
「……ほう」
これにはアリアやロビンはため息をついた。
そして流れるように移動しあっという間に距離を詰めると唯は全力で蹴った。そりゃあ、もう全力フルスイング。
一番力みが出やすい動きをした。
まぎれもない天才なのだが普通に緊張に弱い。
今の唯がフルスイングするとどうなるかお分かりいただけるだろうか。
そう、ブラックアリゲーターのバゴォッ!みたいな音と共に頭が文字通りに吹っ飛んだ。そしてほぼ直線の放物線を描き対岸の木に、粘土でも押し付けるような気楽さでめり込んだ。
そして唯は脱兎のごとくぴゅーと元の潜伏していた茂みに戻った。
「はぁはぁ…。ちら~……。……ばれてないでしょうか?」
残されていた三人はあっけらかんとしていた。
「アリアさん。こんな感じでしょうか?」
「「「普通にグロいわ!!」」」
三人から厳しめの突っ込みが入り、今度はさきほどめり込んで音のなった木の方を見ていたワニたちがばっとこちらを見てきました。
奴らかなり鈍いようです。
アリアに頭を伏せさせられた。
「いや!ふっつーにグロいわ!」
小声で再び叱られてしまった。見てみると確かにテレビには確実に映せない、映せてもモザイク確定みたいな亡骸が一つ転がっていました。南無。
「す、すみません。どうも力んでしまいました。でも、きっと次は大丈夫です!今のでつかみました。あと近場の残りの6匹、任せてもらえませんか?」
「……。わかったよ。行ってこい!ただしもっと静かにだぞ!」
「はい!」
唯は疾風と風流を再び起こした。
今度は疾風の方を少し強めに起こし、そのまま再び流れるように群れに向かっていった。
任せてくださいと言った唯を信じていないわけではないが、ロビンは弓を構え、いつでも援護できる態勢に入った。
しかし、それは杞憂に終わった。
流れていった唯は、一体一体ぱすみたいな軽い音で倒していった。
あの全力フルスイングから、ちょうどいい力加減ギリギリへと一撃で調整したのだ。
そのまま、流れでぱすぱすっと残りの5匹を倒した。
たった数分で唯は無駄のない魔法と体術の融合を完成させた。
この世界に体魔術という、魔術により体を強化し体術を進化させる武術がある。
この武術は未完成もいいところで、潜在的な魔術への適性が高いほど強くなれるという、なんのための武術か?とった感じだ。
つまり、強者のための武術、弱者は淘汰される武術。
そして、そんな未完の武術の創始以来、唯よりうまく体魔術を扱えたものはいないとアリアは確信した。
そのまままたふわっと戻ってきた唯は、ふぁさふぁさ揺れて少し乱れてふさふさからもふぁもふぁくらいになったもみあげを手櫛でときながら戻ってきた。
「どうでしょうか?アリアさん」
「ここまでのものは見たことないよ。作戦変更と行こうじゃないか!」
アリアは自分でやるのは少しめんど……ゲフンゲフンとごまかすように咳きこんだ後ツーマンセルでの戦闘を提案した。
今日の目標ののこり50匹ちょいを半々くらいで討伐しようということになった。
唯とロビン。アリアとセイラ。お互いフォローの利かせやすい超近距離と遠距離。近距離と中距離。そんなチーム構成で討伐だ。
「んじゃ、ユイ。よろしくな」
「えぇ。行きましょうロビン」
足回りのいい二人がサッと茂みからブラックアリゲーターの本隊を見て右回りに、残されたアリアとセイラはやや中央に向かい気味の左回りで作戦を決行した。
集合場所は日没までにベースキャンプと定めて。
セイラは少し嫉妬していた。
自分よりこの世界につて詳しくないはずの唯が、自分より強いことに。
自分が頑張って強くなろうとしてるのに、それをスキップでもするかの軽さで突き放されている実感に。
才能の違いでしょうか?努力では追いつけないのでしょうか?
「セイラ。あれは別だ。比べるな。あたしだってもっと若かったころにそんな風に言われても納得できなかったと思う。ぶっちゃけこの歳になってもふざけんなよ!ぐらいさっき普通に思った。それぐらいあたしら凡夫とは違う。それにおまえにはもっと別の才能がある」
「……そう……ですね。そうですね。僕たちも行きましょうか」
落ち着いていても、15の少年。
一番多感で誰かと比べてしまいやすい時期に少年は、努力を惜しむことなく過ごした15年を、ひとつほど年の上なだけの少女に数分で突き放されていると実力差を叩きつけられた。
少年にとって努力とは呼吸と変わらないくらい、普段よりの勤勉さでそうしてきたのだ。
努力こそ自分で、切っても切れないものだった。なので少年は少し今までが馬鹿らしくなったので誓いをたてた。
近いうちになにかさぼってみよう。僕のアイデンティティを賭けて。
~唯とロビン~
「ふぇ、ふーー。すみません。ありがとうございます、ロビン」
「いや、構わない。それよりちゃっちゃとここから離れるぞ!」
二人はまるで忍者のごとく軽快に木の枝から木の枝へと飛び移りながら逃げた。
レンジャー経験のあるロビンは、徴兵時代に罠設置に罠解除、密偵に偵察。
多岐にわたる身軽さを必要とする任務をなしてきた。
そのため、風の魔法具を使う唯ほどの空中機動力とはいかないもの、ジャングルぐらいならアスレチック感覚でサッと空中移動をできてしまう。
ブラックアリゲーターに仲間を呼ばれてしまって、このように逃げて戦場を離脱した。
「おたくにはびっくりだよ。魔法を起動する前に足をもつれさせて派手に転ぶなんてな」
唯は派手にこけておでこをすりむいてしまい、逃げた先の安全地帯で応急処置をしてもらった。
「いやぁー、まぁ。その、すごく恥ずかしいんです。そういう気の利かないロビンは最悪です」
「えぇー、なんで人格否定」
「なんとなくです。」
「えぇ……。」
群れを小隊3つ分を討伐し終えた唯たちは距離的にはこっちが近道だとロビンの言葉通りに進んだら小隊を発見してしまい。
どうせならと欲張った結果、足を滑らしてこけた。
かっこよく新しいルーチンを決めて、魔法を起動させようとした結果これである。
唯は天才であると同時に、小さなミスをどうしても挟んでしまう悲しいサガなのだ。
そして失敗の記憶を作ってしまったこの帯をキュッと結びなおすルーチンは使えなくなってしまった。
また新しいのを考えねば。っと、一人ごちっていた。
「まぁ、なんやかんや目標数の20は狩れたし、戻りますかねぇ」
「そうしましょう」
なんやかんやあったがこちらのチームは,ロビンの適切な援護と唯の対にぶめの魔獣戦における暗殺力の高さもあって、無事に21頭のブラックアリゲーターを狩ることができた。
~アリアとセイラ~
唯をうらやんでいても仕方がないと切り替えセイラとアリアは、あえて大隊をジャングルの方におびき寄せ待ち伏せと罠で的確に削っていった。
アリアは唯のように機動力に優れるってわけではないけど、素の足が遅いとういうわけではない。
それにアリアは身体強化の魔術を併用しているので、ブラックアリゲーター程度の少し感覚の鈍い魔獣程度なら掌で転がすように誘い出せた。
そこをセイラに罠や魔術で倒させた。
もちろん自分で武器を振るってもいいが、セイラにやらせるほうが練習になるという本心と裏腹に楽だったからだと、セイラに嘯いた。
アリアはクエストに挑んでいてもどんな状況でも、優しさをめんどくさがり屋とかそんな演技で隠してしまう。
子を思う親心、子は知らず。といったかんじですかね。
こちらもやはり問題なく、少し多めに27体のブラックアリゲーターを討伐し終えた。
ベースキャンプに一行が集合し終えたころには時刻は夕方になっていた。
昼にはセイラがロビンと唯に持たせてくれたパンと簡単な添え物があったが、かなりの運動量だったので昔より燃費の悪い唯には少し辛い時間帯になっていた。
「アリア、セイラ。遅かったな」
「いや~。久しぶりに走ったわ~」
凝っているのか肩をゴリゴリと回しながらアリアが帰ってきて、セイラは後に続くようにしてただいま戻りましたと言いながら戻ってきた。
「そちらさんはどれくらいだ?」
「あぁ……。何匹だっけんあぁ?」
「え。アリアさんが数えてたんだとばかり。ちょっと待ってください…。……27匹だったと思います」
セイラは自分の記憶をたどるため中空を見つめ指折りながら、ひー、ふー、みー、よー、と数えながら器用に調理の準備を進めた。
そして記憶をたどり終えると報告しながらも、手はてきぱきと調理を進めていた。やはり旅のお供にはセイラ君です。
「そうか。こちらが21匹だったんで、最初のと合わせると、55?か?」
「そうですね。55です。ロビンは暗算も苦手なんですか?」
「なーんか、含みがあるように聞こえちまうんだよなぁー」
「き、木の精霊さんですよ」
唯は吹けもしないしない口笛の真似をし、ふひゅーひゅーみたいなただ空気が漏れ出てるだけのような音を出しながらそっぽ向き、かなりつまらないギャグでその場を乗り切ろうとした。
「ロビンあんた計算や読み書きもできるのか?」
「一応徴兵時代に基礎的なものぐらいなら教わったからな」
「ロビンさんすごいですね!」
(そうか、この世界だと読み書きなどは高等教育に含まれるんだった。)
この世界の一般人に対する教育水準は極めて低い。
ロビンの村でも村長とロビン以外は、まともに読みや計算できる人間がおらず、その昔は小麦などの収穫時期に街に売りに行っても、ちょろまかされることもしばしばあったそうだ。
そして数年前に徴兵から帰ってきたロビンが、読みと簡単な計算を教えたそうで、今でこそ村人は必要最低限を覚えた程度なのだ。
そんな現状がこの世界には広がっているそうだ。
(そういえば、この世界の文字ってろくに見たことないですね?そもそもなんで言葉が通じるんでしょうか?)
「あの、すみません。まずなぜ言葉は通じているんでしょうか?あと、文字を見せてはもらえませんか?」
「あぁ~、大和・錦ノ国の言葉をベースに訛りがあったりする程度で話し言葉は伝わるんだ。しかし、文字って言ってもな……。何個もあるんだ。古代文字から新生文字。国やひどいと町単位で文字がコロコロ変わる。そして言葉は、言葉よりも文字に力があるんだよ。だから、文字は統一できなかったんだ。しかも迂闊に文字を書くと大惨事になりかねないわけよ。だからこそ、読み書きは高等教育ってわけよ」
「そういう風に考えるとだな。ユイは訛りがあまりなく、その特徴的な白い髪赤い目。普通にタッパはあるけどあたしらん中だと小さいから小さく見える。だから町の人間から見たら、因幡の里の人間だと思われてるだろうな?そしてロビンはその特徴的な”おたく“って呼び方からルーノ王国の南東側の人間に教わったんだろうな?って考えると隣国フェンリルグラムとの戦争での徴兵か?……ん?思い出したぞ!そうだそうだ、千里眼だ!」
ちょっと有名なTV番組の某シリーズのように、方言から地域を割り当てはじめたアリアに唯は内心こわっ、何その特技?と思った。
そして、いつものテンションで話してた思うと急にブーストがかかったアリアにまた、こわっ、なに、こわっ!って普通に失礼なことを思った。
「“千里眼”のロビンですか!すごい!ルーノ王国とフェンリルグラムとの間で、5年も続いた戦争でフェンリルグラム側の実質トップを千里先から打ちとり和平へと向けたあの!」
アリアさんとセイラ君は、わたしが出会ってからの約5の間で一番テンションが高かった。いつもならあたふた何てしないセイラ君が、調理の手を止め「はぁ……。さ、サイン…」とか言いはじめ、アリアさんに至っては「キャー…」とか、普段の微ハスキーボイスからは考えられない声を出していた。
どうやら世界のでは一般常識というか、現代に生きた英雄みたいにロビンは取り上げられてるらしい。
「よせって。そんなたいそうなもんじゃねぇよ。千里眼なんて呼ばれてたのはもうだいぶ昔だし、実際には千里も離れちゃいなかったんだ。そのせいで、本当に千里先まで見えたり未来予知したりといろいろ大変なんだ。この世界で文字は呪いであり一種の魔法なんだよ。それをどこの馬鹿か知らんが千里眼のロビンだのと書き残し、うわさが一人歩きしてんだよ」
ロビンにしては珍しく本気の悩みっぽく、身振りをつかってまで表現していた。
そこでわたしはふと疑問に思ったのでそれを口に出した。
「…。そんなに有名人のに意外とばれないんですね。ロビンの顔が薄いからでしょうか?」
「あぁ、それはこの羽織に秘密がある。身隠しの効果があって、これがないとおちおち街も歩けねぇーんだわ。まぁ、これも完全じゃなくて、今みたいに直接俺の事を考えられたりすると普通にばれる。あと、おたく失礼だな」
「へーそうなんですね」
「お願い、もうちょっと興味持って。あと、スルーですかい、ユイお嬢」
「お嬢って恥ずかしいのでやめてほしいですね」
「んならば、なおさらお嬢って呼ぶしかないな」
「む。ロビンは最悪です」
「まぁ、でもユイさんは服装は置いといて、お嬢さんぽいです。話し方ですかね?」
「そうだな。昔聞いた話だともともとの世界自体、あたしらの世界からしたら裕福だしな。そらぁお嬢にもなるわーな!」
「もう、みんなして!わたしは怒りました!あと、セイラ君まだですか!」
「もう少しなので待ってくださいね?」
セイラ君はニコニコしながら調理を進め時々会話に入ってきて、アリアさんやロビンと焚き木を囲い楽しく談笑する。
これだけで、この世界に来てもしかしたらよかったのかもしれないと思えた。
それと同時に、こんな暖かな世界が崩壊の危機に立っているのかと、子どもが諦めなければいけないのかと思うと胸が締め付けられた。
もう少しと宣言したセイラは、そこから5~6分の間に旅中とは思えないほど立派な食事を作って見せた。
そしてそれを食べながら、楽しく食事時を過ごした。そうこうしている間に、時刻は夜帳が降り腹も満たされ眠くなるころ合いになっていた。
一早くに、アリアはねみぃと言いもそもそとテントに這って行き、それに続くように唯もそれだはわたしも、おやすみなさいと言い残しテントに入った。
セイラは焚き木を前にいろいろ考えていた。
自分が行くと決意したのだが、実際に魔王を倒そうって人たちの中にいると、自身の内より出る息苦しさを感じていた。
才能、知識や経験、実績。
何一つ持たない自分がどうしてこんなことをすると決めてしまったのか。
見通しが甘かったのではないだろうか、やはり分相応だったのではないだろうかと。
瞳は炎の揺らめきをとらえながらも、その実何も見えてはいなかった。
「……。セイラ。セイラ」
ロビンに肩を揺すられ意識が戻った。
「あ、っはい!……すみません、少し意識が遠のいてました」
「おう。おたく大丈夫か?」
「はい。大丈夫ですよ」
座ったままセイラは伸びをした。すると体からはポキポキポキと小気味よい音が鳴った。
「……少し話をしよう」
「……?」
するとロビンは自身がしてきたであろう経験を順に語り始めた。
村で先生みたいなものをしているからか、アリアほどではないにしろ上手に語りだした。