9:清武祭 4
この度はぶれいぶすとーりー2 ~佐藤唯は勇者です~ 9:清武祭 4を読んでいただきありがとございます。
唯と春の試合から遡ること数時間、セイラは乱闘式の予選リーグの壇上に立っていた。
「やぁあ!!」
「おらっ! ガッ……ハッ!」
「くそがぁ!!」
睨み会うように立つ数十人の腕に覚えのある猛者達が、ゴングも無しに台に上がれば即試合開始と乱闘が始まっていた。
体魔術の部門では、1対1で広く見えていた壇上は狭くひしめき合い、視界の端で先ほどまでつばぜり合いをしていた男は背中からバッサリ斬られ、もう片方も後から来た別の誰かに脇腹を刺される、その別の誰かも誰かと戦っている。
そんな経験した事もない戦場とやらを彷彿とさせる試合模様である。
もちろんセイラも乱闘の渦中に居るのだから、右も左も後ろも前もなく、息つく暇もなく入れ替わり立ち変わりに斬りかかられていた。
ただし斬られはしない。
のらりくらりと狭い戦場で立ち回る、乱闘の生き抜き方というものをロウから教わっていた。
誰かに相手を擦り付け、とにかくやり合わない。
もし斬られて死ななくても、やはり死ぬほど痛く、痛いのは誰だって嫌だ。
命のやり取りをする以上、小賢しく小狡く立ち回るべきなのだ。
もし教わっていなかったら、性格上正直にお相手して早々にリタイアをしていたかもしれない。
そうしてうまく時間稼ぎをしていくと、慣れた人達が必然と残った。
自力で降りた人、未だ横たわったままの人、いずれにしろもうリタイアをしてしまった人達だ。
そうして最後に立っているのは、セイラを含め6人。
恐らく1,2人はリタイアに追い込んでいても、大立ち回りをしていた様な雰囲気はない。
むしろ地味で目立っていなかった、だからこそセイラはこの5人をずっと観察していた。
この人達が残ったら嫌だなとなんとなく観察していた、一筋縄では往かない真の猛者達といった所。
「……悪いな坊主……先に落ちてくれや!」
「やはりですか……ッ!」
そのうちの1人が躊躇一切無しに、真っ先にセイラを真っ直ぐ狙ってきた。
理由は察しが着いていた。
セイラが他の4人より慣れていない事、逆に観察されてもいた事、そしてなにより武器すら借り物だという事。
総じて相対するなら一番弱い奴と、その標的になってしまった。
見られているという感覚はずっとあったので、間違いないと考えていた。
そしてそれを皮切りに他の4人も一斉に動き出す。
あわよくばどこかで漁夫の利と、隙を見せればいつでも斬られかねない雰囲気をビシビシと感じていた。
そうして1人に動かされる様に応対させられていると、少しずつぼろが出て、そのうちに隙となる。
バク中の要領で回避をすると、留め具が少し緩んでいた腰のポーチから皮の水筒が溢れる。
そのわずかな隙を目ざとく、脇から別の誰かが突いてくる。
「えぇ、分かっていましたともっ、……そこッ!」
「やるな、少年! 抱き締めたい!」
隙に飛び込んできた相手を水筒ごと斬ったつもりだったが、水筒の中身だけが飛び散る。
空中で捻りながらのスピードも威力もない斬撃では、このレベルの相手には当然の様に避けられてしまう。
「跳びましたね! ラララ! 大地の寵愛!」
「うっ、ぐっ!! ……フェンリル!」
ただのバク中の長くない滞空時間をピンポイントで狙い撃ち、地面方向へ急速な加速がかかった。
恐らくは重力制御の呪文、その展開の速さと力の強さから制御圏内から抜けてしまえば回避可能な、限定的なタイプとそう直感する。
氷を坂状に作る事で落下の勢いを利用して、予想通り制御圏内を抜けと一呼吸の為一時離脱を成功させる。
「ほう、その若さで本契約の精霊使い……。しかも氷の最高位の精霊『賢狼フェンリル』ですか」
その離脱先で、鎖付き鎌の分銅で手足を拘束される。
「凍って滑りの良い足場! まずはガキ一丁!」
「ぐっ! 凍れ!」
振り回されながら鎖に氷を伝播させ、鎖鎌ごと凍らせようと画策する。
そして保身で鎌から鎖が外され、場外ギリギリでなんとか踏みとどまる事が出来た。
「ちっ! っと、ぶねぇ!」
「よく見ている。貴様も、ただでここまで残っている訳では無いようだ」
今この試合はセイラを中心に回っていた。
それは狙われると言うことだが、それが非常に都合が良かった。
バラバラに全員相手させられるのは少々どころか、かなり骨が折れるが、全員まとめてなら話が早い。
自然な流れで誰にも違和感なく全員が視界に収まるいい位置につけた。
そしてそういう状況で輝く、魔法のように便利なとっておきの魔術をセイラは持っている。
その為の布石も十分に敷いている。
「氷雪大過の堅陣、恐怖と災禍をここに……。熔けて混ざれ、煌々と輝け!」
「させるか!」
「賢者の叡知を授ける」
『愚者の第五魔術・水銀結晶』
声だけが響き、静寂が訪れる
精霊使いが詠唱をするということは、それだけ大規模な魔術を行使するという事で、全員が警戒をしていた。
「……こけおどし……、か? ……いや違う! 貴様! 何をした! 巻かれていた鎖を! どこへやった!」
詠唱前までセイラの体には、鎖が巻かれていた。
目を一瞬でも離したのならその瞬間と言えるが、セイラを襲ってきた男は一瞬たりともセイラから視線を切ってはいなかった。
「……っち! なにかまずい、それだけは分かる! 既に術の範囲内に居て、ヤバいって事だ! 直感より早く、貴様を斬る!」
男は逆手持ちでアーミーナイフのような厚い身の武器で袈裟斬りにする。
その瞬間、音もなく空気に熔ける様にナイフそのものが消えた。
「間違いなく斬りつけた! 斜めにバッサリと!」
不可解な事象にバク転をしながら器用に捨て台詞を吐いて、セイラから距離を取った。
「もう一度言うぞ! 何をした! 貴様!」
「見てください周りを。これが賢狼フェンリルのです」
壇上にいくつも転がっていた剣や槍、鎧の破片、あらゆる金属片が少しずつ無くなっていた。
「僕は予めあなた方5人意外、全ての人と何らかの形で接触しています。直接触れたり、剣を合わせていたりです」
「そうして僕の魔術は伝播し侵食ていき、回り回っていたあなた方の武器にも付着していました。そうして、先ほどの魔術で、その侵食が昇華されました」
「ここから恐ろしい事が起こります。降参して下さい」
「武器がなくなれば闘えないと思うのか!」
鋭い突きが飛んでくるが、普段見ている手本が良すぎてそれでも難なく避ける。
そうして、鮮血が散る。
「なにぃ!」
昇華された金属片が今度は再び固体に戻り、結晶としてきらびやかに舞っていた。
その結晶に傷つけられる形で、男の皮膚は鋭利に切り裂かれ、それを皮切りに壇上に居る全員切られていく。
「っち! 距離を取る!」
「いえ、近づくのが正解! 少年の周りならば! なっ!」
少し遠くにいた、重力魔術の男はセイラに近付く事で術者の近くならば範囲内と言えど安全地帯であると踏んで飛び込んでくる。
しかし、全員と言えば例外なく全員、セイラも含め切り裂かれ続けていた。
「あなた方は強い。だから僕も傷つく、これが僕の勝利への覚悟です」
「がっ! なる……ほどっ!」
初めて人を斬った。
そして、返り血を浴びる。
殺すつもりではないので浅く、それでも一生残る斜めの傷。
覚悟をしてここに立っていたつもりだったが、鼓動が早くなるのを感じていた。
「だ、壇から! 降りれば圏外です! 時間切れまで待ちますか、えぇ!? 降参して下さい!」
多く流れた血や水滴すらも結晶化して、嵐は威力を増して全てを巻き込んでいく。
男たちの勝利への執念虚しく、壇から飛び降りていく。
彼らは全員が自分の強さをよく理解していて、何度か決勝リーグにも残るような猛者達だっただろう。
でも勝ち切れずこうして何度も挑戦して、自分の限界みたいなものを見てしまったからどこかでちゃんと引く賢さになったのだろう。
自傷覚悟の若さ故の無茶などはしないしできないのだろう。
「はぁはぁ……、ふっ……」
走った後呼吸をゆっくり落ち着かせるように、術を少しづつ解除していく。
一瞬で解除すれば暴走する可能性や、一気に鋭利な金属片が落下し周りを巻き込む可能性もある。
賢者が考えた愚者の魔術の威力に慄き、振り回されている感覚に疲労感が増していく。
「……疲れた……」
ふと隣の壇の青年と目が合った気がした。
セイラと違いほぼ無傷で槍を肩に担ぎながら、余裕の笑顔を浮かべひらひらと手を振っていた。
小さく会釈を返すと青年は目を細めて笑い、踵を返して壇を降りていった。
あぁ、あの人とは戦うことになりそうだと、今から骨が折れそうな重い気分になる。
「あぁ、本当に疲れます……」
初めて人を斬った感覚や、予選リーグですら苦戦していたり、出来ることが増えてもその力に振り回されたり、先の事を見やって気疲れを起こして。
「ままならないな……、はぁ~……」
こんばんは、なつみんです。
半年以上経ってしまったかな……。
次回清武祭VSロウ
次々回決勝戦
てな具合で進めれたらなぁと考えど、筆は進まず。
良いお年をにならないよう、年内には……。ではまた次回!




