1:旅の仲間たち 3
第1章 旅の仲間たち 3
~ノーザン・アルド領 領主アルド邸にて~
「うわあ!」
「おおう!」
「……あっ」
転送先にて、三者三葉に驚いていた。
急に飛ばされた唯と巻き込まれたロビン、ロビンが入ってきたことに驚いたクルーガー。
お互いに少し気まずいような空気になった。三者とも何を言えばいいのやらといった感じで次に放つ言葉を悩んでいた。
「……あぁー。なんつうか。ごめんな?」
「……え、え~。気にしないでください?」
「……え、あ、え、あ。うー……。」
ロビンは自分の巻き込まれ体質をよく理解していたし、クルーガーはクルーガーでロビンになんと声をかければいいのかわからなかった。
唯に至っては、何かを言おうとはしたけど違う気が~、でも~っと、言うべきか否か悩み結局、言語能力を失っていた。
「なんじゃクルーガー帰ったのか?」
そんな三人の気まずいような空気感を割くように割って入る声があった。
「……あっ、はい!イェンチェ・クルーガーただいま帰還いたしました。」
やや返答に遅れたがクルーガーは、普段からしているように右手は胸に片膝をつき頭を垂れ傅いた。
慣れた所作だった。これだけは普段の胡散臭さを感じさせない心からの敬いとでも言うべきもの感じる。
そのことから、唯とロビンはこの人がクルーガーの主で、ノーザン・アルドだと推察した。
「あぁ、お帰り。表を上げ、下がってよいぞ」
「はっ!」
クルーガーはどこかへ影のように溶け消えていった。
この人がノーザン・アルド。
見た目は150センチそこそこで、ゴスロリを身にまっとた金髪ふわふわロングのじゃろりだった。
唯はノーザン・アルドに対して、人形のようだと表現したくなるほど作り物めいたもののような直感を得た。
「わしがノーザン・アルドじゃ!佐藤唯。まずは初めましてなのじゃ。気安くアルドちゃんと呼んでも構わんぞ!」
アルドはそのように自己紹介をすると、指を鳴らしポップな感じのふわふわと宙に浮かんだ椅子を呼び出した。
その椅子に億劫そうに腰掛け、そのまま椅子ごとふわふわと降りてきた。
唯は、この世界に来て魔法の使用を初めて見た。
ファンタジーだなー。
唯の感想も実に正しく魔術も魔法もある世界へ迷い混んでしまったので、現代人から見ればひとくくりにファンタジーと言えてしまう。
唯たちの前まで降りてくると、椅子から降りた。
目の前に立ってさらに感じる作り物感とでも表現すべき違和感。
「……あっ。初めまして。わたしは、佐藤唯です。なぜあなたはわたしを知っているのですか?」
「……ふむ。あの因幡の娘の娘にしては、なかなかどうして身長があるな。」
「おかーさ、……母を知っているのですか?」
「……おぉ!これはまさに思わぬ珍客。『千里眼』ではないか!」
「そう呼ばれてたのはもう結構前のことだぜ」
会話とはキャッチボールに例えられることがある。
ボール投げられたら、それを投げ返す。そういうことの積み重ねが会話なのだ。
そういう意味では、唯とアルド間では会話は行われなかった。
「……それで唯よ。わしのことを『人形』だと思ったな?」
「えっ。はい」
「その通りじゃよ。500年より前にはこの体じゃよ?」
しかし尚も唯とアルド間では会話は行われない。
唯の答えを待っての発言ではなく、そのままただただ流れのまま答えたにすぎない。
「へぇー。錬金術の類か?」
「おお。千里眼よ、意外に博識じゃな!」
ロビンとの間には会話が行われる。そのことに疎外感のようなものを覚える。
「して、唯よ。そなた、なんかいけるんじゃない?みたいな感じでここに来たじゃろ?」
「えっ」
「見通しが甘いんじゃよな~。底が浅いともいうかの?」
爪をいじりながら実につまらなさそうにつぶやく。見透かされた唯は、答える答えがなく口を紡ぐ。
「そーいうーところも、小娘じゃな。」
わしは小娘嫌いじゃないぞ?とニヒルに付け加えながら唯を見据える。
見据えているがその実、唯には興味がないと態度で示すように、たいして見てはいない。
「……わ、」
「そんな見通しも甘く、底も浅く、ついでにおバカなおぬしに!知恵を!武器を!与えてやるのも、年長者の務めじゃな!ついてこい!」
話し方、仕草、視線。落として上げる。無造作に計画的。見つめないで見つめる。
そんな演説上手なのじゃろりは、唯程度の小娘を騙すといえば聞こえが悪いが、魔術なんぞ使わなくても造作もない。
イェンチェ・クルーガーが駆け出しの詐欺師のようなものだとするなら、プロの詐欺師すら軽く捻ってしまうような、そんな存在。
それが、ノーザン・アルド。500年以上を領地を育て続けた化け物。
実際唯は、先ほどまでが嘘かのよう錯覚し、いい人かもとすら思い始めている。
人は見たいものを見て、信じたいものを信じる。
唯もまた、ノーザン・アルドという人形の見たい姿を見て、信じたいように信じてしまう。
いつの時代、どの世界においても、馬鹿な子供は騙しやすい。学習する機会も与えられないままに、騙されてしまった。
ほいほいと唯はついて行った。
現代日本のように、基本的に安全なところで過ごすと基本的に疑うということを忘れてしまうが、この世界でそれは致命傷になる。
そのことを学ぶのはもう少し先成るが。
20~30分後、唯とアルドは戻ってきた。
白の道着の上衣に黒の帯。下はスパッツのみ。あとは黒い指ぬきグローブ。
アルドの趣味が半分、実用性がもう半分といった格好で唯が帰ってきた。
実際、若いおなごの生足は魅惑のマーメイドとか言いながら、両手を大きく手を広げながらガッツポーズのような姿勢をとっている。訳が分からん奴だ。
「兄貴ですね」
「おっ!?若いのに伝わるのか?」
ほんとに訳が分からない会話をし始めた。
その間、ひとりで待ちぼうけをくらわされていたロビンは、柱を背に体育座りをしていた。
大の大人がとてもとってはいけないような、そんな情けなさと哀愁さを漂わせていた。
「なんじゃぁ、千里眼。えらく情けない格好をしておるな」
「いやぁ、何て言うか。ここは何もなくて暇だし、若干さみーし、正直に言うと寂しかったまである」
そんな情けないロビンを無視するかの如く。
「わしを訪ね、女が来る。それまで、ここを自由に使うといいぞ。」
「はい。ありがとうございます。アルドちゃん」
「それについでじゃ。イェンチェ・クルーガーを貸す。その装備や戦いについて教わるといい」
アルドは手を二度たたくと、どこからともなくイェンチェ・クルーガーすっと、姿を現した。
「お呼びでしょうか。アルド様」
「あのシスターと坊主はいつ頃付く予定じゃ?」
「一週間はかからないと思われます。」
「そうか。それまで唯にゃんにあれの使い方を教えてやれ。わしは寝る。またシスターたちが付いたら起こせ」
「……アルドちゃんに、ユイにゃんって。……おたくら仲良くなったのな」
この体もそろそろ作り変え時かの~とか言いながら、ノーザン・アルドは消えていった。
「では、唯様僭越ながら私がお教えさせていただきます。ロビンさんにはこちらのおもちゃを」
「は、はい。よ、よろしく、おねっ、お願いします」
「おもちゃねぇ」
一週間なんてものはそんな長い時間ではない。
特にやることがある濃い時間は早い。
この装備の使い方や勉強、ゆとり教育だとかうるさく区分されてきたわたしたち世代には詰めすぎじゃないでしょうか?と嘆きたくなる感じでした。
基本的には、物心付く前から続けてた空手とか合気の動きをベースに、帯と革の指ぬきグローブに込められた魔法の力を使った戦闘術を組んでみた。
うちはうち、よそはよそ。みたいな感じでこの世界にはこの世界なりの戦い方がある。
そう考えると、生みの苦しみ?というのでしょうか、一番最初に何かを作る人間というのはすごい。
クルーガーに実験台になってもらい何とか型と呼べそうなものを作れた。
「ふむ。やはり魔法というものは便利ですね」
「えぇ。そうでしょう。そうでしょう。無条件とはいきませんし、何かと制約もあります。さらに魔術適正とかいろいろ条件はありますが、その最初の条件が大きな課題なだけでそれさえ越せば世界は変わります。実際魔法というのは失われた技術出会って正確には魔術というべきで。そもそも……。」
クルーガーは見た目の胡散臭さや顔の薄さからは想像がつかないほど魔術に対して、思い入れというか執着があるのか、魔法について語るとき少し暑苦しかった。
「ははは……。
こうなると長いのでありがたーく、ありがたーく意識を飛ばしておきましょう。
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そいえばこの世界に来てからだいぶ時間がった。
この世界に来て半年たって一度死んだ。そっから4か月くらい寝てたらしい。
そこから半年。この世界に来て一年と4か月。
来たばっかりの時にこの型を作ったよな。身長も少し伸びて今は170センチ近くなっています。
みんな元気にしてるかな……。
わたしは元気です。墓場から墓から這い出た感じで、わたしは元気です。えぇ、元気です!今も死にそうですが。
修業を初めて半年、毎日ボロボロ。ワダジノカラダハボドボドダ。
今もこの世界の戦闘に慣れない。型は進化するし、改良が常に必要だ。また死ぬのはいやだからな~。
体がボロボロで動かない時は、本を読んで過ごした。
魔術体系の系統別の効率的な運用に関する論文とか、なんでしょうね。
魔術を学んでこないことで負けるとか、もうとにかく後悔はしたくない。
じいちゃんが言うには、わたしのおとーさんもこちらの世界に来ていて、本を読んで知識をもって魔王に挑んだそうな。
わたしはおとーさんほど賢くないけど、おとーさんの娘なのできっとできるはず!
ふぁいと!わたし!ごーごー!
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「よいしょーー!!」
「ちょっと!アリアさん!?」
扉を破壊して二人が侵入してきた。
「お待ちしておりました。アリア・リーベルトさんとセイラ・リーベルト君」
「けっ!辛気臭い面しやがって。お前の飼い主はどこだ!?」
「少々お待ちください。」
クルーガーは陰に溶けるようにすぅーっと消えていった。
「……あ、うーえー。こ、こんにちは」
「おたくらもうちょっと静かに入らないの?あとユイはいい加減その人見知り何とかならんのか?」
「いや、でも。ロビンみたいにわたしはパーソナルエリアは広くないです。あえて言い換えましょう。あなたみたいに無神経ではないのです」
「言葉はナイフなんだよな~」
「すみません、言葉のあやってやつです。」
人の善性や悪性について疎い唯はたぶん、このように育つしかなかった。その結果の一つが、この人見知りなのかもしれないと、改めてロビンは考えていた。
「あたしは、アリア・リーベルト。あんたのくそおやじとは昔いろいろあったが、その~、なんだ。役には立ってやるよ。こいつは、セイラ・リーベルト。あたしの息子だ。こいつも役には立つと思うぞ?……たぶん?」
「歯切れが悪いですね。アリアさん。どうもこんにちは、セイラ・リーベルトです」
扉のざんがいの上に立ち、物理的に上から目線で名乗ってきた。
背は170センチちょいの女性と170ぐらいの男の子が立っていた。
アリアと名乗った女性の方は、長いストレートのきれいな黒髪に切れ長の目。
わたしとは違いキレイ系で20歳ぐらい?ロビンより少し若いくらいでしょうか?だぼったいパンツに、上は袖口のみドレス長の仕立てだが襟付きのシャツのような感じ。
目立つ持ち物として、大きな包みを背負っているのと首から垂れた逆さのロザリオ。
セイラと名乗った男の子の方は、少年らしさというか少年そのもので、真ん中分けの切りそろえられた亜麻色の髪。
かわいい系ですね。
聖職者見習いのような服装で大きなバックパックと、腰には数個のウエストポーチと細身の剣。
アリアさんとセイラ君ですね覚えました。
「あぁ、俺はロビン。こっちはユイだ」
「こ、こんにちは。わたっ、わたしは!さ、佐藤、唯です」
「困ったり、焦ったりしたらそういう風になるの治そうな。すまんな。こいつは人見知りなんだ。頑張って自紹介しようとしたんだ許してくれ」
情けないがロビンにフォローを入れてもらった。
「おうわ!なんじゃぁ!?わしんちぶっ壊れとるじゃないか!」
「くそみたいな門戸だったんで壊しておいたぞ!感謝しな!」
「まっ、いっか。正直イェンチェ・クルーガーに直さすだけだしな!」
「けっ」
いつの間にか立っていたクルーガーは普通に困り顔、アリアさんは心底いやそうな顔をしていた。
「唯にゃんや。これを上げよう」
小さなリュックみたいな荷物を投げ渡してきた。
「んじゃ!おぬしらはここでさよならじゃな!がんばってくれな!」
ノーザン・アルドが指を鳴らすと、さっきまであったアルド邸は消えていた。
「「「「Oh……。」」」」
四人して同じように驚いていた。
「そいやユイ。おまえさっきあのろり婆から何もらったんだ?」
「あ、はい。えーと」
このリュック自体が魔法道具のようで、中は広かった。中には、グード図法によって描かれた世界地図と着替え。あとは手紙と液体の入った丸形フラスコ。
「こ、この手紙なんでしょう?開けてみましょう。」
「ちょっと待ちな。それはスクロールといって一度きりの失われた魔法だ。開けると魔法が発動してしまう。何が起こるかもわからんから開けるな。」
「は、はい」
この世界には魔法や魔術、それに錬金術といったわたしのいた世界では嘘のような学問が存在しているそうです。
アリアさんはどうやら、そういった超常を扱う学問に精通しているそうです。
「んじゃまぁ。とりあえずはアンティーノ共和国を目指すか」
「な、なぜ?アンティーノ共和国なのでしょうか?」
地図で見るとアンティーノ共和国はノーザン・アルド領から見ると、大陸を渡って魔王城までは一見遠回りに見える。魔王城のある大陸とはまた別の大陸になるからだ。
「ばーか。魔王討伐何て、今すぐはいけねぇよ。アンティーノ共和国には四ヶ国大市があるのと、大きなギルドがある。そこで冒険者として一角の存在になる。ギルドの規模的には、ノーザン・アルド領隣のルルアーノ大衆国でもいいんだが、ここでは登録するだけにしておく。なぜかってーとここは、ユイに伝わりやすいように言うなら福利厚生?とでも言うべきかな?これがあまりよくない。だから、治安、環境がいいアンティーノ共和国を目指す」
「まぁ、それはまたおいおい、道中にでもな」