#2──過去
化学の授業での一件の後、あの子は美麗先生に気に入られたようだ。
数学の授業も放り出して、美麗先生と話をしている。
まぁ、相変わらず無口で少し反応するだけみたいだがな。
やっと昼か。
この時間じゃもう売店は長蛇の列だな。
はぁ…今日も珈琲牛乳だけか。
屋上行こっと──
鍵が掛かってるから、ここをこうして…あれ?
開いてる。
まさか先客?
いや、それは無い。
だってここは俺だけの場所だ。
鍵だって、元々掛かってた鍵を俺がちょっと弄った鍵だから、開けるのは俺にしか出来ないはずだ。
鍵…締め忘れたかな…
「いっ!?」
あれは…転校生!?
な、ななな何で!?
しかも飯食ってるし!
しょうがない…教室で食べるか…
「──って、ここは俺の場所なんだけど…」
「……」
シカトかよ…
聞こえなかったのかな?
「あのー!ここは俺の場所な…」
「……」
に、睨むなよー…
俺が悪いのか!?
違うよな…?
ふぅ…離れて食べよう。
「チューチュー」
「……」
「チューチュー」
「…」
「チューチ──」
「ちっ…」
舌打ちされた…
ても…何で転校生は鍵を開けることができたんだ?
こう言っちゃなんだが、鍵をいじらせるとピカ一なんだけどな。
それを壊さないで開けるなんて…
聞いてみよっかな。
「あのー…」
「……」
「鍵…どうやって開けたの?」
「…捻った」
「さいですか…」
捻って開くわけがなかろうに!
ムキーッ!
腹立つなぁ!
「…貴方が造ったの…?」
「ま、まぁ…」
「ふっ…甘いね」
ふっ…甘いね、だとう!?
この野郎…
俺より凄い鍵造ってみろってんだ。
そうしたら、認めてやろう。
認めるって、何をだろう……
「……」
ん?
これは、鍵?
で、これは鎖?
それが俺の足とフェンスに……
……えーっ!?
ちょっ…取れねぇ!
何なんだよこれ!
虐めか!?
新手の虐めなのか!?
「…得意なら…直ぐ解けるでしょ…」
「まっ…」
「…昼休み終わる…」
行っちまった…
こ、こんな物っ──
カーッ…カーッ…
あぁ…カラスが鳴いてる。
いいなぁカラスは。
自由に空を飛べて…
「まだ…居たの…?」
「……」
この女っ…
「…解けないの?」
「ふ、ふん!お前が来たら解こうとしたんだ!こんなもん俺に掛かれば…──」
駄目でした…
何だよこの鍵穴は。
複雑過ぎて頭が痛くなる。
こりゃ俺には無理だ…
「はぁ…はい」
この女…鍵を捻ったぞ?
おろ?
……外れた…
「じゃ」
クソ…
鍵穴はダミーか。
鍵穴が複雑だったからそっちに気を取られてた。
悔しい。
転校生は帰っちまったし、俺も帰ろう。
何かどっと疲れた──
「ただいまー」
…って誰もいるわけないか。
「母さん、親父。今日変な転校生がきたんだ。無口でさ、俺に取る態度が何かムカつくんだよね。考えすぎだと思うけどさ。はぁ…疲れた。風呂入って寝るよ」
俺に微笑みかけてくれる母さんと親父に一日の出来事を話して、風呂の準備をした。
俺には、親が居ない。
俺がまだ小さい時に母さんが病気で死んで、小学に上がった時に親父が事故で死んだ。
その為に、親の愛情を知らない。
母さんに関しちゃ、ろくに顔もわからない。
写真の母さんは若くて綺麗だから、たぶん俺が産まれる前のだろう。
親父は、この前までは嫌いだった。
小さい頃の記憶では、親父は父と呼べる程の人じゃなかった。
仕事から帰ってきては酒を飲み、無くなると俺に怒鳴る。
俺にとっての親父は、ただの恐怖だった。
親戚に引き取られ、小中までは面倒見てもらって感謝してる。
俺の親同然だったけど…
亡くなってしまった。
もう爺ちゃん婆ちゃんだったから、しょうがないけど…
そう…親父は嫌いな存在“だった“んだ。
俺が高校に入学する時までは…──
『優斗…お前、高校はどうするんだ?入学金とかいろいろ必要だろう…』
『大丈夫っす。何とかなりますから』
『でもな、お前の担任としては…』
『じゃあ、帰りますから』
『おい!』
『婆ちゃん爺ちゃん、俺バイトしながら高校通うよ。ごめんね。二人の保険金、使えないよ…』
『郵便でーす』
『ん?』
『判子お願いします』
『はい』
『ありっしたー』
『これは?お、親父から!?まさかな…手紙?』
──これは俺からの誕生日プレゼントだ。
『そっか…今日俺の…』
──家じゃ上手く渡せないからな。俺の居ないところで開けろよ!そして、俺に何にも言うな!
『……』
──最後に…こんな親父ですまんな…お前が大人になるまで我慢してくれ…二十歳になったら一緒に酒でも呑もうや。
『馬鹿野郎…本っ当に馬鹿野郎…二十歳まで待ってろよ…死ぬの早すぎだろう…クソ……』
──中には、親父の通帳が入っていた。
コツコツ稼いできた全財産。
それで俺は今の高校に入れた。
ふぅ…
風呂っていろいろ考えちまうな。
明日は遅刻しないように早く上がって寝よう。