1話 お前ら、まじめに...........!
目を開けてるのにいつの間にか夢に入ってるときありますよね。顔面にキーボード跡が......。
「ふっ......!たぁっ!」
ダンジョンに響く戦闘の音。激しい戦闘で鎧がこすれる音、剣がはじかれる音、醜い化け物のうめき声。暗闇を好むそれは、住処に侵入してきた冒険者に容赦なく襲い掛かる。
「そっ......ぁ!」
短い掛け声とともに少年から繰り出された鋭い一撃が、緑の化け物を丁度真っ二つに両断する。相当の力が必要なため、少年の力は並ではないことがうかがえる。
「防御支援!」
「はい!」
短い会話で成立する指示。切れのある動き。見ているだけで歴戦の冒険者であるということがわかる...........と思ったはずだ。ここだけを切り取ったら。
「ぎゃーっ!魔物怖い!ぎゃーっ!怖い怖い!」
「おま...........っ!ふざっけんな!これ、ゴブリンだぞ!?って言うかお前、レベル50だぞ!?」
そう、緑の化け物だとか言ってみたけど、冒険者が一番最初に戦うであろう魔物、ゴブリンのことだ。つまり、冒険者が一番最初に戦う魔物から、レベル50の熟練冒険者が逃げ惑っているのだ。もちろん、冒険者はレベル50からスタートなんてことはない。当然だけど。
「リアはもういい!マリラ、攻撃魔法!」
「は、はい!」
マリラが短くつぶやいた詠唱をもとに杖の先端から光の奔流があふれ出し、一直線に........少年の背中に直撃した。
「ぎゃーっ!?どこに撃ってやがる!?」
「あ、すみません、すみません!」
こいつもかなりの問題児だ。さっきの逃げてたやつはリア。魔物が怖いくせにパーティーに入れていたら、いつのまにかレベルが上がってた新米である。まぁ、レベルが上がった理由はこれだけではないが.........で、こっちはマリラ。優秀な魔法使いだ.........と、最初は思ってた。こいつによると、マリラが持っている杖は意識がある杖で、すごいイタズラ好きらしい。........張り倒すぞロリが。
「だーっ、もういい!クロア!」
「了解しました。殲滅します。」
お、良い動き。さすが俺の一番弟子。俺が自分の自由時間を削って鍛えただけのことはある。こうして仲間が成長していく様を見てると、まさに冒険者って感じでいいよね。うん。
「はっ、ふっ、たぁ!くらえ、【光】」
「あ、お前バカ!」
ピカ――――――――――――――――ッ!
「ふにゃぁぁぁぁ...........。」
実はこのクロア、光が大の苦手なんです。ばっきゃやろぉぉぉぉぉぉあぁぁぁぁぁああ!なーに自滅しとんのじゃぁ!?ワケわからん!マジでワケわからん!駄目だコイツも!ウチにはまともな戦闘要員はいないのか!?ああ、頭痛い。
あ!
「そこの冒険者さーん!ちょっと加勢してくださいませんか!?」
「了解でーす!少し待っててくださーい」
「急いでくださーい。若干二名ほど齧られてます。」
もちろん嘘だ。こうでも言わないと、実は来ないパターンとかあったりするからね。本当に最近の冒険者は利益のためにバンバン仲間を売ったり嘘ついたりするからね。あーあ、嫌な世の中だ。
「ええ!?ほ、本当ですかぁ!?ちょ、急いでいきますからー!」
本当早く来いよ。そろそろ本当に危なくなってきた気がする。ああ、魔法使いって素手がメインウェポンだっけ?危ない危ない。見てらんない。本当に本当に。あ。
「ジゼルさん...........頭がいたいです」
「ああ!本当に!本当にかじられてるから急いで!」
マジでかじられとるー!?瀕死のゴブリンが一矢報いようと頑張ってやがる!やめて!?頑張らないで!?うちの魔法使い、一応......たまに魔法ちゃんと打ってくれるんだから!ねぇこれ本当に一体どういう状況なの!?
「あれ?どこかで聞いたような声...........」
「良いから早く助けて!」
バッシュ...........ッ!
職業は盗賊か!なるほど!盗賊のサブ武器はナイフ、短刀。通常時は普通の剣を使うことが多いが、中距離、または遠距離攻撃を行う際や、暗殺する際などにナイフは使われる。ナイフは投擲武器にもなるからね。う~ん便利!
「いや、盗賊ではなくて、上位職のアサシンです。」
アサシンてすごいな!この年で上位職になれたのか。しかも、ただ上位職になっただけじゃない。この距離からゴブリンを倒すとなると、実力もかなりのものだ。
「助かったよ。俺はジゼル。で、齧られてたのがマリラ。で、逃げ回ってるのがリア。転がってるのがクロア。」
よろしく、と言ってみる。よく考えてみると、この状況で自己紹介ってすごいな。自分でもなんか笑えてきた。あはは......はぁ。
「よろしく。」
「変わった人だな。」
「何が?」
やば。結構衝撃的で、思わず口に出しちゃった。だってさ、今時の冒険者とはあまりにも違ったようなタイプっていうか......
「いや、助けた見返りをくれとかいうのが普通だろ?でも、君は言わなかった。それでちょっとビックリしてさ。」
「なんだそんなこと。」
そんなことって。お礼について触れないで、いきなり自己紹介したら殴りかかってきたやつもいたのに。...........っていうか、何で俺たちってこんなに不幸が続くんだろう。
「むかし、助けてくれた人がいるの。大量のゴブリンに怯えることもせず、仲間に的確な指示を出し、私を救ってくれた。」
「で、その人物は...........」
「助けたお礼に...........とか言わずに、『大丈夫か?』って。」
「かっこいいな、その人。見習いたいよ、本当に。」
「そうね。だから私はその人に近づけるように目指しているの。」
なるほど。命を救ってくれた恩人に憧れ、生き方を真似るってことか。立派な考え方だ。立派な考え方だけど...........ね。
「それは自分の意思なのかな?」
「どういう意味?」
「つまりは、本当にそれが自分のやりたいことなのかなっていうこと。」
「答えになってない」
「なってるよ。」
ちょっと難しいか。俺も何言ってるか良く解んないし。まあでもあれだ。うん。つまりはそういう事だよ。うん。だからその。あはは。あれですよ。
「俺が言ってるのは、無理して冒険者にならなくていいんじゃないかって。」
「無理なんてして」
「それだったら良いんだよ。でも、その人の真似をするんじゃなくて、他の職業でも生き方を見習うことはできるんだぞ。」
俺の言い分に少女はハッと息をのむ。......気づいていなかったのかぁ。まぁそうだよな。今まで憧れをばねにしてきたんなら気付かんわ。うん。誰だって憧れた人のところ目指して一直線だもん。もう少し前にあってたら俺の意見にも耳を貸さなかっただろう。
「うんうん。解るよ?俺も冒険者になるって言ったときは周りが大反対したしね。没収されちゃったし。」
「没収......?」
やば。ここまで話すつもりなんてなかったのに。まぁいいか。適当にごまかせるでしょ。うん。ダイジョブダイジョブ。
「あ~取り敢えず自分の本当にやりたいことを我慢してまで、その人の背中を追おうとしなくてもいいんじゃないかなって話。」
「忠告、どうも。でも、私はもう決めてるから。」
うん、大丈夫そうだね。自分の中で決まってるっていうならいざという時に揺らがないですむでしょう。よろしい。
「主様、またそうやって人間ひいきを......」
「人間ひいき......?」
あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"。なーんでうちのパーティーの子は頭の中がお花畑パーティーなんでしょうかねぇ。頭の中でパーティーでもやってんじゃねーのォォォォォォォォォォオオオオ!?