キャラメル
ありがとう。それにしてもキャラメルなんて久し振りだなぁ。てか、高校生にもなってポケットにキャラメルを入れてるなんて、子供みたい…………
え、あぁ、どうってことはないよ。ただ、昔のことを思い出していたんだ。ちょっと、いろいろあってね。
え?何があったか聞きたいって?いいよ。教えてあげる。ただし、他言は無用だよ?これは僕とあの子しか知らないのお話なんだ。だからこれを広めてしまうのはやっぱり抵抗があるし、とっても恥ずかしいことだよ。
僕が小学校低学年ころ、僕の家の隣には僕とおんなじぐらいの年の女の子がいたんだ。お金持ちの子でね、私立の小学校に通っていたみたいだから学校で一緒になることはなかったけど、でも当時の僕からしたら一番の親友だったね。もちろん、学校の友達から嫌われてたり、仲良くなれなかったりしたわけじゃないよ。ただ、そのこと話す時が一番自然体でいられたんだ。
え?名前?名前は出さないよ。君はそういう話がすきそうだから言わない。でも、あえて何かを言うのなら、やわらかい髪で作った小さなおさげがかわいらしい女の子だったね。
で、僕は学校から帰ったら彼女の家によく遊びに行ってたんだ。まぁ僕の両親は共働きで家を空けていたからね、特に考えなしにそこに行って彼女と遊んで、夕方になったら家に帰るって生活をずっとしていたんだよ。でね、彼女は僕が家に来るたびにキャラメルをくれたんだ。本当に庶民的な、銀紙に入った四角いキャラメル。きっと彼女の好物だったんじゃないかな?いつもは私立小学校の制服のポケットにそれを忍ばせててね、彼女が何かするたびにカタカタってキャラメルが音を立ててた。それで、三時ぐらいになると箱からキャラメル一粒取り出して、僕にくれたんだ。彼女があまりにこっそりそれをくれるもんだから、まるで秘密や悪戯の共犯みたいだったよ。いっつも彼女とそれを食べながら僕はおままごとして、漫画を読んで、テレビを見ていた。
でも、幸せな時はあっという間に消えてなくなるんだよね。僕が小学校三年生になるぐらいに、彼女は引っ越すことになったんだ。確か父親の転勤とかって言ってたかな。それで、彼女はあっという間に引っ越してしまったんだ。大人の事情をどうこうできるわけじゃないからね、そこは仕方のないことだと思ってる。でも唯一心残りがあってね。彼女が旅立つ日、言いたかったことがあったんだ。トラックに荷物がすべて入って、すっかり空っぽになった家から彼女が出てきて、トラックに乗り込む。その様子をずっと見ながら僕は、手紙を書くよって言葉を口の中で転がしていたんだ。でも、結局言えずじまい。だから少し心残りなんだ。
……って、どうしたの?
そっか、そっか。
君があの子だったんだね