姥桜荘の変人たちに、ご挨拶を!
1話を小分け中です!
ブクマしてくださってた方、ゴチャゴチャになってしまったら申し訳ないです!!!
しかし、夢幻と零が支援をしてくれるとはいえ、一つ大きな問題があった。
「そういえば、俺は高校生だぞ」
「それがどうした」
「どうしたじゃない。平日は学校があるだろ」
「そうだな」
「そうだな、じゃない!」
その時、赤ちゃんが少しビクッと動いた感じがした。
「これ、あまり声を立てると赤子が起きるぞ」
「あぁ……」
「わかればよい」
「って、そうじゃなくて、さすがに学校には連れていけないだろ」
「そうだな」
「そうだな、じゃない! その時間は、零たちが面倒見てくれるのか?」
「我らの支援とは、あくまで経済面と知識面、その他例外もあるが、基本的に赤子の面倒を直接的にみることはない」
「なら、どうすればいいんだよ。俺に学校やめろってか?」
「そんな事は言っておらぬだろ。お前が学校に言っている間は、学校に行っていない者に、面倒を任せればよいだけのこと」
「俺は近所にそんなことを頼める親戚や知り合いはいないぞ」
「近所といわずとも、一つ屋根の下におるではないか」
零がそう言うまで、斗真は気が付かなかった。いや、気がついてはいたのだが、目をそらしていた。
零は、この姥桜荘の住人の事を言っている。
姥桜荘は、築何年だ?と、思わせる雰囲気を持つボロ屋だ。
もともと三階建ての家だったのを改装し、今は借家として使っている。
斗真は二階の部屋を借りていた。
三階には、先程の酔っぱらい大学生、那須明美さんの部屋と、留年生、藤宮和希さんの部屋がある。
一階には、大家のお婆さん、松竹うめさんの部屋と、売れない漫画家、高田健次さんの部屋がある。
「待ってくれ。そこまで知っているのなら、ここの住人がどんな人か知ってるだろ。明美さんはさっき見てのとおりだし、大家さんは声は大きいし、何と言ってもボケは酷い。健次さんは仕事もあるってのもあるけど、楽観的すぎて任せておけない。和希さんの勉強の邪魔はしたくないし、あの体じゃあダメだ。この姥桜荘には、平日の昼間に人はいるが、誰一人として子育てを任せられるような人はいない!」
「お前、我らがなぜこの……何といったか? うばなんやら荘に来たのか聞いておらなんだか?」
まさかとは思った。そして、そのまさかだった。
「我らはもともと、神多百都を訪ねて参ったのだぞ。昼間の赤子の面倒は、神多百都に任せればよい」
「いやいやいやいや、確かに彼女は俺と同い年で同じクラスのくせに一年生の夏休み明けて以来、一度も登校していない引きこもりだから家にはいるけど、ダメだ! あんなやつにこの子を任せられるか!」
「おぉおぉ、お前、なかなか親心があるではないか」
「そうじゃ無い! 彼女は本当にやばいんだ!」
そう、あれは俺がここへ引っ越しをしてきた高校二年生に上がる前の冬の事。
俺は、大家さんと一緒に、姥桜荘の住人ひとりひとりに挨拶に回っていた。
「えっと、ここが誰じゃったかのぉ? 名簿名簿……あぁ、那須明美さんの部屋か! んだ。ここが明美さんの部屋で間違いねぇ……あんた、誰だぁ!?」
「今日からその空き部屋に引っ越してきた邦枝斗真です」
「おぉ、そうじゃった」
大丈夫か……このお婆さん。
「そんで、ここが……誰の部屋じゃったかのぉ……」
「那須明美さんの部屋ですよ」
「おぉ、そうじゃった。あーけーみーさん! ちと良いかの?」
大家さんの馬鹿でかい声に、少ししてドアが開いた。
出てきたのは、真っ昼間から日本酒の瓶を片手に提げ、そのにおいをプンプンさせている、茶髪のショートボブヘアをしたすっぴんの明美さんだった。
「なぁ〜に? うめさん、あたし今日大学生が休みで、これから朝まで飲み明かす予定なんだけどぉ〜」
これから朝までって、今は昼間なんだが……
「なにって、隣に人か越してきたんだで挨拶して回らせとんのよ」
「ふーん。それが、この少年という訳だ」
明美さんは、お酒でほんのり赤くなった顔を斗真に近づけてきた。
間近で見ると、すっぴんの割に肌はきれいだし、酒臭くなければアップにもじゅうぶんに耐えられた。
「酒くさ……」
思わず声を漏らしてしまった。
明美さんはニヤニヤするだけで、気にする素振りも見せない。
「あたし、農学部で醸造やってんの。ここには大学入ったときからいるから、今年で三年目。好きなものは酒。だから、彼氏にして欲しけりゃ二十歳越えてからにしなね」
「何言ってるんですか」
「明美さんはいつもこんな感じさね……あんた誰だぁ!?」
「今日から二階に越してきた、邦枝斗真です。高校二年生。よろしくお願いします」
大家さんのボケが良い自己紹介のきっかけとなってしまった。
「とーまね、よろしく」
次に挨拶に回ったのは、明美さんの向かいの部屋の住人、藤宮和希さんだ。
「こんにちは、あの、二階に越してきた邦枝斗真です。よろしくお願いします」
部屋から出てきたのは、青いフリースを着込み、咳き込んで出てきた辛気臭い雰囲気の人だったが、なかなかのイケメンだった。
「藤宮和希です……げほっげほっ……すみません、今ちょっと風邪をこじらせていて……げほげほげほ……よ、よろしくお願いします」
「だ、大丈夫ですか?」
「あ、気にしないでください。いつもの事なので」
この人、今いつも風邪を引いていると言ったのか?
「あ、あぁそうですか。取り敢えずこれ、つまらない物ですが」
そう言って、明美さんのときも渡した手土産を手渡した。
「あぁ、これはご丁寧に……げほげほげほっごほっ、ごほ……」
「あぁ、本当に大丈夫ですか? 大変な時にすみませんでした」
「あ、いえ。今ちょうど新しい勉強法で、腹筋と腕立て伏せと背筋とスクワットをしながら英単語を覚えていた合間でしたから、大丈夫ですよ」
「全然大丈夫じゃない! 何やってるんですかあんたは!」
「いや、体を動かしながら英単語を覚えると良いって聞いたことがあって……」
「それで風邪をこじらせちゃ元も子もないでしょ」
「そ、そうか……げほっげほっげほげほごほごほ……」
「あぁー、もうおとなしく寝ていてください」
「うぅ……ごほごほっ……」
斗真は和希さんを布団まで誘導し、部屋から出てきた時には、大家さんにまた、
「あんた誰だぁ!?」
と、言われることとなった。
そして、一階の住人、高田健次さんの部屋を訪れた。
「ちわーっす! 高田健次です! 気軽に健次くんでも、天才漫画家さんとでも、何とでも呼んでもらってオッケー! 歳は二十五歳で、うめっちを除いたうちでは最年長! だから兄貴って呼んでくれてもいいぜ!」
威勢良く開いたドアから現れたのは、これまた威勢の良い好青年、高田健次さんだ。
「二階の部屋に越してきた邦枝斗真です。よろしくお願いします」
「斗真か! いい名前だ! よろしく! そうだ、今夜うちで歓迎会しようぜ! そうと決まったら鍋だな! 今夜は姥桜荘の闇鍋大会だ!」
一人暴走をはじめた健次さんは、慌てて部屋に入ると、中から雪崩でも起きたかのような音がしたあと、バキーンと分厚い陶器が割れる音がした。
そして健次さんが戻ってきた。
「あははは、ごめんごめん! 鍋を割っちまったよ! でも大丈夫! 鍋がなければ薬缶を使えってね! あははははは!」
健二さんは、取り敢えず、割れた鍋を片付けるために部屋へ戻っていった。
ちなみに、手土産を渡したら、たいそう喜んでもらえた。
まだまだ1話小分け作業は続きます…