怪しい二人組、夢幻・零あらわる!
もともとあった1話が、長すぎたので小分けにしてます!
内容はそのままですっ
ブクマしてくださってた方、ゴチャゴチャになってしまったら申し訳ないです!!!
もともとあった1話は、7話にそのまま残っておりますっ
現在の第7話=現在の1〜6話です!
詳しくは、活動報告にもしてあります!
苦情感想悪評文句不満、受け付けます!m(_ _)m
「俺と、子育てしてくれませんか?」
……何言ってるんだ、俺。
一瞬にして空気が凍りついた。
姥桜荘住人、神多百都は、隣の部屋の住人である俺、邦枝斗真の発言に眉を引くつかせていた。
そして次の瞬間、俺の目の前に星が飛び散った。
そもそもだ、俺だってこんなことを口走ってしまったのには、わけがある。
昨日の晩、風呂に入ってそろそろ床につこうかと考えていた矢先だ。
「さて、明日は休みだし。ゆっくり寝るとするか」
そう思い、部屋の明かりを消したが、辺りはぼんやりと明るい。
光源と思われる方に顔を向けると、目の前に幼子の顔があった。
「うわ!」
驚いて声を上げるが、相手はそれには驚いた様子もない。
「あれ? わゎ!申し訳ございません夢幻様! 間違えて隣の部屋に来てしまいました!」
幼子の後ろに、幼子と同じような、巫女装束の格好をした黒髪の女性が堂々と立っていた。
「だ、誰!?」
「貴様、誰とはなんだ。夢幻様に向って、無礼であるぞ!」
「むげんさま? どこから入ったんだ! そ、そうだ。警察!」
幼子はペチッと、斗真の頭を叩いてきた。
「うるさいぞ。それに、察を呼んでも無駄なこと。我らの姿は不用意には見えぬようにしてある」
「そんな馬鹿なことはあるか。見えない人間がいたなら、それは人間じゃないだろう!」
幼子は、大きくため息をついた。
「夢幻さまぁ〜、どう説明いたしましょう?」
夢幻と呼ばれた後ろの人物は、花魁を連想させる容貌の持ち主だった。長いまつ毛、真っ赤な紅が凛々しく引かれた口元。その筋肉が微かに動き、
「ならばおぬしに、子を与える」
そう言った。
頭がおかしいやつらが侵入してきた。
大家さん……は、もう寝ている時間。絶対に起きない。
そうだ、もうすぐ例の時間だ。午前〇時三分、決まっていつもこのタイミングで……
バンッ!
「おかえりぃ〜 ヒックッ……よっしゃ飲み直すぞーっ!まだまだこれからこれからー」
「だから明美さん! ここは俺の部屋ですって! 何度言ったらわかるんですか!」
この酔っぱらいのお姉さんは、那須明美さん。農学部の大学生で、醸造の研究をしているらしい。
そのせいか、というかそれを言い訳に毎晩飲み歩き、へべれけになって姥桜荘に帰ってくるのだが、決まっていつも〇時を三分過ぎた頃に、俺の部屋に間違えて入ってくるのだ。
「えぇ? あ〜ごめんごめん。てへぺろ〜」
「もぅ。でも今日はあなたが救いの神に見えます! 助けてください!」
明美は、怯え助けを求める男子高校生を、さも面白がるように
「どったの〜? Gでも出やした?」
と、のんきなことを言った。
「なに言ってるんですか、この人たちが目に入んないんですか!」
明美は、ドカドカと斗真の部屋に入り、Gを探してキョロキョロとしていたが、斗真の言葉に不思議そうな顔をした。
「あんた、お酒は二十歳になってからよ?」
「はい?」
「未成年は、とっとと寝な〜。んじゃ、あっしは部屋で飲み直すんで。じゃ」
「ちょっ、あけみさ……」
バタンッと、扉が閉められ、斗真の部屋には斗真と怪しい二人組が残された。
「わかったか、今はお前以外に我らの姿は見えんのだ」
幼子は、どうだ。というようにふんぞり返った。
そんな馬鹿な。
「では、仕方がないから説明させてもらうぞ。我らは身寄りの無い赤子を保護し、里親となるべき者のところへ赤子を届け、支援するという活動をしておる」
幼子が勝手に説明を始めた。
「そして今回、新たな里親の元に赤子を届けるため、神多百都の部屋を訪れたのだが……」
そこで幼子は、悔しそうに顔を歪めた。
「この零めが未熟ゆえ、誤って隣の部屋に……申し訳ございません!夢幻様!」
この幼子は零、奥が夢幻という名前らしいという情報と同時に、斗真はとんでもない間違いに気がついた。
「待ってくれ! じゃあ、もともとあんたたちが探していたのは、隣の部屋の住人で、そいつが里親になる予定なんだろ? だったら、さっさと隣の部屋へ行ってくれよ」
そうだ。こいつらは隣に用事があるんだ。だったら、さっきの事も、隣の住人の用事だ。
しかし、
「おぬしに子を与える」
夢幻はもう一度、はっきりと、斗真の目を見て言った。
「という訳だ。おとなしく里親になってもらうぞ」
なにが、という訳だ。だ!
「いや、そんな適当でいいのか! 意味がわからないぞ? いきなり現れてきたやつに里親になれなんて言われる事なんか、俺の一生に一度もないはずだ!」
「お前の一生の計画なんぞ、把握しきれておらんわ。全ては夢幻様がお決めになられる。お前はおとなしくそれに従っておれ!」
なんて理不尽な。話せば話すほど、腹が立ってきた。
「もう、出ていってくれ! 俺はまだ高校生だし、隣のやつだって一応高校生のはずだ! そもそもが里親になんかなれっこないんだよ。もし怪しい宗教に誘おうってんなら、他を当たってくれ!」
斗真は怒りを顕にし、そうは言っているが、一方であるものに目を奪われてもいた。
夢幻の舞だ。夢幻は斗真と零の口論の間、舞を舞っていたのだ。
人の話を聞いている様子はない。なんとも場違いで、理解に苦しむ行動だが、不思議と心を奪われる美しい舞だった。
最後に夢幻は、天に両腕を伸ばし宙から何かを抱え上げるような振りをすると、いつの間にかその腕の中には、スヤスヤと眠る赤ちゃんが収まっていた。
「さあ、斗真よ」
夢幻に促され、差し出された赤ちゃんを我知らず受け取ってしまった。
白くて、サラサラした肌。もっちりとした感触から温かさを感じた。
はっと、我に返ったが、眠っている赤ちゃんがいるのでは、大声は出せない。
「安心せい。必要な物や費用は我らが準備する。育て方の助言もしてやれる」
零が小さな声で、しかしどこか頼りがいのある声で言った。
「それでも困ります。俺には無理です。俺、親の気持ちとか分からないし、この子のためにも、俺が里親になんてなってはいけない」
必死に目で訴えてしまった。
単なる面倒だから、という拒否ではない。
俺は幼い頃に両親を亡くした。事故だった。その後一人になってしまった俺は、親戚やらなんやらをたらい回しにされ、小学校高学年にあがる頃にようやく落ち着いたのだが、その家で虐待に遭っていた。そんな人生を送っていたため、俺は親の愛を知らない。
「おぬし、この赤子をおぬしと同じ目に遭わせるつもりか」
斗真は、夢幻に心を見透かされ、動揺した。
「この赤子、そなたが里親とならねば見知らぬ者たちの間をたらい回しにされ、運良く落ち着いた矢先は、よく考えもせずオモチャとして赤子を見る、無責任で情のない者であろう」
「そんなの、俺の責任じゃないだろ」
「ほぅ、ではおぬしは、露とも知らぬ我らのこの赤子への情を信用し、なんの罪もない赤子の運命を見て見ぬふりをするつもりか? それでよいのならその赤子、こちらによこせ」
夢幻は、無造作に赤子に手を伸ばした。
まるで、この赤ちゃんをつまみ上げるかのように。
斗真は思わず夢幻の手から赤ちゃんを庇った。
「決まりだな」
夢幻は手を引っ込めた。
「やっと決意したか。零は待ちくたびれたぞ。では、必要な物を置いていく」
そう言うと、零は手を叩き、同時に斗真の部屋にベビーベッド、おもちゃ、哺乳瓶、オムツが乱雑に現れた。
まるで魔法だ。手品にしては、できすぎている。
「いったい、あんたらは何者なんだ……」
斗真は目を丸くした。
「自己紹介がまだであったか。我は零。漢数字でゼロと書いて、れい。こちらは夢幻様。夢に幻と書いて、むげんさま。我らは今後、そなたらの育児の支援を任された者である」
これが、俺が高校二年生にして育児をする事になった経緯である。
短く、きりのいいところで!
元々あったのは、そのまま残しておきますっ