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神の警告

「ぐうぅっ!」

くぐもった呻き声を上げたカイくんの体の上に、私は勢いのまま倒れ込む。加速の世界が終わり、頭痛と身体中を激痛が襲う。

そのまま動くことも出来ずにいると、泣きながら私を叩く幼い声がする。


「このっ!よくも兄さんをっ!バカバカバカ!」

「ちょっ、ちょっと待って。痛たたっ!大丈夫、カイくんは無事だからっ」


痛い、痛い!ただでさえ体がバラバラになりそうなのに、子供とはいえ全力で叩かれると …… っていうか、この子結構力強いな!


私は苦労して、体をずらす。覆い被さっていた私が動いたことで、カイくんの顔と、カイくんの首へ一筋傷をつけた私の剣が地面に刺さっているのが見えたようだ。

サイくんはぺたんと座り込んで「良かった」と泣いた。


「サイ、僕は大丈夫。ちょっとやばかったけど」


ほんと、やばかった。聖戦の強制力の半端なさったらないわ。途中から段々正気じゃなくなって、本当にカイくんを殺す所だった。

我に返れたのは、サイくんの声のお陰だった。


「クロリス様っ!!」

息せき切って階段を登ってきたのは、メイちゃんとゲルパさんだ。


「メイちゃん!!皆は?」

「モンスターと交戦中です。また無茶しましたね。もう!」


メイちゃんは頬を膨らませてから、私に回復魔法をかけてくれた。私は痛みが引く心地よさに目を瞑る。これでまだ動ける。

目を開けると、ゲルパさんに回復してもらったカイくんが体を起こしていた。


「カイくん、もうひと踏ん張り行ける?」

そう言って私は懐から、なんの変鉄もない石を取り出す。賢者レナティリスさんから貰った魔力を回復する石だ。ちなみに私の分はゲルパさんの作。


「当たり前だよ」

石を受け取り、にっと笑ったカイくんは、すっかり頼もしい男の子の顔だ。


二人で神殿の最上部の端へ。そこから見た光景に息を飲んだ。


そこにいたのは恐ろしく巨大で、恐ろしく禍々しい、モンスター。


上半身は人と言える。肩からうぞうぞと無数の蛇の頭を生やしていなければ。下半身は巨大な蛇がとぐろを巻き、ぬらぬらと滑っていた。赤い目からは炎が吹き出し、その巨体は頭が雲にかかるほど。神殿の最上部とほぼ同じ高さだ。


巨大モンスターが顔を傾ければ、両目から溢れた炎が地面に落ちて大地を焼く。のっぺりとした顔に、ぽっかりと空いた穴のような口からは、白く凍てつく冷気の呼気が発せられていた。


そして、神殿の下は圧巻の眺めだった。島中を埋め尽くすほど集まっているのは。


「魔族と、人間 …… 」

信じられないものを見たように、カイくんが呟いた。


「う、動かしたのは、く、クロリスさんです」

ゲルパさんがカイくんに説明する。初めてのカイくんやラクシアさんがいるから、どもっちゃうみたい。


「い、今までクロリスさんが、さ、『災害』から救ってきた人たちが、く、国相手に蜂起したんです。そ、そそそれと、お祖母様とお祖父様が、知り合いの英雄や著名人たちに、は、働きかけて」


「いや、私が動かせたのはちょこっとよ!後は全部皆のおかげだし!」


レナティリスさんとユーグさんの人脈はかなり幅広い。そして、その人たちから、他の知り合いへ、そのまた知り合いへと広がって、王族や権力者そっちのけで駆け付けてくれたのだ。


だから、集まってくれた人たちは兵士ではない。元々モンスターを狩っていた傭兵や腕自慢の親父、自警団の若者たち。


「お、お祖母様とお祖父様を動かしたのは、クロリスさんです。ぼぼ、僕が動いたのも、フィンさんが動いたのも」


ちなみに、聖国とレナド王国に関しての権力者関係は、フィンさんが弱味やらなんやら握っていた。その人たちに働きかけて、集まる民衆に目を瞑ってもらい、移動手段を確保してもらったのだ。


「元々ラクシアを自由にする為に根回ししてたんだけど、役に立って良かったよ」

その時のフィンさんの笑顔が黒かったこと。生き生きしてたね、あれは。


「近付きすぎるな!魔法が使えるものは遠距離から!近接戦闘しか出来ない者は、竜の背に乗れ!無理はするなよ、これは生きる為の戦いだ!」

魔法に乗ったバドスの朗々とした声が響く。


巨大モンスターの右手が振り下ろされる。

「左翼、下がれええ!」

バドスの合図で一斉に下がる。振り下ろされた手は、空の大地を叩き陥没させた。


「あの手を狙って撃てぇ!」

竜族のブレスが、魔族と人間の魔法が一斉に放たれ、モンスターの手を吹き飛ばした。


モンスターの蛇の下半身がのたうつ。起きた地震に足を取られ、皆の動きが止まる中。


「おおああああああああああっ!!!」


飛竜の背に乗るシグルズが、大剣を渾身の力で蛇の下半身へ振り下ろした。直径二メートルはあるかと思われる尾が、叩き斬られて跳ね飛ぶ。

切断された巨大な尾は、地面で待ち構えていた全身岩のような肉体を持つ男が、あろうことか素手で受け止めた。

マジか!!っていうか、あの人もしかして、『歩く要塞』のハンクスさん?!


吟遊詩人の英雄譚に出てくる本物の英雄に、私は感動を覚えた。


ハンクスが受け止めてから、投げ飛ばした尾を今度はフィンさんの魔法が襲う。


「アルゲオ・アルブム」

白く凍てついた尾へ、先に放たれた魔法への干渉が追撃する。

「ワスターレ!」

シャアアアンと澄んだ音を立てて、粉砕された。


「ガオオオオオオッ!!」

モンスターが鼓膜が破れそうな声で吠える。


「障壁展開!!」

魔族と人間の魔法使いが、大規模な障壁を展開させる。

ドドドドドドドドッ!障壁へモンスターの肩から生えた蛇たちの吐いたブレスが着弾した。


「はっ!人間たちに遅れをとるなよ!気張れお前ら!!」

飛竜の上から赤毛に赤い甲冑、ジェド王が魔族を鼓舞しながら、自身も刃を振るい蛇の頭を斬り落とす。応えるように、飛竜たちは縦横無尽に空を駆け、背に乗る魔族が蛇の頭を斬っていく。


隣に立つカイくんを見た。赤の視線と翠の視線が交わり、互いに準備は出来ていると伝え合う。

練り上げた闇の魔力と光の魔力が、織り成す精緻で美しい模様。放たれる前から溢れる魔力に周囲の空気が震える。

側にいたメイちゃんとゲルパさんが静かに離れる。ラクシアさんが、サイくんの手を取って同じように離れてくれた。


モンスターの周りに飛んでいた飛竜も、足元の人間と魔族も、潮が引くように距離を取っていく。


膨大なマナが集まり、呪文によって魔法が世界へ発現する。

呪文はよほど的外れでなければ何でもいい。だから、二人で決めていた。白銀の剣と漆黒の剣が、天を突き上げる。


「「運命なんかに負けてやるか!!」」


光と闇が螺旋を描いてモンスターを包み、巨大な柱が吹き上がった。


魔法の柱として具現化したマナは、空気中に放出され、世界へ還元される。巨大なモンスターは消失し、ガコンと大きな音を立てて魔石が転がった。

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