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紙の花と幸せのおすそわけ

北上する街道を進みながら、ゲルパさんとメイちゃん、フィンさんはひたすら調べものとどうすればいいか話し合いだ。私とシグルズは、今まで以上に訓練に打ち込んだ。


特にゲルパさんは過去の聖戦の詳細が何処かに転がっていないものかと、片っ端から木の記憶を引っ張り出している。残念ながら、世界樹のユーグさんも把握してないのだ。


幾つもの町を通り抜け、災害を目にし、時にモンスターと戦いながら、私たちは進む。


立ち寄った町で、小さな婚礼を見た。朴訥そうな花婿と、慎ましそうな花嫁。家族と友人に囲まれたささやかな式だった。

幸せそうな二人と祝福する人たち。年配の人たちが、古い婚礼の歌を歌った。今王都で流行っている、明るくてテンポのいい婚礼の歌ではなく、少し古めかしい綺麗な旋律を奏でる歌。


我は光 人々照らし 希望を歌い 幸せ運ぶ

我は闇 人々安らぐ 揺りかごとなりて 癒しもたらす

我ら対となり 常に寄り添い 共に歩まん

いつしか分かれ 離るる時も 心は永久に 離れるなかれ


妙に心を揺さぶられて、立ち竦んでいるとシグルズが私の顔を覗き込んだ。

「わっ。びっくりした。脅かさないでよ」

「驚いたのはこっちだ」


シグルズの手が私の頬に伸びた。そっと何かを拭われて、私自身が驚いた。涙?


「お前、大丈夫か?また何か抱え込んでいるんじゃないだろうな?」

「えっ?違う。これは、えーと、ほら、感動したのよ」


私がわたわたとシグルズに弁明していると、横合いから淡い黄色の物が差し出された。

見ると、参列者一人一人に何かを手渡していた花嫁が、紙で出来た花を一つ手のひらに乗せてニコニコ笑っていた。


「貴女にあげる」

女にしては背の高い私は、目線を下にして彼女を眺める。北国特有の白い肌に、大きくはない茶色の目、そばかすの浮いた丸い鼻と頬。着ている花嫁衣装は代々受け継がれているのか、少し黄ばみもあって新しくはない。紙の花を乗せている手は、あかぎれだらけ。


とても、綺麗だと思った。


「ありがとう」

手作りであろう、淡い黄色の紙の花を、私は両手でそっと受け取った。


「どういたしまして。ふふふ、花嫁からの祝福よ。あなたたち、とてもお似合いだと思ったから」


「ええっ?!」

最後に花嫁が落とした爆弾に、私の顔へ一気に血が昇る。彼女は私の手に紙の花を乗せると、軽やかな足取りで花婿の元へ戻っていった。


やや離れた所でゲルパさんと同じように婚礼を見ていたメイちゃんが、わたしが持っている紙の花を見に、こっちへきた。


「いいなあ、クロリス様。花嫁からの贈り物なんて。って、どうしたんですか?顔が真っ赤…… あれ?シグルズ様も?」

「な、なんでもない!なんでもないから!」


私の手のひらの上では、淡い黄色の紙の花が、かさりと音を立てて存在を主張した。

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