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戦場を駆け抜けて

僕の魔法は正面をぶち抜き、数百メートルにも及んで、春先まで解けることのない雪の断層と凍った土を露出させていた。

前方には飛翔するバルドールが咆哮と共にブレスを吐く。彼が狙うのは右翼側の魔導兵器だ。

不意を衝かれた人間たちは浮き足立ち、魔導兵器を飛ぶ僕らに合わせられないでいる。


青いブレスが、そんな人間たちと魔導兵器を薙ぎ払った。そのままバルドールは半ば墜落するように右翼へ突っ込んでいく。

彼の唯一蒼を残していた頭部さえ、黒く染まり僅かに残っていた理性の消失を告げた。牙を剥き、巨体で押し潰し、鋭い爪と強靭な尾を振るう。


バルドールの背から飛び降りたドライガ王も、残る皮膚を真っ黒に変えていた。


左翼へも、竜族、魔族の『かがり火』たちが魔導兵器へ向かっていく。最期の理性を放棄し、押し込めていた殺生への衝動を目の前の敵へぶつける。


「歩兵!浮き足立つな!必ず五人以上で仕留めていけ!魔導兵器師!飛竜を撃ち落とせ!魔法使いはボヤボヤするな!」

敵将の指示が飛ぶ。幾人かの兵が落ち着きを取り戻し、反撃を受け始めた。


魔法を込めた矢があられのように、竜たちに降り注ぐ。身体中に矢を生やしたまま、尾を振りブレスを吐いて十人程まとめてほふるが、即座に三人以上が剣を突き刺し、魔法が竜を襲う。

倒れこみながらも、暴れる四肢が近付く人間を吹き飛ばした。


全身を黒く染め、狂戦士と化した魔族が剣を振るう。二人を纏めて薙ぎ斬り、返す刀でまた一人を斬る。そこで背中を槍が貫く。黒い血を撒き散らし、槍をへし折って突き進む。目の前の人間を二人剣で串刺しにして、横合いからの敵の剣に倒れた。


一人、二人。一頭、二頭と命が散っていく。


散った者たちを追い抜き、歯を食い縛って、僕たちは進む。

身を切るような冷たい風の中、飛んでくる矢を巧みに避けて飛竜は飛ぶ。目指すはサラナ聖国の聖都、聖女の元へ!


振り落とさないように、内腿にぐっと力を入れて左手で手綱を握り、剣を掲げた。

「守れ!」

障壁が展開し、飛んできた魔法を阻む。生まれた爆風と衝突音を置き去りにして、前へ進んだ。


左翼の魔導兵器が、僕たちに狙いを定める。動揺する僕らに、伯父さんのよく通る声がかかった。


「右下へ飛べ!それで射程範囲から外れる!」

言われるままに右下へ旋回。発射された光の粒子の下を僕たちは潜った。

魔導兵器は大砲のような筒から、約三十度の角度で円錐状に無数に発射される。射程距離は筒の先端から約八十~百メートル。本体から離れれば離れるほど射程範囲はでかくなる。その為、逆に本体に近付けば避け易くなる。


空を征するのは竜族のみ。空中なら味方への誤爆の危険性がない故に、あの魔導兵器は活きる。


「次は右手の丘の上から来るぞ!左へ避けろ!」

空中で急旋回をかける。一頭、 射程範囲に入ってしまい飛竜の翼に被弾した。きり揉みしながら、左へ墜ちていく。


「まだ射程距離だ!左前方からも来るぞ!」

左前方が光った。今度は右へ旋回して範囲から逃げる。


「もう一度右の丘から来る!射程の死角を潜って抜けろ!」


左右へ目まぐるしく方向を変えながら高度を上げていく。百メートル以上、高度を上げれば届かなくなる。


「射程距離から抜けた!一気に行くぞ!」


抜けるような青空に浮かぶ白い雲を間近に感じながら、僕は振り返った。

地平線を埋め尽くす人間たち、空を飛翔する数体の竜、魔導兵器の光、魔法の火柱や竜巻が上がる。戦いの喧騒はぐんぐん遠ざかり、風切り音に負けて、やがて聞こえなくなった。


サラナ聖国迄は徒歩なら一ヶ月、飛竜では片道半日の距離だ。

僕の前には三体の飛竜が、各々魔族を乗せて飛んでいる。右は伯父さんが、左はアグヌ国ジェド王の側近だ。


雪原を抜け、白く凍った森を飛び越し、幾つかの人間の町の上を通りすぎていく。

やがて白を基調とした荘厳な建物を、中央に据えた町が見えてきた。


「あれが、聖都セイルーン」

「セイルーンの守りは結界頼り。カイ様の魔法なら容易く破れましょう」

僕の呟きに、若干声に疲れを滲ませた伯父さんが答えた。ここまで四時間以上休まず飛び続けてきたのだから、疲れもする。


「それだと中の人間たちも無事じゃ済まない。斬るから先頭を譲って」


腰の剣を抜いて先頭へ躍り出る。小さく見えていた町は、近付くと予想よりもずっと大きい。更に近付くと、光るマナがドームのように町を覆っていた。

飛竜の彼が速度を落としてくれた。剣を突き出して頼む。


「このまま円を画くように旋回して」

旋回の軌跡と同じように結界が斬り取られる。地上ではこちらを指差して、何事か言っている人間たちが見えた。


結界を斬り取った所から聖都へ入る。

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