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自分を好きになる一歩

彼が飛び込んだのは、街道でも獣道でもない木々が生い茂る森。普通歩くこともままならないものだが、ゲルパさんの前の木や茂みが生き物のように道を開けていく。しかもゲルパさん、普段どちらかというと、とろそうなのに滅茶苦茶速い!


雷の強化魔法をかけて追う。

「クロリス!感じるか?!」

狭いので、私の後ろを走るシグルズが訊いてきた。

「いや、気配とか分かるほど経験積んでないって!」

「こっちの方角にモンスターと、多分メイも居るぞ」

それでか!よりによってメイちゃん一人でモンスターと遭遇だなんて!


目一杯の速度で走っているのに、ゲルパさんの背中は遠ざかり、道を開けていた木々が戻っていく。

木が邪魔で思うように進めず、焦燥感に駆られる中、身の毛がよだつ嘶きが響いた。


「嘶き …… ってことは、馬?」

普通の馬のような、可愛らしい声じゃなかったけど。最早ゲルパさんの姿は欠片も見えず、視界を塞ぐのは鬱蒼と茂る木々と溶けかけの雪のみ。


「退け、クロリス」

シグルズが私の前に出て勢いよく大剣を振り下ろす。

ガガン!という音と共に、目の前の木々が粉砕されて少し道が拓ける。これを繰り返した。

いた!ゲルパさんとメイちゃんだ!

メイちゃんの前に庇うように、手を広げて立つゲルパさんがいる。その視線の先には、異形の馬だ。


黒光りする体躯に血走った目、泡を吹く口元、鬣は無数の蛇だ。何よりも異様を誇示するのは額に生える巨大な角だ。太く長く尖った角を支えるためか、馬の首は異常に太く、大きさこそ普通の馬と変わらないが、全身が筋肉の鎧を纏ったかのようにみっちりとした重量感があった。


足元には折れた矢が落ちていて、メイちゃんは泥だらけで左腕を押さえていた。


私の体から音を立てて血の気が引く。あんなやばそうな馬とメイちゃんが交戦したんだ。


助けに入るべく更に速度をあげようと、足に力を込めた。が、何かがその足に絡まった。

視線を足に落とすと、木の蔓が足首に巻き付いている。蔓を伐ろうと剣に伸ばしかけた手首に、また蔓が巻き付いた。


「クロリス!」

足を止めて私を振り返るシグルズにも、木の蔓が伸びる。大剣で叩き落とすが、数が多く大剣を振るには狭い。その間にも次々と蔓が伸び、私は手足だけでなく胴体まで頑じ絡めに拘束されてしまった。


「レナティリスさん!ユーグさん!解いて!!」

何処かにいる犯人に向かって叫んだ。木を自由に動かす、これがユーグさんでなかったら未知の敵だ。それは勘弁してほしい。


「勿論、解くとも。もうちっと見学してくれたらね」

ふおっふおっふおっ、という笑い声と共にレナティリスさんと、ユーグさん、そして私と同じようにぐるぐる巻きにされたフィンさんが後ろからゆっくりと現れた。

と、いうよりも身動きがとれないので、連れてこられたという方が正しいみたい。口元まで蔓が巻き付いていて呪文を封じられている ……って、私もかー!

伸びてきた蔓に同じように呪文を封じられて、私はレナティリスさんとユーグさんを睨む。


またもや、嘶きと蹄が土を抉る音が響く。ゲルパさんがメイちゃんを抱え上げて、横へ走った。

メキメキと木々を砕き、黒馬が通りすぎる。標的を外したとみるや、黒馬は後ろ足で二人を蹴り殺しにかかった。


「ひいいいっ」

ゲルパさんが悲鳴を上げると、二人の前に木や蔓が壁を作る。が、すぐに粉砕された。


「うわああああっ!」

「きゃああああ!」

二人のすぐ横を馬の後ろ足が過ぎた。


「…… こ、これじゃ、駄目だ」

呟いたゲルパさんは、腕に抱えたメイちゃんに目を向けた。蒼白な顔で唇を噛み、何かを決意した。


「め、メイさんっ。その、少しの間だけだから、このモンスターを倒す間だけ、僕に力を …… 貸してください」


その間も何重にも木の防壁を作り、片っ端から壊されていく。

ゲルパさんはメイちゃんを片手だけで抱き、右手を差し出す。メイちゃんはゲルパさんの今にも泣き出しそうな顔を見上げた。

「力を貸して頂くのは私の方です」

そう言って躊躇いなくゲルパさんの手を握った。その手をぎゅっと握り返す。


「ここに世界樹の精霊ゲルパと人間の娘メイとの契約を結ぶ。これは我が敵を倒すまでの仮契約とする」

いい終えたゲルパさんの容姿は、みるみる姿変わっていく。白かった肌は木肌と同じ褐色になり、髪は伸びて木の蔦のようにうねり硬質化する。深緑の瞳は白目の部分が無くなった。体の所々から緑の葉を繁らせるその姿は、人の形をした木のようだった。


「手を離さないで」

「はい。離しません」


メイちゃんはゲルパさんの変わりように驚いた顔をしたが、素直に頷く。

その二人の前に黒馬の蹄が迫った。

ガキン!と今度は木の蔓が蹄を阻む。蔓は四方八方から現れて、黒馬の足や首に巻き付き、木の枝がメキメキと槍のように形を変えて黒馬の喉元へ狙いを定めた。


「貫け!」

ゲルパさんの一言で槍が黒馬の喉へ突き刺さる。槍は一撃で黒馬を絶命させ、魔石が転がった。


はーっと力を抜いて、ゲルパさんがメイちゃんを下ろして顔を背ける。


「ぼ、僕のこの姿は怖いでしょう?き、きき気持ち悪いでしょう?」

ゲルパさんは顔を逸らしたまま、引きつった笑みを浮かべた。

「そうですね。見た目は怖いし、気持ち悪いです」

メイちゃんはきっぱりと言い切った。いや、もういっそ気持ちいいくらいに。


ゲルパさんの顔が、遠目でも分かるくらい強張った。


「でも、ゲルパ様は怖くも気持ち悪くもありません」

「…… え?」


「見た目がちょっと怖くても、気持ち悪くても、ゲルパ様自身は変わりません。頼りなくて、怖がりで、人見知りが激しくて、はっきり喋らなくてちょっと苛々しますけど」

「ううっ」

ゲルパさんは容赦ないメイちゃんの発言にちょっとグサグサきたらしく、胸を押さえた。


「ゲルパ様が教えて下さることは、どもりさえしなければ大変解りやすかったです。それに私を助けて下さったじゃありませんか。ゲルパ様はいざとなった時は頼りになる方です。もう少し御自分に自信をお持ちください」


「た、助けたっていっても、元は僕が君を森に置き去りにしたせいで…… 」

「はい。酷い目に遇いました。では、悪いと思うなら私に力を貸してください」


そう言ってメイちゃんは、ゲルパさんに手を差し出した。ゲルパさんはポカンとその手を眺める。


「契約、仮ではなく本当の契約を結んで下さい」

信じられないものを見る顔で、メイちゃんの顔と手を何度も見る。メイちゃんの目が本気だと分かると、表情がくしゃりと歪んだ。


私はあの夜明け前の密会で、ゲルパさんを案じるレナティリスさんとユーグさんを思い出した。

「儂とユーグの間に出来た子は皆、人の血の方が濃く出た。孫たちも然り。精霊の本質を継いだのはゲルパだけ。あの子の母は人間で、父であるグラドもユーグの血は出ずに普通の人間と変わりなかった。故にあの子は人間の町で育った」

ユーグさんが、レナティリスさんの肩に手を置いて続けた。


『幼い頃は感情の昂りで、精霊の姿になることもしばしばあった。人間の町で、あの子は鬼子として忌み嫌われた。人は異質な者を嫌う生き物だから』

目を伏せるユーグさんにも、覚えがあるのだろうか。

「見るに見兼ねて、儂らがあの子を引き取ったが、あの通りすっかり人を恐れてしもうたんじゃ」

二人は望んでいた。家族だけでなく、ゲルパさんを他人が肯定してくれることを。


「ぼ、僕は、嫌われもので。いない方が良いって…… 」

「ほら!それです、それ!それが間違い」

メイちゃんは腰に手を当てて、ゲルパさんに詰め寄った。

「私は嫌ってません。いてくださった方が良いから契約をしたいんです。だから、はい!」


ずいっと手をゲルパさんの目の前につき出す。みるみるゲルパさんの目が涙で一杯になった。


「け、契約を結びます。ぐすっ、これからよろしくお願いします」


そう、泣きながらメイちゃんと本当の契約を結んだ。

メイちゃんに叱られるゲルパの落書き。

これから尻に敷かれるのじゃ!

挿絵(By みてみん)

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