メイちゃんの憂鬱
あー、美味しい。温かくて胃に優しいお粥が体に染みるー。
幸い私の熱は一晩で下がり、朝食に蜂蜜を溶かしたお湯とお粥を頂いて、ほっと一息ついた。
「ほんっと、もう心配させないで下さいよ!」
恨みがましい目を向けながら、メイちゃんが私の腕を取った。私の怪我に回復魔法をかける。
モンスターの襲撃で、怪我人が続出したタニカラ町に回復魔法使いは居なかった。メイちゃんは貴重な回復魔法使いとして重宝されたわけだが、なにせ魔力量が少ない。
主に重症患者を優先して回復魔法を掛けまくり、やはり魔力切れで倒れて朝になって復活し、現在私に回復魔法を掛けてくれている。
「私の怪我なんて後回しでいいのに」
私が寝ているのは町の病院で、昨日と同じくベッドは全て埋まり、床にも沢山の怪我人が布団にくるまっている。その人たちを差し置いて、優先的に回復して貰うのは気が引けた。
「皆さん怪我の手当ては終わっています。後は自然治癒に任せればいいんです。それにクロリス様は町を救った功労者なんですから、少しくらい優先されてもバチは当たりませんよ」
メイちゃんはぷうっと頬を膨らませて、私にデコピンした。痛い。
うし!傷の痛みも消えたことだし、ちゃっちゃと包帯を取って着替えちゃおう。町の後片付けとか大変だろうし、手伝いでも出来るでしょ。
「まだ包帯を取っては駄目ですよ!完全には治ってないんですから。あと、町の後片付けの手伝いも駄目ですからね!」
布団から出ようと身を起こしたところで、メイちゃんに注意されて動きを止める。
「ええ?もう痛くないよ、ほら!」
私は火傷をしていた右手をぐるぐると回して見せる。脇腹が少し引きつるけど、多分平気よね。
「駄目です!昼までは安静!午後から出立ですからね、それまでは休んでて下さい」
「はーい」
気のない返事をして、私は布団に戻って寝たふりだ。
いいもーん。メイちゃんが出ていったら、こっそり脱け出そう。…… あれ?
いつまで経っても何処かへ行く気配のないメイちゃんに、私は布団から顔を出す。
そこにはこれでもかと言うほど、沈んだ表情のメイちゃんがいた。
「どうしたの?」
布団から身体を起こして聞く。どうしたんだろう。メイちゃんがいつになく暗い。
「私、今回何も出来なかったんです。それどころか、回復魔法だって十回もかけたら魔力切れで、助けられない人も沢山いてっ」
メイちゃんの顔は泣きそうで、声がだんだん震えてきた。
「フーリエ様なら、きっともっと沢山の人を助けられた。魔力量の少ないばっかりに、必要とされている回復も満足に出来ない。戦闘になったら、ただの役立たずです。足を引っ張るばかりで……もどかしくて。私は本当に、クロリス様のお側にいてもいいんでしょうか?」
そっか。俯いて自分を責めるメイちゃんは、多分昨日の私の姿だ。私は自分のことで精一杯で、メイちゃんも同じように悩んでいることまで、頭が回っていなかった。
そうだよね、悩んで当たり前だ。メイちゃんはまだ14歳の普通の女の子なんだから。
「メイちゃん」
私は膝で握りしめているメイちゃんの手を取った。私よりも小さくて可愛い、でも働き者の荒れて少しひび割れた手だ。
「私はメイちゃんが居てくれて凄く心強い。メイちゃんが私を信じてるって言ってくれて、勇者様って呼んでくれたから私は頑張れた」
城でたった一人慣れない環境で、初めて尽くしの訓練を頑張れたのは、メイちゃんのお陰だ。
「フーリエさんはレナド王国一の回復魔法使いかもしれないけどさ、今私の側で実際に助けてくれているのはメイちゃんだよ。例え10人にしか掛けられなかった回復魔法でもね、メイちゃんは10人の命を救ったんだよ」
メイちゃんの手を、両手で宝物みたいに包んだ。いつかメイちゃんが私にしてくれたみたいに。
「ずっと側にいて欲しい。でもね、もしも元賢者さんに防御魔法を教わっても、あまり上達しなくて、私たちの旅にメイちゃんを連れていくのが危険だと、私が判断したら王都へ戻って」
メイちゃんの丸い目が、軽く見開かれる。
戦士でも魔法使いでもないのに、ここまで付いてきてくれたこの子に対して、私は責任を持たなきゃならない。
私がどんなモンスターを寄せ付けないほど強ければ、魔族を軽くあしらえるほど強ければ、メイちゃんを守りながら戦える。でも現実は違うから。
「クロリス様、回復役の私がいなくても多分無茶しちゃうんでしょう?」
「うっ」
しまった。思わず目を逸らしちゃった。
ここは嘘でもやらないって言うところだった!私の馬鹿!
そんな私の様子に、メイちゃんは仕様がないなという目で見てから、ふっと笑った。
「私、絶対に防御魔法を習得してみせます。だからお側に置いて下さいますか?」
「勿論よ。っていうか、多分メイちゃんが居なきゃダメダメだから、私」
大袈裟に両手で降参の身振りをすると、メイちゃんがクスクスと笑った。
「それでも、メイちゃんには生きてて欲しいから、危険なら連れていかない」
そこは妥協しないし、出来ないからきっぱりと言い切った。
「はい!クロリス様は、あんまり回復魔法のお世話にならないようにしてくださいね」
迷いが吹っ切れた顔で、メイちゃんは元気よく立ち上がる。
「善処します!」
私は背筋を伸ばして、ビシッと敬礼してみせた。
それから、二人して声をあげて笑い合った。




