表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/64

水と油

「騒がせて悪かったね、ご主人」

フィンさんは、まず宿屋の主人に謝り、町の人たちにも声をかけた。

「皆さんも心配をかけたね。事は僕が収めるから安心してほしい」

野次馬たちもそれを聞いてぞろぞろと散っていった。


「さて、説明は君たちの部屋でするから案内してくれる?」

にこにことさりげなくフィンさんは、私の肩を抱いた。本当この人、ナチュラルなたらしだよね。


「何しに来た?」

シグルズが私の肩に乗せたフィンさんの手を払い、不機嫌そうな声を出す。


「ご挨拶だね。言っておくけど、あの手の手合いは面倒なんだ。上手く収めた僕に感謝してほしいね」

対するフィンさんも、顔は笑顔なんだけど目が笑っていない。

心なしか、火花が見える気が……。


あれ?この二人仲が悪いの?

そういえば城でこの二人のツーショットは見たことがなかった。対称的な二人だしね、合わないのかも。


「ま、それは置いておいて、僕も君たちの旅に同行する事になったから」

「はあ?!」

フィンさんの発言にシグルズがすっとんきょうな声を出す。

うわ、本当に嫌そうね。


「いやあ、殿下や親父殿の説得やら根回しやらに時間が掛かってしまってね、遅くなってしまった」

「フィンさんが一緒に来てくれるなら、心強いです」

心からそう思う。フィンさんは天使の微笑みで悪魔の扱きをさらっとする人だが、彼の魔法は芸術的でとても頼りになる人だ。

それに魔法の訓練も、いつも私が致命的な怪我をしないように細心の注意を払ってくれていた。早い話がシグルズとメイちゃんくらい信頼している。


それに、明らかに私やメイちゃん、シグルズよりも知識量が多い。地位も高いから、私たち庶民が知らない上の人たちの事情にも明るい筈。


「何が目的だ?」

といってもシグルズはフィンさんが信用出来ないらしい。胡乱な目付きでフィンさんを睨む。


「んん?勇者一行に加わるなんて名誉な事だからね。これで魔王を倒せば万々歳、ハンドブルグ家の確固たる地位は、さらに強いものになる。これで納得かい?」

悪びれず、にこやかにフィンさんは答えた。


黒っ!理由が打算だらけですね!フィンさん!

心なしかメイちゃんも引いてるよ。シグルズは思いっきり舌打ちしてるし。


「それともう一つの理由。事態が悪い方に動いた。勇者クロリス、君には聖国ルーベリアへ向かってもらいたい。そこで聖女に会って欲しい」

フィンさんの顔に常にある微笑みが無くなり、憂いを帯びた真剣な表情になる。


「聖女に神託が下った。世界の崩壊が始まる。光と闇の聖戦の開戦であると」


美しく整ったフィンさんが厳かに告げると、この台詞自体が神託のようだった。



ーー 長々と話すよりも、実際に見た方が早い。

そういうフィンさんの言葉通りに、翌日私たちはバオバフ町を出発した。


バオバフ町はレナド王国の王都の東門から真っ直ぐ丸1日の距離だった。目指す聖国ルーベリアはレナド王国の北東だ。


聖国へ行くルートとしては、2つある。

レナド王国の北門から北の東西に横たわるカナラ山脈を越えて北上し、北のノール国を東に横断するルート。

今私たちがいるバオバフ町から、北東へ進みカナラ山脈を迂回してから北上するルート。


今回私たちが取ったのは後者のルートだ。


草原の中、何度も行き来する馬車の轍の跡だけ、草が疎らでくっきりと浮かび上がり、道を作っていた。

その道を、同じように私たちの馬車もなぞっていく。フィンさんが用意してくれた馬車だ。御者はシグルズとフィンさんが交代で勤める。今はシグルズが御者台に座り、手綱を握っていた。


気持ちのいい天気だ。馬車の幌は引き上げられ、心地よい風を運んでくれる。


「世界の崩壊、ねえ?」

外を流れる景色は、青々とした草原を風が揺らし美しく波打たせる長閑な風景。

いきなり話が大きくてピンとこないんですけど。


私が城で聞かされたのは、勇者は魔王を倒すのが使命だということ。まだ私は力不足だし、魔王とやらもまだ弱いから、各地を旅して力を蓄えろっていうからのんびり構えてたのに。


「とても信じられないですよね」

メイちゃんが、風にそよぐ髪を押さえながら言った。彼女の髪は短いから、一つに纏めている私よりもなびきやすくて、顔にかかるのだ。


「世界の崩壊の予兆は徐々に始まってはいたんだが、各国の王も民も深刻には捉えていなかった。かくいう僕もね」

フィンさんの言葉にうんうんと頷いた。それは私も同じだ。


日照りや干ばつ、長雨による農作物の被害。地割れ。

それらの災害に見舞われた場所には、決まってモンスターが現れて追い討ちのように人を襲う。そして、大なり小なり黒く変色した何かを残すのだ。


時に地面に、時に植物に、時に住居が黒く染められ、それに触れるた人間は昏倒し2、3日目を醒まさない。調べたところ、魔力を著しく吸われるらしい。


とはいえ、災害は年に一度何かしらあるものだし、現れるモンスターも大した脅威ではなく、直ぐに騎士が制圧する。黒くなった場所も僅かで立ち入り禁止にすればいいだけ。

ここ数年以前よりも頻度は高くなったが、一国で年に一度が3、4回程になったくらい。さしたる危機とは捉えにくかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ