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これだから貴族ってやつは嫌い

結論から言うと全く無事って訳じゃなかったけどね。


腕が折れて、肩が脱臼、火傷も治りきってない私は、シグルズにおんぶしてもらって下山した。

キマイラ討伐の証に魔石を持ち込んで換金し、宿屋をなんとか借りてベッドに入った途端に発熱。そのまま3日ほど寝込みました。


毎日メイちゃんに回復魔法をかけてもらって、なんとかほぼ完治。昨日は1日様子を見て、5日目の今日は素振りを再開。


そんな時だ。王都から今さらキマイラ討伐に騎士団と冒険者がやって来たのは。


「おい!ここか?!キマイラを討伐したとかいう奴が居るのは?」

派手な音をたててドアが開く音と、怒鳴り声が宿屋の入り口に響く。


私たちは顔を見合せ、声の主の元へ向かった。

「お前たちか?!報酬目当てに余計な事をしたのは?!」

入り口に立っていたのは、鎧を着込んだ高圧的な態度の騎士だ。その後ろでおろおろとしている初老の男の人は町長さんだと思う。騎士の男は、明らかに見下した目で私たちを一瞥した。


「余計も何も、キマイラはさっさと討伐しないと困るでしょう?」

既に地竜は産卵時期に入り、卵の殻を取りに近々業者さんがダンジョンに行くと言っていた。今さらやって来ても遅いのだ。


「キマイラは我々騎士団の管轄だ!余所者が勝手な真似をするな!」

男は偉そうに腕を組んで、さも当然のように自分の主張を並べ始めた。

やれ、騎士団の仕事を取るな、お前らが余計な事をしなければ今頃キマイラを討伐していただの、これだから道理の分からない馬鹿は困るだの。


何なのこいつ!


「お偉い騎士団様がさっさとやらないから私たちがやってあげたんでしょうが!管轄だって言うならきっちりやりなさいよね!」

「それが余計な真似だというのだ!賎しい冒険者めが、大方報酬目当てにやったんだろう」

「何が余計よ!自分の仕事も出来ないで今頃のこのこ来て偉そうに!!この税金泥棒!」

「何だと?!」

男の額に青筋が浮かぶ。男の後ろの町長さんは真っ青で、他の騎士たちは色めき立った。さらに後ろの冒険者らしきおじさんはニヤニヤ笑っている。


「貴様、一介の冒険者風情がこの貴族の名門、ディルド・ドルディに税金泥棒だと?!」

「本当に偉い名門貴族様なら、冒険者風情の言葉にお怒りになんてならないわよ!寛大だから!」

精一杯皮肉げに言ってやる。お貴族様なんて本当のところは知らないけど。


「おのれ、小娘!何処までもコケにしおって!」

男が腰の剣に手をかけた。

やんのか?受けて立つわ!


「はいはい、そこまで」

場違いな涼やかな声と、パンパンと手を鳴らす音が、一触即発の空気を割った。割れた人垣の間を歩いてきたのは優美な男だ。


「フィンさん?」

「久し振りだね」

美しい顔に、にっこりと蕩けそうな笑顔を浮かべるイケメン、レナド王国の筆頭魔法使いフィンさんだった。


「これはフィン殿、貴殿からも言って頂きたい。騎士団の功績を横から拐う不届き者どもに、身の程を弁えろと!」

彼は微笑んだまま人々の間をスタスタと歩いて偉そうな騎士、ディルドの横に立ってその肩に手を置いた。

「身の程を弁えるのは君だよ、ディルド」

「…… は?」


唖然とするディルドに、フィンさんは冷たく言い放つ。

「初めてのモンスター討伐で功を取りたかったのは分かるけれどね。これ以上失態を重ねるのは、ドルディ家の失墜を招くよ?」

「し、しかし」


「ここへ来るに当たっての騎士団の裁量は、僕に任されている。君の失態はこのフィン・ハンドブルグの失態、ひいては我がハンドブルグ家の汚点にもなる。君は当家を敵に回したいのかい?」


「滅相もございません!行くぞ!」

ディルドはフィンさんの言葉に背筋がピンと伸ばし、慌てて町長さんやその他諸々を引き連れて出ていった。

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