これ絶対呪われてるでしょ?
そうして、あれよ、あれよと王宮に連れて行かれ、立派な服に着替えさせられて、剣はやっぱり立派な鞘に入れられて腰に吊るされた。頭が真っ白なまま説明を受けたけど、耳になんて入らない。
プラチナブロンドの髪は結い上げられ、耳には宝石のイヤリング。薄く化粧もされて、豪奢だけれど戦士のような格好に仕立て上げられた。
支度を整えてくれた侍女さんたちは、口々に美しい、凛々しいと褒めてくれたけど、そんな訳ない。服には着られているし、腰の剣は浮いているし、したこともなかった化粧は何だか他人みたいだ。
心の中は、現実逃避の言葉でぎっしり埋まっているし、ふわふわして立っているのか座っているのかも分からない。
目の前の豪奢で威厳のある壮年の男が、跪く私に厳かに告げる。
「勇者クロリスよ。魔王を倒し、この世界を救ってほしい」
嫌だとも、やりますとも言わないままに、滞りなく儀式は進み、めでたく私は勇者になった。
「悪夢だわ」
あてがわれた部屋にある、これまた大きくてふかふかの上等そうなベッドに腰掛けて、私は呟いた。
この部屋自体は女の子の夢かもしれない。
うちの花屋兼自宅の総面積を全部足したくらいの大きな部屋だ。ふかふかの絨毯。繊細な装飾の施された家具。上等な肌触りの寝具。さらさらとした肌触りでいい匂いのする部屋着。これが勇者とかじゃなくて、王子様に見初められたとかなら、きっといい夢だ。
でも、そうじゃないってことは、腰の剣が教えてくれる。
邪魔だからその辺に立て掛けておこうとしたのに、直ぐに戻ってくるのよ。しかも抜き身で! 危ないったらありゃしないから、諦めて鞘に入れ、腰にぶら下げたまま。
もう、これ絶対呪いでしょ。何なのよ。ゆっくりお風呂にも入れなかったじゃない。外して入ろうとしたら、やっぱり鞘から抜け出してきたんだもの。怪我するかと思った。仕方ないから鞘ごと常に側に置いて入ったわ。
水平に掲げた剣を、精一杯睨む。なんか段々と腹が立ってきた。
「あんたのせいよ!」
床に置いて鞘の上からげしげしと叩く。素手じゃ痛いから、靴の踵でガンガン蹴ってやった。こんなの綺麗な鞘に傷と凹みが出来るだけだけど。
両親は何かの間違いだ、娘を帰してくれと王様に訴えたけど、聞く耳は持たれなかった。幾ばくかのお金を渡され、城から放り出された。私は有無を言わさず、王宮の一角に部屋を用意され、明日から訓練を受けるらしい。
ベッドに腰掛けたまま、溜め息を吐いた。床の剣を拾う。
「ところでどうやって寝るの、これ。抱いて寝ろって?」
広い部屋にたった一人、しくしくと愚痴を言ってから、私は剣を鞘に仕舞い抱いて寝た。