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シグルズの戦い

 右手は火傷でえらいことになってるし、体のあちこちも多分火傷や打ち身だらけだ。

 自覚した途端に色んな所が痛みを主張し始めた。特に火傷ってやつは、のたうちまわりたい程痛い。

 出来れば忘れていたかったよ。


「クロリス!」


 半泣きになっている私をシグルズが呼んだ。


「へ?何?」


 疑問符を浮かべる私を、体当りする勢いでシグルズが横抱きにかっさらう。折れた腕や火傷が悲鳴をあげたが、我慢だ。シグルズは意味なくこんな乱暴なことしない。と、思う。多分。

 痛みを堪えて歯を食い縛りながら、彼の腕の中で気が付いた。


 キマイラの体は、まだ溶けて魔石になっていない。死して死骸を残さず、魔石になる筈のモンスターだというのに。


 キマイラの体からから黒い霧のようなモノが立ち上る。


 それを見たシグルズは、口の中で小さく「あの時の」と呟いた。


「あの時?」


 腕の中でシグルズを見上げるが、彼はキマイラを見つめているだけで答えてくれない。


 シグルズは、私に駆け寄りかけて止まっていたメイちゃんの所まで戻り、メイちゃんに私を預けた。


「メイ、こいつの回復を頼む。回復したらもう少し離れろ」


 それだけ言って背を向けて、背中の大剣を抜く。シグルズが大剣を抜くのを見るのは初めてだ。

 重量のある、斬るよりも叩きつけることを重視した武骨な剣だ。鞘も柄も素っ気なく、所々刃こぼれもある。


「クロリス様!回復」


 メイちゃんがまず火傷に回復魔法をかけた。気が遠くなりそうな痛みが引いていく。


 そんなことより、キマイラとシグルズだ!


 キマイラは黒い霧を纏わせたまま、ゆっくりと立ち上がった。赤く充血していた目は黒く染まり、体がさらに一回り大きく見える。私が剣を刺した口からは、だらだらと泡を吹いているが、溢れているのは血ではなく、黒い何かだ。

 黒い何かは地面に落ちると、何もなかったかのように消えた。


 キマイラの山羊の脚が、ぐっと力を蓄えて筋肉を脹らませるのが見えた。突進が来る!


 シグルズの筋肉も盛り上がる。身体を正面に向けて足を肩幅に開き、大剣を正眼に構える。


「グルルルゥア」

「おおおおああ!」


 キマイラとシグルズは、互いに雄叫びを上げて激しくぶつかり合った。牙と大剣が、がっちりと噛み合う。


 そのまま拮抗するかと思ったが、シグルズは剣をキマイラに噛ませたまま、ぐるりと捻って巨体を投げ飛ばした。

 がごんっと岩を砕きながら、キマイラを背中から叩きつける。キマイラは堪らず剣から牙を離して、もう一回転して起き上がった。

 岩を蹴立てて、岩の破片を撒き散らしながら素早く方向転換して、シグルズから距離を取る。私の時よりも速い。


「立てますか?クロリス様」


 粗方火傷を治してくれたメイちゃんが、私の折れていない方の腕を掴んだ。頷いて、目線はシグルズとキマイラに向けたまま一緒に下がる。


 嘘、キマイラって魔法が使えるの?


 シグルズから離れたキマイラの魔力が、精緻な模様を描くのが見える。火のマナが集まっていく。


「シグルズ、火の魔法が来る!」


 私の叫びと同時に、キマイラの魔法が完成した。


「ガアアアアアッ」


雄叫びが呪文なのだろう。そして、あろうことかキマイラは、魔法と口からの炎を同時に放った。

魔法で増幅され、辺りが白くなる程の火炎が、シグルズ目掛けて襲いかかる。離れている私の肌を焼く熱量だ。


「舐めるな!」


 シグルズが一喝して大剣を振り下ろした。大剣が振られる物凄い風切り音と、勢いよく岩を砕く音。それと同時に、発生した衝撃波が、キマイラの炎を二つに切り裂いた。

 裂かれた炎は、木や岩をあっという間に黒焦げにする。木は消し炭に、岩は熱で表面が真っ赤に染まった。


 シグルズはそのまま前に出ながら、振り下ろした剣を返す刀で振り上げる。

 キマイラは寸での所で避けて、横合いから炎を吐いた。シグルズは、剣を振り上げた勢いを利用して回転して炎を避け、斜め下へ叩き付ける。


 ドガン!という派手な音を立ててキマイラの胴体に大剣が当たり、キマイラがふっ飛んだ。血飛沫の代わりに、黒い何かをぶちまけながら、ゴロゴロと転がっていく。


「ガアアアアオオアッ」


 吠えながらキマイラが立ち上がる。目と口から黒い炎が立ち上り、空気が温度を上げた。吐いた炎も今までと違い、黒い。

 シグルズは大剣を横へ振り、黒い炎を横へ流して大地を蹴る。

 ドガン!という衝撃音と共に、大剣を掲げて跳び上がった。空中からキマイラへ大剣を振り下ろす。轟音と共にキマイラが斬られるではなく、叩き潰された。

 今度こそ、融けて消えるのを見届けてからシグルズが大剣を布で拭いて鞘に納めた。


「何あれ」


 私は思わず呆然と呟いた。レベルが違う。

 あの重たい剣を持って普通、跳ぶ?


 私はキマイラの突進も、火炎も避けるしかなかった。ましてや受けるなんてとんでもない。最後の止めも殆んど相討ちだったし。


 大体あんな、くそ重たそうな剣を軽々振り回すシグルズの膂力がもう、呆れる。あんなの普通持つのがやっとだよ。

 キマイラだって何とか倒したし、私もちょっとは強くなったと思ったけど、なんか自信無くなる。

 そりゃ、そもそも戦いかたが違うけどさ。必死こいてた私は何なのさ。

明日から2日おきの更新にします。

ストック出来たら、毎日に戻すかもしれないですが。

今日のは急いで書いたからなあ。後々改稿するかもしれないです。

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