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キマイラとの攻防

ごめんなさい!投稿が遅れました!

そうやって山を登り、また一つ二つと赤い布を見付けた頃、空気が変わった。


前方から私でも分かる何か存在感のある気配がする。多分キマイラだ。

やっぱり今までのモンスターと違う。

姿はまだ視認出来ない。密度を減らしたとはいえ、木が生えているし、あちこちに突き出ている岩も視界を遮っていた。


「近いな。クロリス、先頭を替わろう」

ちょっと緊張しながら頷き、シグルズと場所を交替する。シグルズは殿に行かずにメイちゃんの前に位置取った。そのまま動かずに私と距離を取る。戦闘になっても巻き込まれないようにだ。



「気を付けて下さいね、クロリス様」

「まっかしといて!」

心配そうなメイちゃんに軽口を叩いて笑う。空元気でもなんでも、笑顔は緊張を解すし、力になるもの。


前方の気配に集中しながら進む。何となくだけれど、気配もこちらに気付いているのを感じた。

腰の剣に手をやると、するりと勝手に手の中に収まった。早くも馴染んだ感覚に気持ちが落ち着く。


一歩、二歩と互いに近付く感覚。先制は、キマイラの炎だった。形振り構わず横の茂みに突っ込んで回避する。


よっし!読みが当たった!万歳!

読めたのは、シグルズから聞いていたキマイラは炎を吐くという、時前情報のお陰だ。


岩影から躍り出たキマイラはシグルズから聞いていた通り、獅子の頭に山羊の体、尾が蛇だ。しかし、獅子の目は、普通の獅子よりも血走りなんだかおどろおどろしい。山羊の体は並の山羊よりも筋肉の付きかたが異常で、あれで蹴られればそれだけで死にそう。尾の蛇は、私の太股より太く深い緑色で、ぬらぬらと光り、牙から唾液だか何だかをボタボタと滴らせていた。


怖っ!気持ち悪!そしてでかい。


四つん這いで私の背よりも頭二つくらい大きい。立ち上がればもっとだろう。


しかし、ここで怯んでいる場合じゃない。

私は茂みから飛び出して胴を目掛けて剣を振り下ろす。


避けられた!

キマイラは斜め横に跳んで、岩肌を蹴って方向を変えて私に突っ込んできた。獅子の頭が私に牙を突き立てようと迫る。

左足を支点にくるりと体を回転させてキマイラの牙を避け、回転の勢いのままに横へ剣を払った。


「ガアアルルゥアァ」

獅子の咆哮と、肉を斬ったなんとも言えない感触と血飛沫がかかる。私の剣はキマイラの横腹を中々の深さで切り裂いた。流石に血を避ける余裕はない。

畳み掛けてさらに斬りつけようと、剣を振りかぶったところへ、キマイラの尾である蛇がしなって噛み付きに来た。

「クロリス様っ!」

切羽詰まったメイちゃんの声が聞こえるが、ごめん、今答える余裕ないわ。


やばい、確か毒牙だったっけ?

剣を振り下ろすのを諦める。


毒牙を払う?どうやって?

回避、綺麗には無理だ。無様に尻餅でも着けばいけるが、その後が困る。


一瞬で様々な思考を巡らせ、身体を反応させる。振り下ろす剣の軌道を変えて、蛇の頭を払った。こちらは大した感触もなく斬れて、蛇の頭が落ちる。残った尾が暴れてのたくった。


「ったっ!」

頭を失い滅茶苦茶に暴れまわる尾が、鞭のように私をぶつ。堪らず後ろに下がったのが功を奏した。

先程まで私がいた場所を、キマイラの顎がガギン、と牙を噛み鳴らして通り過ぎる。


危なっ。

全ての攻防がギリギリで、思考が追い付かない。これが戦うってことか。

魔法を使いたいところだけど、キマイラの攻撃を避けながらなんて無理。魔力を練っている間に殺られるか、制御に失敗して暴発して自爆だ剣で戦いながら無意識に魔法を使えるくらいでないと。


ああー、最初の先制に魔法使えば良かった!後の祭りだよ。チクショウ。


大体でかい割に速いのよ、あいつ。しかもあの山羊の体が厄介よね。


キマイラは、私を食い千切り損ねてすぐに、岩を蹴って目まぐるしく方向を変える。あの山羊の俊敏さでの方向転換は、やりにくい。


こっちは木が邪魔やら足場が悪いやらで、身動き取りにくいってのに!


キマイラは今度は一直線に私に突っ込まず、私の前の岩を蹴って横に跳び、再び横の岩を蹴ってから突っ込んできた。


横に跳んで避けたいけど木が邪魔!

私は左手で側の木の幹を掴み、それを支点に身体を回転させて回避する。突っ込んできたキマイラが、轟音と共に木を薙ぎ倒した。


一歩間違えば、ああなるのか、私。


冷や汗が伝う。


派手に木を薙ぎ倒して突っ込んだ今なら、こっちに攻撃をしてくるにしても少し時間がかかる。魔法を使うなら、今だ。


自分の魔力を糸のように練り上げて、模様を描く。針に糸を通すような繊細な作業。失敗すれば体の一部がズタズタになる。


倒れた木から身を起こしたキマイラが私に向かって大きく口を開けた。一瞬後に、正面の視界が真っ赤に染まった。炎を吐いたのだ。


炎が草や木々を焼き、私を黒焦げにする前に、私の魔法が完成した。


「疾風!」

短い呪文がマナを事象として具現化させる。足に力を込めて、地面を蹴った。

私の体は人の跳躍力を超えて、軽々と空中を舞う。風魔法を自分の体にかけ、身軽にしたのだ。


キマイラの吐く火炎を避けた私は、地面に降りてすぐにまた跳躍する。地面、岩、時に木の幹を蹴ってキマイラの視界から逃れ、隙を探る。

キマイラは俊敏に岩を駆けて私を追う。振り切るのは多分無理だ。


なら!


ほんの少し足を止める。これを見逃さずキマイラは私を目掛けて鋭い牙が並ぶ口を大きく開けた。


「っらああああっ!」

その大口目掛けて、私は渾身の力で剣を突き刺した。ズブリという手応えと、キマイラの口からの炎の熱を無視して更に剣を捩じ込む。


「ぐぶるぅぅガうルぅ」

くぐもったうなり声を上げてキマイラの四肢が暴れる。物凄い力に振り回されるが、剣から手は離さない。


負けるか!根性よ、クロリス!


キマイラの頭が跳ね上がり、私の体が宙に浮く。今度は岩に叩きつけられそうになるが、足で踏ん張る。狂ったようにばたつく山羊の前肢が、私の腕や肩を蹴る。致命傷になってしまう腹部や頭だけは、蹴られないように腕を犠牲にして守った。


やがて暴れるキマイラの力が弱まっていく。びくりびくりと痙攣が始まり、ぐったりと力が抜けるまで、私は剣から手を離さなかった。


「はああぁ」

キマイラがぐったりとするのを確認して、私は力を抜いて剣にもたれ掛かった。


「クロリス様っ、大丈夫ですか?」

駆け寄ってくるメイちゃんを横目に、力なく微笑む。

「メイちゃーん、やったよ」

笑って左手を上げかけて、突き抜けるような痛みに顔をしかめた。

すっごい痛い!多分折れてるぅ。

明日は多分いつも通り投稿します。


しかし、ストックが切れた!痛い!


これから次話を書きます。

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