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自然の理から外れた存在

人が入らない山道を、シグルズが草を掻き分けて後に続く私たちが歩きやすいように踏み均して進む。この人、無愛想だけどこういう優しさはあるのよね。


「こういう視界の悪い場所は、モンスターも潜みやすいから気を付けろよ」

後ろを見ずにシグルズが注意を呼び掛けた。シグルズが一番前、真ん中がメイちゃん、殿が私だ。

剣や魔法の訓練はしてきたけど、索敵とかモンスターの知識や経験は圧倒的に足りない。少しでも何か掴もうと気張ってはいるけれどね。


草を掻き分け踏みつけ進んでいる為、ガサガサと大きな音を立てている。自然の動物や猛獣はこれで逃げてくれるのだが、モンスターはそうはいかない。

あいつらは自然の理から外れた存在なのだ。


どんなに獰猛でも、人を襲うような猛獣でも、人にとっては脅威だがモンスターとは言わない。彼等は生きるために狩りをする自然の理の中で生きる存在だ。人間も、魔族でさえも、理の中で生きている。親から生まれ、食べて寝て成長し、子を儲けて老いて死ぬ。


しかし、モンスターは違う。モンスターは近くにいる生き物を無差別に殺す。殺すだけでたべもしない。目に入るもの、知覚できた生物を殺し尽くし大きく強力になっていくのだ。

はっきり言って悪夢みたいな存在だ。見た目も大概が気色悪いし。

なので、見つけ次第必ず殺すか、報告するのが決まり。モンスターを殺すのを生業にしているのが冒険者で、時に騎士団と手を組んででも倒す。


「おい、後ろから来てるぞ」

シグルズが言ったすぐ後に、私の後ろの方にふっと何かを感じた。あれが気配ってやつ?よーし、ちょっとだけ感覚を掴んだ。


感じた気配は実際にモンスターという形になって、目の前に現れる。まあ、流石に何もないところからふっと現れた訳じゃなくて、私の知覚できる範囲に入ったから、気配が生まれたように感じたんだろうけど。


ガギッと私が掲げた剣に、蛇のモンスターの牙が阻まれた。名前は知らない。私の頭を丸ごとパックリとやれそうな、でかい顎、牙から滴るのは、多分毒だ。


「りゃっ!」

剣を跳ね上げてモンスターを剣から離し、下から掬い上げるように首を斬った。暴れまわる胴体の側に、遅れて首が落ちる。

すうっと首と胴体が溶けるように消えて、小さな魔石が残った。


「よし、魔石ゲット」

私は魔石を腰のポーチに仕舞う。


死んだモンスターは、死骸も残さない。殺して暫くすると、溶けるように消えて魔石だけを残す。魔石はマナを引き寄せる媒介になるので、魔力のない人はこれを使って生活魔法などを使う。

街道で倒したモンスターの魔石は、すかんピンになってからバオバフ町で売った。そのお金でなんとか食糧と水を買えたのだ。

王都や大きな町の周辺や街道沿いは、定期的にモンスターを冒険者が狩ってくれているので大した奴はいない。当然魔石もショボいから、食糧と水がギリギリ買えた。


ちなみにスライムの魔石は臭くて売れないし、持ち歩くのも臭いので放置。全くどういうモンスターなのよ、スライムって。


モンスターが何処でどうやって生まれているのかは、分かっていない。卵も、子供も存在を確認されていない。雌と雄があるのかも分からない、謎の存在。

何度か研究のために捕らえたけれど、何故か殺さなくても魔石になってしまうのだそうだ。


今回私たちが倒す予定のキマイラは、中級の中でも上位モンスターなので放っておくと山に住む生き物を全て殺してしまう。生態系に影響があるのは勿論、生き物を殺して強くなる特性上、放置すれば危険だ。


ゴブリンやスライム程度の下級モンスターの場合は、殺せる生き物も弱いものが殆どだ。元より余り強くない上に、生き物を殺してもあまり強くならない。

しかし、一部の中級や上級モンスターは違う。放っておけば手に負えなくなる為、確認されれば討伐隊が組まれる。


段々山の傾斜がきつくなってきた。木々がまばらになって岩肌が目立つようになる。足場も悪く、シグルズが時々メイちゃんに手を貸すようになった。


「目印だ」

木に赤い布が巻いてあるのを見付けてシグルズが短く告げた。これは討伐しなければならないモンスターを目撃した印。立ち入るものに危険を報せる役割と、討伐に来た者にモンスターの大まかな居場所を報せる役割がある。

モンスターは生き物を求めて移動するから、ここにいるとは限らないけれど、そう遠くではないだろう。

山登りをした為とは別の汗が、掌を濡らす。


ええい、ビビるな!


私は自分を叱咤して、岩を掴む腕と太股に力を入れて体を引き上げた。息が切れ、心拍数が上がる。

普通に登るのもしんどいのに、こんなところでキマイラと戦うかもしれないの?

心の中で泣き言を言っては、前を行くメイちゃんを見て頑張ろうと思う。


私よりも辛いのはメイちゃんだ。彼女は冒険者でも何でもない普通の女の子なのだから。でも文句ひとつ、泣き言ひとつ言わないで黙々と登っている。


「…… 生き物の気配がないな。異様に」

周囲に気を配りながらシグルズがぽつりと漏らした。


「やっぱり?私の気配を読む力が未熟なだけかと思ってた」

「いや、俺が分かる周囲10メートル範囲に全く気配がない。これはまずいな。キマイラはかなり殺して強くなった奴かもしれん」

10メートル範囲も分かるの?やっぱ凄いな。って、それよりも。


「そんなのを私がやるの?」

大丈夫なんだろうか。やだ、すっごい不安。


「いざとなったら俺もやる。ただし、どうしてもお前が手に負えない時だけだ。何時までも俺が面倒見てやるわけにはいかないんだ。お前にはさっさと強くなって貰わないと困る」

「えっ?」

何時までも面倒見てやるわけにはいかないっていうことは、ずっと一緒に旅をしてくれる訳じゃないってこと?

不安が顔に出ていたんだろう。シグルズは私の頭をくしゃりと撫でて言った。


「心配しなくても、今のお前はキマイラには勝てる。自分を信じろ」

私は何か言おうとして、結局口を閉じた。


何故だろう?

どうしてかは分からないけれど、妙に心がざわついた。


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