やらかした?
道中は、それなりに順調に進んだ。
時々モンスターが出ること以外は。
「うへぇ、また出たよ。メイちゃんお願い」
ぐねぐねと波打つように移動してくる、軟体のモンスター、スライムだ。剣で攻撃すると嫌な臭いの体液を撒き散らすので、こいつに対処するのは専ら武器が弓のメイちゃんだ。
メイちゃんは慣れた様子で矢をつがえ、スライムを串刺しにする。串刺しになったスライムは、ばしゃんという水音を立てて体液をぶち撒けた。その様子は水風船が割れる様に似ている。
「臭っ!」
どうやら私たちは、スライムの風下にいたらしい。体液から漂う異臭を慌てて避けて移動する。
街道に出るモンスターはどれも低級で、大したことはない。その為シグルズは傍観を決め込み、メイちゃんと私が、代わる代わる倒している。
スライムだけは、メイちゃん専門だけど。近くで攻撃したくないもん。鼻が曲がる。
メイちゃんも私も、モンスターとの戦闘は既に慣れたものだ。
草むらに姿勢を低くして、こちらを狙っている猫科のモンスター、ワーキャットに気付いてシグルズが顎をしゃくる。
私はわざとそのまま歩いていって、草むらから飛び出して来た所を剣一閃。上半身と下半身が泣き別れだ。
どいつもこいつも弱いし、群れで来ないから良いけれど、結構な遭遇率よね。
私たちにとっては雑魚だけれど、行商人や旅人にとっては脅威だろう。
「町の外って思ったより物騒なのね」
「町の外に出るときは、普通護衛を雇うんですよ」
「へええ」
こんな感じで盛り上がりなく旅は進み、予定通り夕刻にはバオバフ町に着いた。
バオバフ町は、大きくも小さくもない程々の町で、地酒が特産品だとか。定期的に王都へ出荷して生計を立てているらしい。
暗くなる迄に宿屋で二部屋取り、今日は早めに休んで、明日地竜のダンジョンに挑む予定だった。
そして、翌朝。
「二人とも!何をやったか分かってるんですか?!」
はい。私とシグルズは、怒れるメイちゃんに説教されておりますです。はい。
メイちゃんがバンッと机を叩く音に、シグルズが盛大に顔をしかめた。
「頼む。大きな音を立てないでくれ。頭に響く……」
頭を抱えて消え入りそうな声で、メイちゃんにシグルズが懇願する。
うわあ、こんな弱気なシグルズ初めて見た。
「クロリス様!他人事みたいな顔をしている場合ですか?!同罪ですからね!」
腰に手を当てて仁王立ちになったメイちゃんは、魔王です。敵いません。
「はいっ!ごめんなさい!」
びくっと姿勢を正した。
シグルズはメイちゃんの大声に撃沈して、青い顔でベッドに突っ伏している。
うわあん、こんなに怖いメイちゃん初めて見たよう。
「全く!昨日は大変だったんですからね!」
「すまん。謝る。だから頼むから回復魔法を……」
ギロリと睨まれ、シグルズは言いかけた言葉を飲み込む。
「な、何でもない。すまん。反省します。二日酔いくらい我慢します」
弱っ!今のシグルズ弱っ!
私も同じくだけど。
「そ、れ、で!何をやったかの答えは?」
ひいいぃ。メイちゃんの小柄な体が何倍も大きく見える。
「分かりません。覚えてません」
何をやったのか覚えていない私とシグルズは、小さくなって謝るしかない。
ええと、何でこうなったんだっけ?
駄目だ。記憶にない。
私はなんとかない記憶を捻り出して、昨日のことを思い出そうとする。
そう。宿屋兼、酒場で食事をしていて、看板娘のエリィさんにお店のお酒の説明聞いてたら美味しそうで。ちょっとだけってメイちゃん説得して一杯飲んだらすっごく美味しくて。
ふわふわして、気分が良くって、シグルズにも飲め飲めって勧めたような。渋るシグルズの口に無理矢理に酒瓶突っ込んで、高笑いしたところまでは覚えてる。
そしたら急にシグルズが陽気になっちゃって。楽しくって楽しくって、調子に乗ってさらに飲んだ気がする。
そっから記憶にない。




