彼女の通学路 A面
その日、私は放課後、友人三名と帰路に着いた。2人の友人を家の前まで送り届けて、背の小さな友人と分かれ道まで歩んだ。
ちょうど急な坂道をくだるときに、友人が道路の脇に花を見つけた。
「おいでよー。きれいだよ」
友人が走っていくと、私を手で招いた。
「おお、ホント綺麗だね」
アスファルトの隙間から顔を出した、すみれ。私はそこで閃いた。
「――この花、クロッキーしていい?」
友人に問いかけた。
「いいよ」とひとつ返事。
「ありがと」
私は肩掛けのバッグからペンと小さなノートを取り出すと、すぐにしゃがみこんで、すみれを描く。
私が描く間中、友人はブツブツとお笑いのネタを考えていた。ふと友人が一言のギャグを唱えた。私はすかさずツッコミを入れようと顔を上げた。
「あ」
ゴウッという轟音で言葉が掻き消された。私たちの隣を路線バスが通っていく。
私は何故だか、ほんのすこしそのバスを見た。
そして不思議な人を見た。
男子高校生たちが最後部の座席を占領している。
それから、楽しげな笑み。
だけど、私たちを見ていた。
ある一人の男子高生が、ガラスに顔をべったりと貼り付けていた。顔がぺったんこ。
何故か、愛らしく思えた。
「ねえ、あのひとたち、こっち見てるよ」
私は、友人に思わず言った。彼女はそこまで気にしてはいなかった。
私は、顔がぺったんこになっていた彼を見た。少し離れると、彼らは喋りに戻ったように見えた。
彼と少しだけ目が合った。何か、嬉しそうで、でも……思いつめたような、そんな眼差しだった。