第七話-エカムルの本領
この世界に来て十一日目である。ニファークは坑道に来ると早速掘削装置を動かし始める。
ある程度鉱石が集まったら掘削装置を止め、鉱石を新しい炉に投入する。着火すると、少しずつ溶けていく。ところが、いざ取り出し、という所で問題が発生した。
「予想外に効率が良いのね…」
分離装置の魔石がすぐに純度を高め、魔結晶にまでなってしまったのだ。純度が100%に近い魔結晶はそれ以上純度を上げられないので、作業が続行できずに分離の魔導回路の動作が止まってしまう、つまり、すぐに詰まるのだ。次々と魔石を交換するのはかなりの手間であるし、何より魔石が足りない。
仕方なく、最低限の鉄と銀が集まったところで、新しい精錬装置を作成することにする。いよいよ稀代の組立士、ニファークの本領発揮である。
まず、銅や銀、鉄と赤の魔石を組み合わせて少し大きい魔導回路を組んでいく。鉄は魔力に干渉しないので、基板に使う。作っているのは、比較的単純な、簡単に大きな出力が得られるタイプの魔力収集回路である。これは、周囲にある魔力、つまり環境魔力を使用して、利用可能な魔力を生み出す魔導回路だ。木炭熱を変換する方法と違って燃料が要らないので格段と便利になる。
次に、核となる大きめの魔導回路を1つ、補助用の小さい魔導回路をいくつも作っていく。こちらは、領域支配を扱うための装置である。
領域支配とは、多数の魔方陣で囲まれた特定の範囲を魔力操作で支配する事である。混合物の分離などの操作さえ出来る反面、内部に強い魔力があったり魔力による抵抗が少しでもあれば動作しないので、対人、対魔物は勿論、魔石や魔結晶、魔導具を操作することもできない。因みに、ガレートムやドロレフトナの動植物は内部に魔力を少しは保持するので同様に生きている間は領域支配の対象には出来ない。
3つ目の炉を作り、周りや上下に小さい方の魔導回路を取り付けていく。領域支配用の魔導回路は銀線を張り巡らせて接続する。
今回の精錬装置は、溶けた金属を分けるのではなく、熱された鉱石から成分を直接分離するというものである。ただしそれぞれの金属は溶けた状態で取り出される。
金属を分離する魔導回路を作り、領域支配の核の魔導回路に接続する。今回は固体、液体の不純物は横の排出口から、気体の不純物は上から排出する様にして連続稼働出来るようにしてある。取り出し口は今後の事を考えて多く作り、それぞれ管理用の魔導回路を付けておく。この魔導回路を組立で少し改変するとその取り出し口から出る金属が変化する。取り敢えず思いつく限りの金属は登録しておく。
ニファークは知識としては鉱石について知っている。危険な不純物がないと分かっているので、不純物は放置しておく。
最後にスイッチを作り、魔力収集回路と共に取り付けた。これでひとまずは精錬装置が使える。早速鉱石を放り込んで稼働する。今度は順調に金属が集まりだした。鉄、スズ、銀が集まりだした。
ある程度の鉄や銀が冷めて固まったところで、新しく魔導回路を組む。今度は、対象を加熱するための加熱回路である。木炭を除去してこれを炉の領域支配に組み込む。結構な量の魔力が必要なので、魔力収集回路も追加しておく。
「これで燃料要らずね!」
ついでに、自走運搬機も改良する。駆動部分に魔力収集回路と魔力で作動するモータを取り付け、操作盤を搭乗部に付ける。自分の魔力を消費しないので結構スピードを出せる。
「掘削装置の改造は明日ね。本当に時間がないわね…」
まだ日没まで少し時間があるので、道を走りやすく整備しながら拠点に帰るニファークであった。