第六話-新たな金属を求めて
この世界に来て六日目である。ニファークは朝から嬉々として準備を始める。
今から作るのは掘削装置。採掘を行って金属を手に入れるのである。駆動方式は、木炭の熱を中心とし、魔力で制御する。まだ本格的な魔導回路が作れないので基本的には手動である。
まず、自走運搬機の時と同じように魔方陣を描く。
この魔方陣は、赤の魔石の、高温下で熱をエネルギーに替える働きを活性化させる。銅で軸受けと軸を同じように作り、魔導回路、魔石と組み合わせる。この部品を炭を燃やして熱を発生させる部分と組み合わせれば駆動部分は完成である。
掘削装置は、掘削する部分、壁を作る部分、土砂を排出する部分、本体を進める部分で構成される。
掘削する部分は、金属の歯を回してひたすら岩を削る。銅製なので中々進まないであろう。
壁は、太めの銅枠を一定感覚で設置し、木の板を渡して張る。かなりの量の銅が消費されるがやむを得ない。
土砂の排出も最初は台車だ。資材が揃ったら自動化を進める予定である。
本体を進めるのにはスパイク付きの車輪を使う。掘削部分と車輪には、レバーで個々に動力伝達の有無を切り替えられるようにする。掘削部分の回転は減速している。車輪もギアで速度を変えられる仕組みだ。
部品がある程度出来上がったら、自走運搬機に載せて坑道予定地に向かう。場所は銅を集めた谷で、斜め下に掘っていく。なるべく深い所から掘り始める方が早く鉱石を見つけられるはずだ。近くに炉もあるので何かと便利である。
掘削装置を組み立てる。銅の枠や木材を準備し、いよいよ採掘開始である。
「最初はあまり期待できないけれど…… 鉄と銀が手に入ればあとは楽ね。」
炉に木炭を投入し、火を付ける。炉が温まったのを見計らい、魔導回路に魔力を通す。先端の歯が回り始める。少しずつではあるが、岩が削れ始めた。
岩の硬さに合わせて出力を調整しつつ、車輪への出力を開始する。掘削装置が動き始めた。
この日の掘削装置の前進はおよそニファーク一人の身長程度であった。
それから三日間、ニファークは毎日掘削装置を動かしていた。歯の形状を変えたりしてはじめよりは速度は上がっているものの、中々進まない。今日もニファークは坑道へ向かうつもりだ。
「もうあれから10日も経ったのね…」
朝食をとり、坑道へ向かう。昨日までに銅以外の鉱石は出ていない。鉱石は、掘った土砂を組立で分別している。不要な砂利や土は自走運搬機で丘の上に積み上げている。
いつも通り、木炭を放り込んで着火し、魔導回路に魔力を通す。歯が回り、車輪が動き始める。
昼が近づいてきた頃、掘削部分の動きが悪くなった。土砂の質も変化している。ニファークは掘削装置を止め、土砂を調べる。新しい鉱石が混じっている。
「確かこの石は三種類の金属が混じってるのよね…… 新しい精錬装置を作らないと。どうすればいいかな…」
まずは、小さい炉でそのまま溶かし、固める。組立を使い、おおよその金属ごとに分ける。狙っているのは銀だ。さらにもう一度それらを溶かすと、炉の中である程度別れるので、冷えてから組立で分離する。さらに溶かし固め分離する事を繰り返すと比較的純度の高い拳大の銀の塊が出来た。これでより精密な魔導回路が作れる。
銅板だと動作に影響が出るので、硬い石を基盤にする。まず尖らせた黒鉛で魔方陣の形を描く。次に、組立で作った銀の細い線を組立で埋め込んでいく。時間がかかる作業なので、いずれはこれも自動化しなければならない。
ニファークが作っているのは、分離の魔導回路である。溶けた金属や不純物を分別することが出来る。魔導回路が出来たので、耐熱性が高い石を使って分岐装置を作る。分岐路それぞれに銅線を伸ばし、先端を簡易な魔方陣にしておく。これで魔力を通せば、分岐点が魔導回路の支配領域に入り、流れてきた液体は別々の方向へ出ていく。なお不純物の中の一部の気体は、薄い色の魔石に貯められて、緑色の魔石を作り出す。この魔石の説明はまた出てきた時にしよう。
魔導回路の魔力は掘削装置と同じように木炭から供給する。銅用の炉では耐熱性が不安だったので、新しく炉を作る。取り出し口の先に分離装置をつなげ、そこからさらに型を配置する。試しに既に採った分を放り込んで溶かしてみる。ニファークは出来に満足したようだ。すぐに掘削装置の作業を再開する。
しかし、もう日暮れである。「また明日か…… 残念…」
寝床に入ってからニファークは久しぶりに魔導具以外の事を考えていた。
「こんな事で良いの?今ごろガレートムはどうなっているんだろう…… 他の人は一向に来ないし…もしかして私しか居ないのかしら?他の空間祭壇では失敗したとか…… だとしても今の私では到底魔王には敵わない……」
彼女の悩みに答える者は無い。