第五話-金属加工への道
この世界に来て四日目。
ニファークは早速、魔石や木炭を積んだ台車を押して精錬装置に向かう。道中で木の実も少し集めておく。
到着すると、まずは点火である。精錬装置の下に木炭を入れ、火を付ける。火が回るのにも時間がかかるので、その間に鉱石を入れていく。
鉱石が溶け始めると、木炭を足し、鉱石を足し、と繰り返す。充分な量が溜まったところで取り出し口を開き銅を型に流す。銅の量が減ったところで、取り出し口を下のものに切り替え、純度が低めの銅も別に取り出しておく。最後に残った石等は掻き出して別のところに集めておく。これを繰り返すと、かなりの量の銅が集まった。
待っている間にナイフ等も作っておく。
まだ日没まで時間が有るので別の作業も行う。小さな炉のような空間をつくり、木炭を敷き詰める。石の箱を作ってなかに木炭と赤の魔石を詰める。箱を閉じて炉に置き、さらに大量の魔石を周りにおいて火を付ける。空気を送り込んで、しばらくの間高温を保つ。炭焼きとは桁違いの温度である。
箱を開けると、少しきらめきが見られる炭と薄い色の魔石が出てくる。魔石の魔力を木炭に移したのだ。この作業を繰り返して魔力が注入された炭をいくつか作っていると、日が暮れそうになってきたので、ニファークは台車に出来上がった製品を載せて拠点に帰った。
「これで金属は確保出来たから…、いよいよ組立士の本領発揮ね!」
ニファークの頭の中には既に幾つもの設計図が浮かんでいる。明日からは忙しくなりそうだ。しかし、魔導具が関わると恐ろしく冷静なニファークである。明日に備えてさっさと寝てしまう。
夜が明けて、この世界に来て五日目の朝である。ニファークは朝食もそこそこに、資材を並べていく。
今から作るのは動力付きの台車、自走運搬機である。動力は使用者の魔力とした。
最初の方に魔法が使えないと書いたのだが、魔力操作は多くの人間が持っている技能だ。しかし、魔力を直接他のものに変換する事が出来ない。唯一の例外が組立である。
まず、手のひら大の銅板に魔力を注入した炭で魔方陣を描いて魔導回路を作っていく。魔方陣は魔力を特定の形に流す事で効果を発現させるものだ。
銅や銀はそのままで魔力をよく通す。(蛇足だが、この性質こそが、この二種類の金属が錆びにくい原因ではないかと私は考えている。)
銅は、銀と違って魔導回路のように複雑な魔力の伝達には向いていない。魔導回路に使うということを考えると銅よりは魔力を含んだ炭素の方がまだ効率が良い。
銀よりも粗い回路だとはいえ、炭の魔方陣であっても組立で作ろうとすると相当に緻密な操作が必要だ。手書きの方がよほど楽である。書き終わると、組立で銅と炭を融合させる。
この魔導回路の魔方陣は、魔力を流す事でエネルギーを発生させる性質がある。木から車輪の軸を作り、軸受けに当たる部分は表面を銅で覆っておく。軸受けは銅で作るが、エネルギーがうまく流れるように形状や炭の線で調節してある。
軸受けと魔導回路を接続すると、ひとまず駆動部分は完成である。次に他の部品を作る。
今回は四輪で作る。荷台は木材を中心とし、銅で補強しながら作る。操作台は後ろに付ける。操作台側の車輪に駆動部分を配置する。前輪はハンドルを切れるようにして、操作台と繋げる。後輪の外輪差は無視だ。
各部品を組み合わせていくと自走運搬機の完成だ。一通り点検してから、操作台に乗って魔導回路に魔力を送ると走り出す。
「これで運搬は楽。でも、やっぱり銀が無いと疲れるわね。もう夕方になったし。」
ついでに繊維に銅線を組み込んだ布で鞄も作ったところで今日の作業は終了だ。他の作業は明日にお預けである。