第四話-資源の探索
この世界に来て二日目。ニファークは朝から何やら作っている。
木から組立でバケツや台車を作り、川から粘土を採ってくる。川までの道は邪魔な木を伐採した。粘土を組立で成型して、石から作ったかまどの上に置く。下で火を焚き、粘土から作った容器を焼いてゆく。藁をかけて燃え上がらせ、火が消えると土器の完成である。
そうそう、書くのを忘れていたな。ガレートムやドロレフトナの物質は地球と似ているわけだが、性質が若干異なったりする。特に化学的な面で違いが出やすい。それは分かっておいてくれ。
土器が冷めるのを待つ間に、川底を木のざるで探る。幾つかの薄い色がついた透明感のある石が出てきた。これは魔石といって、魔力を多く含む石だ。魔導具の材料や燃料になるので、多めに集めておく。
更に周辺を探索する。山の中腹に川とは別の泉が有ったので飲水はこちらから採る事にする。石で屋根付きの樋を作り、拠点まで流す。ついでに、拠点からの排水口も作った。
長い繊維を持つ草が群生しているのを見つけたので、組立で抜き取り、組み合わせをすると簡単な布の完成である。取り敢えず寝床には何枚か重ねて敷いておく。
昼食後、ニファークは新しく施設を作り始めた。
地面の岩を組立で三十分以上かけて整形し、窪地を作る。この辺りは組立の使いにくい点だ。大きな物や設置物にたいして組立を使うには、多くの時間と魔力が必要だ。
周囲の木を切って小さめのブロックにし、魔石と混ぜて敷き詰める。上を石の板で覆って、空気が入らないようにする。そして、上に薪を並べて火を焚く。その後は放置である。
この作業で切り株ばかりになったスペースには、小さな物置小屋を幾つか建てた。更に、二十日芋の畑も増やした。
夕食からは土器を使った煮物が加わった。これで固い木の実を食べられるので、当分食料は大丈夫そうである。
薪が燃える音を聞きながらニファークは眠りについた。
この世界に来て三日目の朝、ニファークは昨日の装置を解体していた。薪の燃え残りや灰をどけ、石の板を取り外す。中から出てきたのは、大量の炭、そして魔石である。魔石は少し大きくなり、赤色で透明度が上がっていた。
魔石はその特性によって色が決まる。この場合、最初に入れた魔石は木材の成分を吸収して変化している。赤色の魔石は熱と相性が良く、魔導具のエネルギー源としても使われる。また、魔力収集回路に使う事で効率を上げる事が出来る。
木炭の方も、少し魔力を含んだので、燃焼時の発熱量が多くなっているのだ。当面の燃焼はこの木炭となる。
「やはり金属が無いと物事が進まない……」
ニファークは少し焦っていた。彼女は金属の集め方など本で読んだ程度にしか知らない。材料を買って、組立で出来た製品を売るのが組立士の仕事である。彼女の様に組立で戦ったりするのさえ珍しいのだ。
「今日金属が出なかったら、金属無しで坑道を掘らないと……」
ガレートムでは、地中の鉱石は色々なものが混ざり合っている。地表付近に少なかったり深度によって微妙に違ったりはするが、鉱脈のようなものは少なく、殆どの金属はおおよそ均等に散らばっている。つまり、どこを掘っても普通の金属は入手出来る。これはこの世界でも変わらないはずだ。
余談だが、この特徴のせいで、逆に特定の鉱石を大量に集めるのは難しい。
まだ太陽は高くない。ニファークは軽い昼食を袋に入れ、探索を始めた。この袋は草の繊維から作ったものだ。
山を少し下る。この世界に来た時に倒れていた場所からそう遠くない場所にそこそこ高い丘がある。山との間には例の泉からの水が流れ込んで、谷を作りながら川の方へ流れている(後日確認するとやはり例の川に流れ込んでいた)。
「この丘は将来的には本拠地に出来そうだな……一人では厳しいけれど。そういえば、他の三人にはいつ会えるのかしら?」
斜面は険しく木が少ない。特に谷の方は絶壁である。防御にはもってこいだ。
「谷は地面が削れている訳だから、鉱石が多いかも。」
ニファークは小川にそって谷底へ下っていった。
「有った。これは…… 銅ね。」
見つけたのは単体の銅が含まれる石である。付近には多く転がっている。精錬が単純なので、最初の金属として向いている。因みに、溶かすだけで不純物と分離する。
「まだ太陽は下がってないから精錬の準備をしてしまおう。」
鉱石を拠点に持ち帰るのは手間なので、ここで金属にするのだ。
谷底である程度広い場所を見つけ、組立を開始する。作るのは、単純に金属を溶かす炉を一つ持つ精錬装置である。炉の下には火を焚く場所を作り、燃料の投入口をつけて覆う。鉱石の投入口や取り出し口も付ける。石で型をいくつも作り、銅の取り出し口にセットする。不純物は使用後にまとめて取り出す方法を使う。
ここまでで日が暮れてきたので、台車で通れる道を作りながら帰宅する。翌日の作業が楽しみでしかたない様子のニファークであった。
そろそろ本格的に地球化学を無視していきます。