第三話-仮拠点
ニファークは自分が草の上に横たわっている事に気付いた。起き上がって辺りを見渡す。森林の様だ。起伏は余り無いが、そう遠くない所に山が見える。水の音が聞こえるので、川か何かもあるようだ。
「ここが…、ドロレフトナ…」
ガレートムとの違いは余り感じない。強いて言えば、空気が少し軽い気もする。
「そうだ、お祖父さんは……」
涙が彼女の頬を伝う。
「救えなかった……他の皆も、村も…。どうして、どうしてこんな目に遭わないといけないんだ…… 魔王め、絶対許さない!」
ニファークの他に動く物は無い。ただ、植物が風で揺れるだけだ。
「そうだ、私がしなければいけないのは魔王を倒す事、その為には…… 力を付けてガレートムに戻る事。その為には…… 今日明日の生活。つまり、食料と拠点と武器ね。魔導具も素材も持って来れなかったから…… 武器はとりあえずこの木の枝で。木の実か何か見付かると良いんだけど…」
太陽は先程よりも高い位置にある。まだ午前中の様だ。
ニファークは探索を開始した。自分が倒れていた位置には印を残しておく。川には、ある程度魚もいた。食料にはなりそうである。そのまま、山へ向かう。道中で幾つか食べられる果物や木の実を見付けた。動植物はガレートムと変わらない様だ。
山に近付くにつれ、岩が目立つようになって来た。
「資源は集めやすいかもしれない。でも、大型の動物が全く見当たらない……」
ガレートムの住人にとってこの事態が示す結論は一つしか無い。大型の動物がいないのは強力な捕食者が存在するから。つまり…
「何処かに魔物が居る。油断出来ないわね……」
ニファークは山の裾の見晴らしの良い場所まで来た。山頂まで登ると一日掛かりそうである。山の反対側を見渡すと、ここはかなり広い森の様だと言う事が分かる。ここから移動する意味はたいして無い。少なくともしばらくの間はここで生活する事になりそうだ。
日は傾き始めている。ニファークは安全そうな何本かの木を選んで、拠点を作り始めた。
まず、木の棒と足元の石、道中で見付けた蔓を手に持つ。そして、この世界で初めての組立を実行する。ガレートムと変わらない使用感で、数秒で石斧ができた。出来た斧で何本かの細い木を切り倒す。切った木を組立で太めの長い木材にした。別の頑丈そうな三本の木の枝々にロープを渡して、その上に固定していく。この木は曲がりくねっていて、上に登りやすい。木を持ち上げるのにも蔦から作ったロープを使う。
更に少し細い木材を張って行く。床の基礎が出来たので、残りの木材や葉付きの枝で壁や屋根を作る。これでひとまず、寝泊まりできる場所が完成である。出入りしやすいよう梯子も付けた。
次に、敵襲対策である。
「侵入者が有ったとき、それを遠くから感知できると言いわね…… よし、」
ニファークは組立で杭や滑車を作り、周辺の足元に細めのロープを張っていく。風の影響を受けにくく、人や魔物が足を引っ掛けやすいように作る。ロープを拠点まで張り、先端に木板や枝を取り付け音が鳴るようにする。
彼女が作ったのは動物などが引っ掛かったときに分かるようにする装置である。
組立で木材から発火装置を作り、焚火を作っておく。日が暮れるまで食料を探すと、新たに芋を見付けた。二十日芋といって、名前の通り短期間で収穫できる。魔力も多く含むので、食料としては最適だ。早速、一部を拠点周辺の木が無い(無くなった)スペースに植えておく。
芋や木の実を焼いて食べ、寝床に入る。無いよりはましと木の葉を敷いてある。
「あの空間祭壇って…、あれが、魔導装置なのね。ナムドラウグ14とかいう声も謎…… 時間が遅くなっている、みたいな事を言っていた。どういう意味?そういえば、送り込まれる他の三人ってどこにいるのかしら?」
「今必要なのは金属ね、特に魔導具を作るのにはどうしても銅と銀が必要……」
いつの間にかニファークはぐっすり眠っていた。
しばらくの間、ドロレフトナでの開拓となります。