第二話-言い伝え
「ニファーク、話がある」
村に近付いたニファークに声をかけて来たのはエシフィルカス。ニファークの祖父にして村長でもある。
「お前に、村長に代々伝わってきた言い伝えを話さなくてはいけないのだ。」
「そんな余裕無いわよ! 速く他の人に加勢しないと!」
「今だからこそ話さなければいかんのだ。とにかく聞きなさい。昔々、十五転位者達が活躍していたころ…」
「十五転位者ってお伽話の中の人たちじゃないの?」
「いや、彼らは実在した。証拠もあるぞ?それは後で話そう。とにかく、その時代にこの村に十五転位者を名乗る1人の男と人間のようで人間ではない不思議なモノがやって来たんだそうだ。
彼らは当時の村長に、自分たちは後の世の災いを抑えるために動いていると語った。そして、この村に異世界につながる門を残した。いつかガレートム全てを覆うような災厄が襲って来た時に、優れた者を1人異世界に送るよう伝えてだ。その後、その話は村長だけが引き継いで来た。そして魔王侵攻という大事件の中、村長の私がお前を呼んだ。」
「それってつまり…」
「そうだ。お前には異世界『ドロレフトナ』に行ってもらわないといけない。ドロレフトナには人はいない。だが、同じような門があと三ヶ所あり、そこから同じように人が送られる筈だ。」
少し説明しておこう。ドロレフトナとは、語源的には「備えの世界」を表す、ガレートムとは別の平行世界の惑星だ。
「ドロレフトナには災厄の力が及ばない。そこでお前は仲間達と自らを鍛え上げ、戻ってきて魔王を倒すのだ。行ってくれるか?」
「でも、それだとこの村は…」
「いくら村を守ってもそう長くは持たん。魔王を倒さない限りは同じことだ。『門』といったが正確には門の形はしていない。役場の裏にある立ち入り禁止の祭壇があるだろう?それがドロレフトナに繋がる魔導装置『空間祭壇』だ。あの爆発音からするにエビルが迫っているな。急ぐぞ。ナムドラウグ14と
連絡をとらなければ空間祭壇は使えん。」
「『ナムドラウグ14』?」
「転位者と一緒にいた不思議なモノだ。高度な魔導装置ではないかな?4つの空間祭壇を管理する存在だ。行くぞ。」
村の通りに出ると、村の入り口に一体のエビルがいた。既に何人かが倒れている。「早く!こっちへ!」
「祭壇」は大きな台座の上に大小の柱が丸く規則的に並んでいる。全体に黒色で、銀で細かな紋様が彫り込まれている。エシフィルカスは祭壇の前の装置を素早く操作した。祭壇に入った線が一本一本光り初めて、空間祭壇全体が光につつまれていった。
「何をしている!早く祭壇の中へ!」
「でも、村のみんなが!」
「今のお前1人に何が出来る!ナムドラウグ14が話があると言っている。転位の前に聞くのを忘れるなよ!」
その時、不意にエシフィルカスの背後にエビルが現れた。
「ちっ!私が時間を稼ぐ!その間に早く!」
「でも…」
「私の命を無駄にする気か!」
「…分かった。絶対に魔王を倒してやる!」
ニファークは空間祭壇の中央に立った。体が光に包まれてゆく。槍を構えるエシフィルカスの姿がぼんやりとと見えた。
“ガレートムの時間は遅くなっている。準備時間は十分確保でき…”
(この声がナムドラウグ14?人間の声じゃないみたい…)
意識が遠のいていく中、不思議な声は途中で途切れ、最後に聞こえたのはエシフィルカスの断末魔の叫びだった。