あだ名係
「お前今学期のあだ名係な」
「えっやだよ」
「文句言うなよ、クラス委員の僕だってあだ名の監督しないといけないんだ」
クラス全員のあだ名を考え呼び合いクラスの結束力を高めるという、この小学校の忌まわしきローカルルール、このあだ名係に任命されたものは、まったく面識の無い奴にあだ名をつけないといけないし、悪口になろうものなら、もうクラスの仲がよいどころか、ギスギスしたムードを作成してしまうという。
「大体お前昨日休むから係になったんだよ」
「うわぁ最悪だ」
休んだ人がいるなら押し付けるという良くない風潮はなくすべきだと思うが、決まってしまったのはしょうがない、せめて早く帰れるように努力するしかない。
「とりあえず始めるか」
「もう出席番号の一号、二号でいいよ」
「それ禁止されているからちゃんと考えろよ」
「じゃあ アアアアとかイイイイとかでよくないか?」
「それも禁止だな、パスワードと同じように同じ文字列を並べるなよ」
あだ名のくせに、面倒くさい規則だ。
「それと要望事項あるから」
「わかった、じゃあ読み上げて適当につけるか」
要望どおりというには難しいが、クラス委員の手元には要望の書かれた用紙があり、それがクラス分あるので、結構な量となっている。
正直、自分で目を通していたら、絶対に途中であきてしまう。
「えーなになに、漢字四文字でお願いしますだって」
「じゃあ山田太郎」
「あっ4文字だなじゃあOKこれ、リチャードに伝えておくわ」
いいのかよ、転入生のリチャード君、キミは今日から山田太郎だ。
「じゃあ次はカッコいいあだ名」
「地獄の底から参上せしもの」
「うわぁカッコイイ」
「だろ」
「鈴木に伝えておくわ」
鈴木は地味な存在から抜け出したかったんだろう、しかしカッコイイあだ名というのは中々難しいものだ、そんな中先程のようなあだ名が出たのは僥倖というものだろう。
「えー次は大人な女子なイメージで」
「大人の女子なぁ、あっじゃあOL」
「大人っぽいからOKだな 水乃に伝えておくわ」
「おぉなんだ意外と楽じゃないか、この調子でガンガン行こうぜ」
審査基準が意外に緩いのか、クラス委員もこんな作業から解放されたいのかドンドンと承認がおりる。
承認がドンドンされることによって、あだ名も色鉛筆とかジーパンとか行っても降りるので、段段とテンションがあがっていく。
「えーと次は外人っぽいあだ名だって」
「あぁじゃあポノヌン」
「あっ外人っぽいな、そんな日本人いないもん」
「だろ」
「よーし長岡に伝えておくわ」
長岡ってちょっと待ってクラス委員どっちだ、男子か女子かどっちなんだ、俺の好きな長岡に変なあだ名つけてしまったら、ヤバイんだけど、クラス委員そこらへんどうなんですか?
ごめんなさい、ちょっと調子に乗りすぎたから、付け直させてくれというには不自然すぎるし、もうあのあだ名が女子の長岡でないことを祈ろう。
あだ名のストックがつきかけた頃に、残すはクラス委員と俺のあだ名のみとなった。
「じゃあ僕のあだ名」
「ゴメン クラス委員で勘弁してくれ」
「はいはい、あとはお前のあだ名だな」
「あぁうん」
さて、どうするかなぁ自分であだ名つけるという、ある意味力量がもっとも問われるんだよなぁ、散々人のあだ名を適当につけておいて、自分だけまだまともなあだ名にしたら、クラス中から総スカンをくらうし、だからといって変なあだ名だとそれはそれでいやだ。
「クラス委員が決めてくれ」
「あぁネーミングセンスゼロでいいんじゃねぇ?あっでも悪口かこれ」
そうだな、クラス委員の俺に対する評価は置いておいて、ネーミングセンスゼロは明らかに悪口なのでさけたいが、いい加減アイディアもでない。
「ネーミングセンス1号でいいや」
「分かった、じゃあ気をつけて帰れよネーミングセンス1号」
お笑い芸人のようなあだ名だが、これで総スカンくらうことはないだろう、あだな係とは本当に面倒な係りである。