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◇1◇


『おはようございます!今朝の各地のお天気は…』


「あふ……、ねむい」


最近忙しかった仕事が一段落してやっと取れた休みの日の朝。

私――松村琴子まつむらことこは久しぶりにテレビをつけ、欠伸をひとつ落とした。

何気なくニュースを聞き流しながらコーヒーを3人分淹れはじめる。

ほどなくして、その香りに誘われたのか同居人であるほかの2人が起きだしてきた。


「おはよ。あい梨香りか


眠そうな2人ににっこり笑ってコーヒーを手渡す。


「おはよ〜…。琴、早起きだね」

「ん〜…なんか今日は目が覚めちゃったんだよね。藍、相当眠そうだね。今日は寝ててもいいよ?全国ツアーも無事終わったことだし、ゆっくりしたら?」


大きな欠伸をして目を擦る藍に苦笑しながら言うと、藍はゆるゆると首を横に振った。


「んーん、いい。琴がせっかく休みなんだし、一緒に過ごしたいもん」

「ん。ありがと」


マグカップをテーブルに置いて抱きついてきた藍の頭をクスリと笑って撫でる。

すると藍が、ゴロゴロと喉を鳴らす猫のように甘えてきた。


「藍ってほんとに琴子が大好きだよね〜」


やや呆れた様子で砂糖6杯というとても真似したくない甘々カフェオレを飲みながら梨香が言う。


「大好きだよっ!なんたって琴は私のマイ☆エンジェルなんだからっ」

「……マイ☆エンジェルって……」


瞳をキラキラと輝かせて言い放つ藍には苦笑しか出てこない。

かれこれ9年ほど溺愛と言っても過言ではない藍の愛情を受けていれば、さすがに諦めの境地だ。

ムキになって言い返したところで面白がられるだけだということはイヤというほど実感している。

私はため息をひとつついて、それはそうと、と梨香を見た。


「梨香、また徹夜して原稿書いてたでしょ。頑張るのは良いけど、あんまり無理しないでよ?」


何故徹夜なのかわかったのか、理由は簡単だ。

梨香は低血圧のため、寝起きのテンションが非常に低い。

何も知らない人が見れば、「怒ってる?」と訊きたくなるほどだ。

その梨香が普通に会話しているということは…


「さっすが琴子。だてに16年も親友してないね」


やっぱり徹夜か。

そして梨香との付き合いはもう17年目に突入している。

そう考えると長いなー、とぼんやり考えていると、


「いたッ!」


突然デコピンされた。


「なっ、なに!?」

「あたしは琴子のが心配だよ。一番無理し過ぎるのはあんたでしょ。倒れてからじゃ遅いんだからね」

「そうだよ。琴はひとりで抱え込みすぎ。たまにはあたし達も頼っていいんだからね?」

「…………うん」


真剣な顔で迫る2人に、曖昧な笑みで頷く。

今回の休みも本当に久しぶりだから、余計にそう思うんだろう。

心配ばかりかけて申し訳ない。

でも、本当に壊れそうなくらいに辛くなるまで、2人を頼らないだろうことは私自身が一番よくわかっていた。

そんな考えを覆い隠すように、私は笑って話題を変えた。


「今日お休みだし、朝ごはんは私が作るね。いつも梨香にやらせちゃってわるいもん」

「別にいいのに。そんなの」

「私がしたいだけだから」

言いながら藍の腕から抜け出し、キッチンに立つ。

冷蔵庫を開けたとき、藍の声が聞こえた。


「あ、この人知ってるー。前にバラエティーで共演した人だ」


その声に、決して平凡とは言えない自分の環境を思い出す。

藍は今最も人気のある、本格派バンド、『CANDY』のボーカル。

そして梨香も『希代の新人』と噂される売れっ子作家なのだ。

それに対して私はただの会社員。

普段は学生の頃と全く変わらない雰囲気のせいで忘れがちだけど、ふと思い出すのはこんな時だ。

普通ありえないよね、と思いながら冷蔵庫を覗いた私の動きは、次の瞬間完璧に停止した。


『速報です!今や不動の人気を誇る若手俳優、大西和也おおにしかずや23歳!初のスキャンダルですつ!!』


心臓が、本気で止まったかと思った。


『お相手はなんと!今人気急上昇中の新人アイドル、金谷かなやみずきさん、19歳!昨夜ふたりで抱き合っているところが目撃されたようです。いや〜、それにしても美男美女!お似合いのおふたりですね〜』


テレビの中のニュースキャスターが興奮して話している内容にめまいがする。

うそ…でしょう?

だって、そんなの…


「……琴子?どしたの、大丈夫?」


梨香の心配そうな声にハッと我に返った。

梨香が気付いて心配するくらいに顔に出ちゃってたんだ…。

こんなんじゃダメだ。

心配かけたりしちゃダメ。

私は冷蔵庫から朝食の材料を取り出し、梨香に微笑んだ。


「なんでもないよ、大丈夫。パパッと作っちゃうね。座ってて?」


まだ何か言いたそうな梨香の眼差しを、故意的に無視する。

けれど、一度胸に広がった感情は、治まりを見せる様子が無かった。



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