第六話 Leave me alone!
7/31 更新
浅倉さんの意図しない自己紹介を受けたおかげで俺達は固まっていた。
そりゃそうだろう。悪魔にとって名前とは命と同じくらいに大事なモノ。いや、真名でなくても名乗るということはとっても大事なことなのだ。
古来より『悪魔』というものは人間らによって召喚されてきた。召喚自体は特別なことではない。人間にとっては特別なことかもしれないが悪魔にとってはどうでもいいこと。理由としては、単に自分に利益があるからだ。
こういうのは例えるのが一番楽かもしれない。
そうだなぁ。君が突然、教師に呼び出され、雑用を頼まれるとしよう。雑用が終わると教師がジュースを奢ってくれる。いや、ジュースでなくて成績をおまけしてくれることでも構わない。
どうだろう。気分は良くなかろうか?
悪魔も同じ理屈で召喚に応じて行動する。召喚者から生命エネルギーをとったり、人間の魂を貰えたりするのだ。
しかし、『服従』は違う。これは悪魔にとって最も忌避しなければならないことだ。
服従とは召喚者が悪魔の名前を奪い、自身の奴隷とすることで、悪魔に一切の自由はなくなる。これは一方的な契約だ。名前で縛られたらおしまい。契約者が死ぬ――つまり、真名を知るものがいなくなるまでこき使われるのだ。
いくら時間に興味がないとはいえ、ふざけた召喚者が契約者になれば悪魔のストレスは溜まる。
こういうわけで、悪魔は名前を大事にする。真名だろうと、偽名であろうと名乗るという行為自体が儀式みたいなものなのだ。だから――、
「望月――鷲、です。忘れてください」
「エンヴィー――と申します。忘れてください」
「「「……………………」」」
こういう風に気まずくなるのだ。
「ん? どうしたの二人とも。何で『忘れてください』?」
「「いえ、別に」」
今だけはお互いの気持ちが一致した気がする。元々好かない奴ではあるが、それ以前に俺達は悪魔だ。種族なんてこの際二の次、三の次である。
悪魔というものは基本的にルールに忠実だ。だからこそルールの裏をかいて卑怯な勝ち方をしたりするのだが……それはまた別の話。悪魔にとってルールを破ることは自身にとって汚点でしかない。だからこそ――、
「「――――死にたい」」
「えぇぇ。二人ともどうしたの!? いきなり死にたいとか言っちゃダメでしょ!強く生きようよ!明日は明日の風が吹くっていうじゃない!!」
ああ、えと。俺達は君のせいで、揺らいじゃいけないとこが揺らいでいるんだよ?
Leave me alone!
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