第四話 You’re driving me crazy!
7/29 更新。
洋食店の名前は『Aliquam Paradise』という素晴らしいネーミングセンスを持ち、店の繁盛を願っていない気持ちがどくどくと溢れた気持ちの良いものだった。悪魔の俺にとって心地よいこの名前は、人間にとってあまり好まれぬものではなかろうか。
大通りのハズレにポツンと建ったこの店は、名前に反して少しは客入りがあるようだ。数人の男性客がにこやかに出てくるので、そこまで荒んでいないかもしれない。
「こんちは、店長さん。今日は二人でーす。いつもの席で」
入るなり浅倉さんは席の注文をしだした。ウェイトレスとかはいないのだろうか?
「あら、陽子ちゃん? 二人だなんて珍しいわね。彼氏?」
「違います。同じ講義を受けている望月君です。あ、店長。エスプレッソ大盛りとサンドウィッチ三つお願いしまーす。それとお手洗いかりまーす」
「はいはい」と店長と思われる見目麗しい、二十代後半らしき姿の女性がオーダーをとる。浅倉さんはツカツカと歩いてカウンターへカバンを置き、店の奥の方へと向かって行った。
なんていうか、学校での彼女とここでの彼女は別人に見える。それだけここが落ち着くのかもしれない。そういえば、ここでオーダーを取るのだろうか?
なら俺もここで――。
「っと、そこのクソワシ。猛禽風情が何の用だ」
「あん? そっちの蛇足こそ。こんな穴ぐらで何やってやがる」
「「……………………」」
女は牙をたて、俺は爪を尖らす。
無言で睨み合う俺達。君たちは鳥と蛇は仲が悪いことを知っているだろうか。こうやって対面すると二つの種族の間では喧嘩が勃発するのだ。
十秒ほど経って二人とも元に戻し、己のやることをしだす。女は料理。俺はカウンターへ座る。
「チッ。やっぱりうぜぇな猛禽。テメ焼き鳥にすんぞ、コラ」
「客に失礼だろ。うぜぇのはそっちだ脱皮野郎。皮剥いで財布にすんぞ、コラ」
「あれ? 何やってんの、二人とも?」
もう少し浅倉さんの来るのが遅かったら、ここは廃墟と化していたところだろう。
「なんでもないよ、浅倉さん。だそ――店長さんにメニューを聞いていただけなんだ」
「ええ、そうよ、陽子ちゃん。くそわ――お客さんの注文を聞いていただけなの」
「? そうだったんだ。ごめんね、望月君。あたしここに来るの慣れてたからすっかり気がつかなかった。あ、店長。望月君をよろしくお願いします。あたしちょっと電話してきますから」
「「――行ってらっしゃい」」
浅倉さんを笑顔で見送る俺と女。顔を見やるとどうもいけ好かなくて睨み合う。
「……………………注文は?」
「……………………アイスコーヒーとサンドウィッチ」
You’re driving me crazy!




