第三十二話 「可能性十二、私(達)はフィクションである」
10/4 更新
ここはどこなんだろう。
目を開くと清々しいくらい赤い空が広がっていた。一体あたしはどうなってしまったんだろう。
「わかってるくせに、浅倉さんはそういうことを言う」
え?
「こんにちは、浅倉さん。調子はどう?」
調子は……痛いところはない。概ね良好だと思う。
けど、これはなんなんだ。あたしは殺されたはずで、ここにいる訳がない。
「じゃあ可能性一、死んでいないのではないか」
そんなのは嘘だ。でなければあのやりとりは何だ。
「可能性二、浅倉さんの夢・幻覚では?」
あんなに鮮明な夢があるもんか。五感全てが揃った本物に近い幻覚は、現実と捉えるしかない。
「可能性三、浅倉さんはここにはいない」
ここにはいない……それってどういう意味?
「浅倉さんは今、私、天野恭子が見ている、感じている存在である」
あたしは天野さんの幻覚?
でもあたしには思考力がある。考えているんだからあたしは生きているんじゃ――、
「天野恭子の作り出した幻覚なら、私の脳を借りて思考しているので、それは理由にはならない」
さっきまでのあたしと望月鷲は?
「可能性四、望月鷲も私が作り出した幻覚。それに伴って個別に、都合のいいようにお互いを書き換えた」
何を書き換えるというのだ。
「お互いの存在。幻覚同士、人格の奪い合い」
人格? あたしという人格は今ここに?
「あなたは浅倉陽子。では、2002年時に死亡した浅倉陽子は誰なのか」
それは、昔のあたし?
「浅倉さんがそう思うならそうなのでは? しかし、今の浅倉陽子はだれ?」
今の浅倉陽子は浅倉陽子だ。あたしはあたしであって、何者でもないのだから。
「浅倉家には先天的な超能力が備わっていた。モノを動かし、透視を行い、他人に暗示をかけることができる一族だった」
超能力? そんなものがあるはずがない。そんなのはフィクションの中だけだ。
「可能性五、浅倉陽子の暗示によって、望月鷲に浅倉陽子を作り上げさせた」
ありえない。
「ありえないなら、可能性を挙げればいいだけ。それは簡単なこと」
だって、可能性を列挙するだけであたしを定義できるなんて、信じられない。
「可能性六、浅倉陽子は2002年から死んでいない」
…………。
「望月鷲が死に、自分に暗示をかけて、浅倉陽子は望月鷲を作り上げた。強力な暗示によって支配されていたため、本物としか思えない夢・幻覚を見ていた」
………………。
「可能性七、皆バラバラに生活していて、飛び降りの日に異変が起きた」
そんなことは……ない。その前から自覚していたはず。
「可能性八、浅倉陽子も望月鷲も天野恭子が作り上げた架空の存在で、本当に存在していない」
それは可能性三と四でかぶっている。
「可能性三と四は浅倉陽子と望月鷲を知っていた上での創造。可能性八は全てが私の妄想なのでダブルブッキングはない」
段々と考える力が薄れていく。
「注釈一、本編一から十六までをジズ=フライマが体験していたが、人格の入れ替わりに伴って後半は消滅。オリジナルとほぼ融合」
何が――、
「注釈二、7月27日と8月5日、8月15日、8月16日を浅倉陽子が体験。しかし後半はジズがオリジナルとの融合のせいで、非現実的な記憶を処理する羽目になる」
どうなっている。
「注釈三、本来、望月鷲と浅倉陽子は別々の要素を持ち合わせた人格。自分では出来ないことをほかの人格で行なっていたが、人格交換によってオリジナルを見失い、自殺という形で強制的に人格を殺した」
…………。
「注釈四、全てを知っていたのは坂城陽海である。同時に、可能性九、由衣人と坂城陽海は同一人物である」
坂城君と由衣人が?
「可能性十、由衣人は全てを知っていたはず。しかし、彼自身は2002年時の人間である」
わからない。
「そして、彼も私の妄想の一つである……という可能性十一。どの可能性が浅倉さんにとって好都合?」
そんなの、わからない。
「問題、浅倉さんの世界はどこにあるのでしょう。どの歴史にあなたがいたのでしょう」
そんなの――、
「可能性十二、私(達)はフィクションである」
以上、完結。そして注釈的な話です。
感想の中に「注釈的な話を」、という希望がありましたので書きました。
が、私にはこれ以上の注釈をすることができませんので許していただきたいです。
お読みいただきありがとうございました。
それでは。




