第二十七話 8月6日のこと
9/18 更新
食堂に行くと鷲がケータイをしているのが見える。
「何やってんだろ」
頼んだカレーを持って後ろからのぞき込むと、最近のニュースである飛び降りについてのことを調べているようだ。
「なんだか大出血からのショック死じゃないかって言われてるらしいね、それ。屋上に肉片がいくつも落っこちてたらしいよ。そこらに獰猛な犬かワニでもいたのかな?」
あたしがふざけてそう言うと鷲はス、と頭を持ち上げてこちらを見る。
この表情は誰だろう。陽ちゃんか?
「――――陽海」
「うん、胸のない陽海さんだよ。ちなみに犬のいた形跡はないと思うな。店の近くはゴミ捨て場が遠くあるから動物はもっと離れたとこにしかいかないんだ」
「ワニは流石にいないよね」と付け足しておく。
ここらには川もないし、店の付近でそういう動物を飼っている家はなかったはず……というか、オノキ通りに家という家がないので考えるまでもないか。
「いや、ワニだ犬だって言ったのは陽美の方だから。オレ、何も言ってないから」
「そうだっけ? まぁ、いいじゃん。気にしない、気にしない」
ニコ、と笑ってみせる。
どうやら本物の鷲のようだ。優しい笑顔が胸にしみる。
「ああ、気にしないよ。気にしたって仕方ないからね」
…………微妙に違和感を感じる。
今は誰かわからないのでちょっとカマをかけてみる。
「そういえば、それについて面白い話を聞いたよ」
鷲の目の前の席に座ってあたしは話す。
「その肉片が落ちていた屋上なんだけどね、よくわからないけど鳥の羽が落ちてたらしいよ。鳥の種類は不明で、犯人が意図的に残したものか、偶然、鳥が舞い降りたんだか……そんなとこでしょ。調査次第ではニュースで報道されるかもしれないね」
全部嘘だ。
鳥の羽なんて事件には一度も出てきていないし、自殺なんだから犯人なんている訳がない。
「鳥の、羽。それってどんな形だ?」
「知らない。あたしはただ聞いただけで、噂に過ぎないから、あんまり気にしないように」
そう言ってあたしは持っていたペットボトルを飲む。
自分でもわかるぐらい腕が震えているのがわかる。
「ふうん。形状は不明、か」
そう言って鷲はまたケータイを弄り出す。
…………違う。本物の鷲じゃない。
陽ちゃんならもっとふざけたノリだし、悪魔ヤローならもっと演技かかった喋り方をするからあたしにわからないはずがない。
それでいて今の鷲は本物の鷲に近い雰囲気で話している。
新しい人格……なのだろうか。
「そうそう、不明不明っと――あれ?」
「どうした?」
「いや、あれ」
何か視線を感じると思ったら、絵に書いたような大和撫子がこちらをチラチラ見ている。
こちら――というよりむしろ、鷲のことが好きで、鷲だけを見ているようにしか思えない。
「あの女がどうした?」
「こっちが気になるんじゃない?」
鷲は難しい顔であたしの顔を凝視する。ほかの女の子の視線が痛い。
「なんていうか、鷲のことが好きで好きで死にそうで、鷲と話ができるなら飛び降りてもいいくらい気になってますって雰囲気」
こちらを見られるとは思っていなかったのか大和撫子さんは顔を外の方へ向け、興奮を抑えているようだ。
鷲はそんなにあの女性をじっくり見る必要はないからそのへんで止めないかな?
あの人の体に穴、空いちゃうよ。
鷲のイケメン視姦はそのぐらいの威力を持っているんだから。
まぁ、鷲が誰を見ようがそれはそれで鷲の勝手である。
うん、勝手。
勝手ったら勝手。
勝手勝手。
勝手……だけど……。
「気になるなら声かけてきたら?」
あたしは少々低い声で言う。
「いや、面識はないね。陽海が行ってこい」
「……ッ! いやぁ、このカレーは美味しいなぁ!!」
この鈍感さは昔からの鷲である。
小さい頃から女の子に好かれていた鷲はことごとくフラグをへし折り、小学生から高校生まで数十人が泣かされた。
あたしは鷲の幼馴染で、クラスの女の子の味方として活躍するもその影の頑張りは最終的に無為と散るのだ。
そして同時に、その鈍感さにムカついてしまってカレーをやけ食いする。
だって、そうしないと本気で鷲の顔に拳を叩き込みそうになってしまうから。
8月6日のこと
活動報告でも書きましたが、感想……とはいいません。
批評でも叱咤でも構わないので欲しいのです。
少しでも……ちょっとでも……ちょっぴりでも、です。
皆様、御高閲のほどお願い致します。




