第二十五話 8月16日 ―α―
9/11 更新
「肉体が?」
「そう。だから魂を手に入れるためには肉体ごと食い尽くすしか方法はないわけ。全部じゃなくたっていい。指の一本でも微力だが力は手に入るんだがな」
だからさっきの子は人を食べていたのか…………成程。
「でも、あれは度を越している。人間を救うために人間を殺しているのだから本末転倒。しかも思考回路が無茶苦茶で、これじゃあただの獣だ。天使がああなったら最後、無差別に人を喰い殺す猛獣と変わらない」
それはタチが悪い。
「堕天使になるとその力は天使の時より数十倍にもふくれあがります」
アイスコーヒーを飲み干すと、今度は由衣人が続ける。
「天使はゾンビですから姿は見えます。しかし堕天使はその強大な力を肉体に留めきれず外に溢れ出し、翼を形成します。堕天使のもつ神秘で強大な力が身体を覆っているのですから、通常の人間は認識することができません」
「ああ、だから視えるわけないって言ってたんだ」
「はい」と肯定。
「まぁ、人間でも特殊な力や霊力があれば感知も認識も出来ますし、力の扱いに長け、調節のできる天使もいるので絶対に見えないわけではありません」
「調節のできる天使?」
「調節のできる天使は天使の格上、精霊の類です」
また変なのが出てきた。
これじゃあ混乱しそうだ。そう言うと坂城君がアイスココアを入れてくれる。
やっぱり考えるときには甘いものが一番だ。
「精霊と言うのは堕天使とは方法が違った天使の進化形態です」
「人間を食べないってこと?」
「精霊とは堕天使が人間を喰って力を付けたのとは違い、別の天使を自身に吸収することで力を付けていったモノで、一般的には悪魔と呼ばれます」
何故だ。
「ど、どうして? 悪魔っていったら人間を苦しめるとかなんたらかんたら言う存在でしょ!? ……なのにどうしてッ!」
あたしがまくし立てると由衣人が頭を撫で、落ち着かせてくれる。
「そう、世間一般ではそういう扱いになりますが本来、そういった存在のことを堕天使といい、それに対するのが『悪魔』になります」
「どうして悪魔なんて名前が?」
「それは同族を殺すからです。どんな理由があるにせよ、力を手に入れるため、人間の形をした天使を食べ続けるのですから、そこは堕天使と何ら変わりはありません」
そんなことがあるなんて。
「天使でいたって救える人数には限りがる。人間より少し頑丈だっり身体能力が大きいだけでは救えるはずの人間も救えないことだってある。だから、力を欲して強くなっていくしかなくなってしまったんだよ……悪魔も、堕天使も」
「本当にお節介だ」と坂城君は呟いた。
人間ではない。されど人間にしか見えない彼らは人間を助けるために人間を食べることを余儀なくされ、そして迫害された。
「でも堕天使だって根本は同じなんでしょ? 人間を救いたいっていう意識があるんじゃないの?」
「堕天使に理屈は通用しません。翼はあれど空を飛ぶことはできないのですよ」
「何それ?」
「堕天使は特別です。力を手にした者ほど力に溺れていくもので、堕天使にとっての最優先事項は人間の捕食なのです。もう人間の殺害に快楽を覚えた犬と同じ存在でしょう」
なんだかよくわからないけれどおっかない話だ。
だいたい、あたしに出来ることは何もない。
「これから体制を立て直して堕天使を殺しに行きます」
「出来るの?」
「難しいでしょうが……必ず」
グ、と由衣人は拳を握り締めてカフェの扉を開ける。
「嬢様と” ”は逃げろ」
” ”?
音が聞こえない。
「行くぞ!」
「あ、ちょっと!」
由衣人はあたしの声を聞かず、外に飛び出していった。
「坂城君、由衣人はさっきなんて言ったの?」
「そんなことを話している暇はない。ほら走るぞ!」
さすがに体育会系だけあって足が速い。
自分でもついていけるのが不思議なくらいだ。
「ったく、浅倉は相変わらず運動神経がいいな。陸上やってた俺がギリギリだっていうのは少し悔しいぜ」
「うん、まぁ、自分でもビックリだよ。歩幅が全然違うのにね」
「全く」と二人して頷く。
あとどれくらい走るつもりなんだろう。
「もう少し、あと少しだから我慢してくれ」
息を切らしながら走る走る。
なんだか逃げているのに、まるで追っているような感覚に陥った。
8月16日 ―α―
作者、夏祭那奈緒です。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
報告ですが、この”夏色カフェテリア”はあと数話……と具体的に言いませんが、もう少しで終わります。
「つまんねー話だなぁ、おい!」とか、
「全然意味わかんないですけど……作者馬鹿?」とか、
「どんだけイミフな展開だよ、クソッタレ☆」とかとか。
いろいろ感想はあると思いますが、もう少しだけお付き合いくださいませ。
それでは二十五話でした。




